お姫様抱っこ。by守
キウイフルーツの入った袋を持って、コンビニに向かうことにした。キウイフルーツはありがたいけど、自分で何か見繕ってやりたいんだ。お袋の気持ちをありがたく受け取りたかったし、そして俺も奈々の好きなものを選びたいと思ったから。
「さて、と。」
コンビニの中を歩いてみる。何が良いかな。スナック菓子やチョコレート、クッキー。普段なら喜びそうなものはたくさんあるけど、今はその手のものは喜ばないだろう。そうだ。スイーツにしよう。プリンも良いかな。ミニパフェは重いかな。
「あ。そうか。」
アイスという手があったな。アイスなら抹茶が一番好きだな。それともジェラートのほうが口当たりが良いだろうか。アイスキャンディのほうが…。アイスなら、抹茶は外せないにしても、期間限定も捨てがたい。期間限定モノなら俺も食べたいぞ。
「あ…。」
思いつくままにポンポンとカゴに入れていったらカゴがいっぱいになっちまった。さすがにコレは多すぎるな。消去法で減らしていく。
最終選考に残ったのは、抹茶アイス。ソーダ味のアイスキャンディ。期間限定のアイス、餅入りのきなこ味とゴマ味、焼きプリン二個。そして、昼飯用のサンドイッチと、チョコレートコーティングのされた、ホイップ入りのパン。奈々がホイップものが好きだから。
「ただいま。」
帰ってくると、リビングにはいない。寝室に様子を見に行くと奈々がスヤスヤと眠っている。額に手を当ててみると、まだ少し熱いが、先ほどのようなしんどそうな表情ではない。よかった。
「ごめんな…。」
小さな声で言ってみる。そして、直人の言葉を思い出した俺は唇を重ねた。熱っぽいが、小さくて形の良い唇は、ずっと触れていたいくらい癒される。思わず舌を入れそうになった。
「ん…。」
奈々の様子に思わす唇を離した。
いかんいかん!病人にそんなことをしては!
「お帰り…。」
うっすらと目を開けて小さな声で言う様子は弱々しい。先ほどみたいに怒る元気もなさそうだ。
「ただいま。」
俺はもう一度、今度はそっと唇を重ねる。
「感染るよ…。」
「大丈夫。ところで、何か食うか?アイス買ってきたぞ。キウイフルーツもあるぞ。」
「ホント?!」
目が少しだけ光を帯びた。
「起きる?」
手を伸ばすと、俺の手を取ってゆっくり起き上がる。まだ手が熱い。
起きあがった奈々をそっと抱きしめ、頭の上に顎を乗せる。だらんと腕を垂らしたまま、じっとしている。
「どうしたの?」
「ごめんな。お粥…。」
「私こそ、ごめん。」
力ない腕が俺の腰に絡みつく。てのひらで背中をポンポンとたたくと涙声が聞こえた。
「心配かけてんのに。頑張ってくれてるのに、怒ってごめん。」
「俺こそ、お粥がそんなに嫌いと思わなくって、お粥を食べさせてみたいとか、頑張らなきゃとか、その…。奈々の気持ちとか体調が最優先なのに、ごめん。」
謝りながら、お袋の話を思い出す。俺も親父と同じことをしようとしていたんだということ。親父もやり方を間違えながらも自分にできることを模索していたんだろう。
「そうだ。買い物に行こうとしたら、お袋に会って、キウイフルーツを分けてくれたんだ。だからあとはコンビニで奈々の好きそうなものを見つくろってきた。」
「そうなんだ…。アイスは何があるの?」
「見てのお楽しみ。」
「じゃあ、連れてって。」
奈々はそう言うと、両腕を伸ばしてお姫様抱っこをせがんだ。
「仕方ねー奴だな。」
照れ隠しにそんなことを言いながら抱き上げると、笑顔で俺の首に腕を巻き付けた。よかった。奈々がいてくれて。
奈々の声が階下に聞こえていたことは、黙っておこう。