寝てられない。by奈々
「セーターが小さくなった。」
夜中ずっと頭痛に苦しんで、やっとウトウトしだした翌朝のこと、守の言葉に目を覚ますと小さなセーターを手にした守がベッドの隣に立っていた。見覚えのある色合いに思わず言葉が出た。
「それ、こないだ買ったばかりのじゃ…。」
「コーヒーこぼしたから洗ったら小さくなった。」
「まさか普通モードで?洗剤は?」
「スイッチ入れただけ。洗剤は一番手前の白い大きな容器の。」
ああ、やってくれたわね。スイッチ入れただけってことは普通モードだし、その洗剤はドライマーク用じゃないんだもの。まさかセーターを洗うなんて思ってなかったから、普通モードのことしか教えてなかったのよね。しかも、つい先日、私が守にお見立てした一枚。
「ああ、ショック…。」
「ごめん。買ってくれたばかりなのに。俺も気に入ってたんだけど。」
しょんぼりしている守の顔を見ていると怒る気にもなれないなあ。
「セーターを洗うなんて思ってなかったから、ドライモードのこと言ってなかったもんね。」
仕方ないわよね。
「ごめん…。」
「他の洗濯物は大丈夫?」
「干したよ。ところで洗濯バサミってどこに使えばいい?」
え?どういう意味?
守の制止を振り切って起き上がる。ヨロヨロとベランダまで見に行くと、すごいことになっていた。タオルがすごい状態で竿にひっかけてある。ティーシャツやパーカーにいたってはハンガーにぶら下がるように引っ掛けられていた。風がないからよかったけど、コレ、全部飛んだら近所迷惑だし、超恥ずかしいんですけど!これじゃあ寝てられないわ。ジーパンなんて、そのまま竿に乗せてあるし。思わず洗濯バサミの入ったバスケットを手にベランダに出る。
「教えてくれたら、あとは俺がやるから。」
守の声を背中に聞き流し、洗濯物を広げて干しなおす。これじゃあ一生乾かないわよ。タオル、ティーシャツ、パーカーとハンガーにかけ直し、ジーパン用のハンガーを手にしたときだった。ふわりと体が軽くなった。
「もうベッドに戻って?今のを見てだいたいわかったから。」
守に後ろから抱き上げていたのだ。ジタバタしてみても力が入らないまま、室内に連れて行かれる。
「これからのために、慣れねーと。」
「これから…?」
そっとソファーに下ろされた。そして守も隣に座る。見ると、モジモジしている。
「その、子供ができたときの予行演習だと思って家のことをやるから、だから今日は寝てて。」
「子供?」
「今回は、たぶん違うだろうってことだけど、今の俺の家事スキルじゃ、そのとき困るだろ?メシも俺が作るから。だからほら、これ飲んだらベッドに戻って。」
麦茶の入ったグラスを渡される。そっとグラスに口をつけると、肩に守の腕が回され、抱き寄せられた。
「奈々が安心して子供を産めるように頑張るから。」
そんなこと、もう考えてくれていたんだ…。
グラスを両手で持ったまま、守の胸に頭をあずけると、優しいキスが降ってきた。
「感染るよ?」
「平気。」
そう言ってまた唇を重ねる。初めてキスした夜も、ホテルのソファーでこうしてくれたっけ。ずっとこのまま一緒にいたいって、あの時思ったのよね。
不思議だな。こうしていると、頭のズキズキも和らぐ。ベッドよりも、ここでこうしていたいな。