「もっと幸せに」なりまーす! by奈々
「お父さん、お母さん。」
玄関先で、タクシーを待つ間に私は改まった。
「今まで育ててくれて、…ありがとう。幸せになります!…もっと幸せに…なりまーす!」
涙が出そうになったから、わざと明るい声で言い終わるかどうかで、慌てて玄関を出てタクシーに乗り込んだ。
これから式場に向かうのだ。そう。守のプロポーズから約10ヶ月後の今日、私はこれから花嫁になる。
シートに身を沈めて涙をそっと拭う。
「出してください。」
「お見送りに出てらっしゃってますが、よろしいですか?」
「いいです。」
運転手さんに言われなくても、気づいていた。タクシーの後ろに両親や兄が見送りに出てきていたことは。でも泣き顔を見せたくなくて、窓から顔を見せることもせずにタクシーを発車させた。
式場に着くと、美容師さんたちがお待ちかねで、私はあれよあれよという間に白無垢姿の花嫁姿になった。心配していた日本髪のカツラは思ったほど違和感がなく、鏡に映る私はそれなりの姿になっていて、その姿を見てホッとした。髪飾りや襟元のジルコニアがまぶしい。
「よくお似合いですよ。可愛らしいお嫁さんだこと!」
美容師さんたちも、私の姿に感心しているのか、自分たちの技術に満足しているのか、満面に笑みを浮かべた。
今日はしばらく会えてなかった友達にも会えるので楽しみだけど、こんな姿で会うのはちょっと照れくさいな。
「お友達がいらっしゃっていますが、入っていただいてよろしいですか?」
緊張してきたところへ、式場のスタッフさんの声にハッとする。
「はい。どうぞ。」
誰かしら?もしかして、のり?受付やってるはずだけどな…。
「奈々ー!おめでとう!可愛い花嫁さんねー!」
「あ、ありがとう。受付は?」
「守くんのお友達が、少し抜けて会ってきたら?って言ってくれたの。もうほとんどお客さん揃ってるからって。」
やっぱり、のりだった。変わらない笑顔に緊張がほぐれる。またキレイになったのりがまぶしい。
「のりこそ、またキレイになったわね。」
「そんなことないわよー。なにせ今日は婚活も兼ねてるんですからねー。」
「え?こないだ彼氏できたってLINEで…?」
「妻子持ちだったのを隠してたのよー。引っぱたいて別れてきたわ。」
「そうだったんだ…。」
のりは、LINEでのやり取りの様子だと、相変わらずそこそこモテていて恋人関係の変化が激しいのも相変わらずのようだ。
「でも、良かった。元気そうで。」
思わず目が潤む。そんな私に、のりがいたずらっぽく微笑んだ。
「次は、私の番よ。すぐに追いかける予定!」
のりも目の端にうっすらと涙が浮かんでいる。と思ったら慌てて顔を背けて、また向き直った。
「さて、受付に戻るわね。じゃあ、会場でね。」
のりが慌ただしく出て行ったあとの控え室は再び静かになり、私は鏡の中の私を見つめて深呼吸する。
ー佳き日になりますように。