聞きたいこと。by奈々/by守
逃亡に失敗した私は、椅子に座って、守と向かい合っている。
「ちゃんと話すまで、寝させねーからな。」
「そんなぁ〜。私は病人なのよ?」
頭がまだクラクラしてるのに。和らいだ頭痛だってまた…。熱が上がってきたのかも。
「わかった。熱を測るのを許可してやる。」
守は体温計を渡して、腕組みをする。何がわかった、なのよ?これじゃあ許可というより命令よ。
短い電子音が部屋に響き、表示されている数字を確認して、ドヤ顔で守に渡す。
「病人だって言ってるじゃないの。」
「それとこれは別!横になりたいなら、ちゃんと話せよ。」
どこが別な訳?しかもこれって脅しじゃないの。表示、見た?39.2°Cよっ!
それにっ!守こそ、こないだから歯切れが悪いじゃないの!
「守こそ、こないだから何よ?そもそも、バラを…。」
「ぅわ〜!わかったよ。ね、寝てなさい。熱がまだ高いんだもんな。ホラ、ベッドまで連れてくから。」
あっという間にお姫様抱っこをされて、今度は強制連行。なんなのよ?
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奈々の沈んだ表情の理由を聞こうとしたら、見事に切り返されちまった。心配だけど、かといって交換条件のように改めて“お目覚めのキス”のことを話すのも抵抗があったので、奈々を強制連行してごまかした。しかし、奈々のことは心配だし。
どうしよう?心配ごとの解決には、俺が口を割るのが手っ取り早いんだろうか?
しかしなあ。どう切り出せばいいんだよ。さっき、目を覚ましたときに言えなかったことが悔やまれる。あ。もしかして。実は子供が苦手とか?いや、そんなことはないぞ。親戚のちびっ子たちと遊んでいるのを何度も見ているしな。オムツ換えがイヤ?それならできるだけ俺が換えてやるぞ。く、臭いかもしれないけど、換えてやるぞ。それとも、俺って頼りねーとか?何でも話してくれて、頼ってくれていると信じて疑わなかったけど、もしそうだとしたら?
俺の気持ちはどんどん下降線をたどっていく。聞いてみないとわからねーことなんだけど、聞くのがこわい。
気がつくと俺は寝室の前まで来ていて、ドアをノックするべく、手の甲をドアに向けて立っていた。今は起こしちゃダメなんだ。でも、気になる。あ。そうだ。薬を飲んだのか聞いてみることにしよう。キウイフルーツも持っていこう。
キッチンに戻り、キウイフルーツの皮をむいて、スライスすると、器を選ぼうと棚に目をやった。
「あ、これ…。」
奈々の選んだ食器が並ぶ中、目についたのは、ル・クルーゼのココット皿。結婚前から少しずつ買い揃えていたものの中に、俺がずっと前にプレゼントした色違いで揃えた、ひときわ小さなココット皿だ。ちゃんと持っていてくれたんだ。もう実家で使っていると思っていたから、持ってきていたことは知らなかった。当たり前のようなことなのに、頬が緩むのがわかる。その中から白いものを取り出す。シンプルな白はキウイフルーツのグリーンによく合いそうだ。
トレーに、キウイフルーツの入った白いココット皿と水の入ったグラスと薬を乗せて、寝室へ向かう。俺はドアの前で大きく息を吸い込んだ。なあ、奈々、俺は頼りないか?