放して〜。by奈々
久しぶりのお姫様抱っこに嬉々としてリビングに移動する。
ダイニングテーブルの椅子に座ると、守が買ってきてくれたアイスやプリンを並べた。どれも私の好きなものばかりだ。頭痛を一瞬だけでも忘れられそう。
「わー。どれにしよう。」
「どれでもいいよ。あ。期間限定のは、一個は俺のな。」
「うふふ。ありがとう。」
じゃあ、と期間限定のアイスを選ぶと、守も期間限定のもう一個を手に、残りは冷蔵庫に戻した。
いそいそとフタを開けてアイスを口に入れると、ひんやりとした感触が心地よい。生き返るー。
「少し元気が出たみたいだな。よかった。」
守がホッとした表情を浮かべた。守、いつでも優しいな。
「さっき、ホントにごめんね。」
「そんな。俺も悪かったし。そんなにお粥がキライだなんて知らなかったんだ。奈々の好きなものはコンプリートしていたつもりだったのにな。」
恥ずかしそうに守が微笑った。そう。守は高校生の頃から、私の好きなものを常に把握していて、好みが変わったり、新しくお気に入りになったものも、よく覚えていてくれている。
「ところで。こんな時に言うのもナンだけどさ。そろそろ子どものこと、考えねえ?」
「ホントにこんな時に、って話題ね。いつできてもおかしくないはずよ。い、今からエッチするなんて言わないでよ。」
真顔で言う守に、アイスでむせそうになりながら言う。むせると頭に響くじゃないのよ。
「わかってるよ。しかし、そうだよな。いつできてもおかしくないよな。」
そうよ。新婚早々から避妊なんてしてないんだから。
「早く、奈々がもう一人欲しい。」
「はぁ?」
「奈々にそっくりな女の子が欲しい。」
「似てなかったり、男の子だったらどうすんのよ?」
「あ。それでもいいな。」
楽しそうな様子の守を見ていると、ちょっと複雑になってきた。子どもができたら、守にこんな風に甘えられなくなるのかな。私だけの守じゃなくなっちゃうのかな。ちょっとさみしいな。
「どうした?また気分悪くなったか?」
考えていたら表情が沈んだらしく、守が心配そうにのぞき込んできた。
「ううん、なんでもない。」
ごまかすようにアイスをすくって口に放り込む。
「それがなんでもないって表情かよ?お前、こういう時はかなり心配ごとがあるだろが。」
う…。守はいつも鋭い。ここまで観察されていると、愛されている実感はあるものの、この人は探偵にでもなれるんじゃないかといつも思う。
「さて、ベッドに戻るね。」
しかし、そんな子供じみた本音を話すのも、どうかと…。よし、病人らしく逃げよっと。
「ちゃんと話してくれよ。」
そそくさと席を立とうとすると守に手をつかまれた。放して〜。話したくないの。