看病。by守
参ったな。俺って家事スキルなさ過ぎか?洗濯は完全にダメ出しだったな。昼メシで挽回するぞ。
「大丈夫?私、食欲ないからフルーツでいいし。守も疲れちゃうでしょ?」
ベランダでうなだれて洗濯物を直していると、ソファーに横たわっている奈々が言った。
そんなこと言わずに俺に活躍させてくれ。俺は常にお前には頼られる男でいたんだ。それに、やっぱり子供ができたときのことを考えると、このままじゃ奈々が安心して子供を産めないじゃねーか。
「じゃあ、お粥作ろうか?」
「お粥キライ。フルーツ食べたいの。」
奈々が顔をしかめる。俺のお粥、食べてみてくれよ。洗濯しながら作り方を調べたんだぞ。
「そんなこと言わずに…。」
「じゃあ食べない!フルーツしか食べない!」
「そんなにイヤなのか?」
「そうよ。雑炊は好きだけど、お粥はキライ。それに今はフルーツがいいの!」
なんだか強情だな。調子が悪いせいか?残念だな。
「フルーツ買ってきて。イチゴかキウイか、グレープフルーツ!」
スマホを名残り惜しんで見ていると奈々の声が飛んできた。昨日より元気があるけど、なんだか怖い。
「もういい!自分で買ってくる!」
奈々は激しい口調とは裏腹に、重々しく立ち上がり、ヨロヨロと歩き出した。急に機嫌が悪くなってね?
「おい!やめろよ。俺が行ってくるから。」
歩く奈々を抱きとめる。明け方よりも体が熱くなっているぞ。ベッドに連れて行かないと。あっと。熱を測るのが先だな。
ジタバタするのを無理やりベッドに寝かせて熱を測ると、昨日と同じ体温が表示された。
「やばい。」
「何が?」
不機嫌な声で返す奈々に体温計を見せると、苦しそうに目を閉じた。
急に機嫌が悪くなったのは熱のせいか?
「うー…。お粥、イヤー…。」
苦しそうにうなる奈々の目が潤んできた。
「泣くことねーだろ?子供じゃあるまいし。」
「泣いてない!もういい!」
奈々は布団にくるまって俺に背を向けた。
なんだか凹むなあ。あんなに怒ったことなかったのに。果物を買ってきたら機嫌が直るんだろうか?
怒られたショックと、怒らせてしまったいたたまれなさから、家に居るのがつらい。果物のこともあるし、出かけるとするか。
そっと寝室のドアを閉めてから、ダウンジャケットを羽織り、バックパックを斜めに背負って玄関を出ると、お袋が立っていた。
「あら。珍しいわね。一人で出かけるの?」
「ああ。奈々、インフルエンザで寝てるから。」
「まあ、大変じゃないの!そばに付いていなくても良いの?」
思わず大きな声を上げるお袋に向かって、俺は声をひそめる。
「寝たところだから。今のうちに果物買ってくる。」
「まあ、そうなの?ところであなたも調子悪いんじゃないの?元気ないじゃないの。」
お袋も俺に合わせて声をひそめた。
「いや、その。ちょっと…。」
「立ち話も何だから、階下でお茶でも飲んで行きなさいな。」
「早く買いに行かないと…。」
そんな俺の言葉を聞こえてないのか、お袋は玄関ドアを開け、俺の腕を引っ張って無理やり階下のスペースに引っ張り込んだ。
「まあ、いいから。適当に座って。」