心配するな。by守
「奥様、妊娠の可能性は?」
「え、いや、その…。」
「あるんですね?」
担当医の言葉に口ごもる。そうだ。照れなくていいんだ。べ、別にエッチした日を聞かれてるわけじゃないし!
「はい…。」
奈々はぐったりしているので、カーテンの向こうのベッドに移動して、俺が代わりに問診を受けているのだ。
「インフルエンザの検査をして、もし陽性の場合は、なるべく影響の出ない薬をお出しします。」
「あの、その場合は…。」
「100パーセントとは言い切れませんが、インフルエンザそのものが胎児に影響することはほとんどありません。咳や下痢が胎児の負担になる場合はありますが。」
胎児への影響については少し安心したけど、安全とは言い切れない。ああ、俺がおかしなことを言ったばかりにこんなことに。
「妊娠の検査は、していただけるんですか?」
「はい。しておいたほうがよさそうですね。」
子供は欲しい。けど、インフルエンザだったらどうしよう?安全とは言い切れないんだぞ。でも、子供かあ。俺が赤ん坊を抱く姿なんて想像つかねーけど。でも…。
「陽性反応が出ました。A型です。妊娠に関しては陰性でした。ただ、100パーそうでないとは言い切れないので、薬は影響の出ない薬にしておきます。」
数分後に俺は別室に呼ばれ、医師にそう告げられた。ホッとしたような、少し残念なような。
不安なら一晩だけでも入院しても良いと言われたが、連れて帰ることにした。熱い菜々の体を支え、車椅子に乗せて駐車場まで移動する。
「どうだった?」
「インフルA型だって。熱が下るまで安静だな。何か食えるか?」
「食べたくない。」
食いしん坊の菜々が力なく答える。相当しんどいんだな。病院に着いてからの検温で40℃超えてたもんな。
「ごめんね。」
倒した助手席から奈々が言う。何も謝らなくていいのにな。家のことは、俺がなんとか、できるだろう…。できる!大丈夫だ。
「心配するな。洗濯くらい俺だって。」
「やったことないじゃない。」
「う…。いや、その、大丈夫だから。とにかく寝てろよ。」
この高熱の中、そんなことまで心配するな。俺も心配だけど。奈々のご指摘のとおり、俺は洗濯をしたことがないけど。なんとかなるさ。