変わらないなあ。by奈々
守の言葉に昨夜のことを思い出して、顔が熱くなった。そういえば、あのまま下着を買いに行って、バラの花も閉店間際の花屋さんに飛び込んで調達して…。そして、そのまま寝ちゃったのね。
しかし、守の考えていることは解決していない。赤くなって口ごもる守に、今度は私が問いかけた。
「じゃあ何?」
「いや、その…。」
「はっきり言ってよ。一日中、悩んだんだからね。」
くしゅん!言っているそばからくしゃみが出た。風邪ひいたかな。
「あー。やっぱり風邪ひいたんじゃねーの?」
「ほっといて!」
恥ずかしさともどかしさで席を立つ。シャワーでも浴びよう。ちょっと寒いけど、あんな程度で風邪をひいたりするはずないわ。シャワーで体を温めたら大丈夫よね。
「大丈夫?顔が赤いよ?」
シャワーを浴びてから、ソファーでなんとなく横になっていると、守が顔を覗き込んできた。そういえばちょっと頭が痛いような…。
「そうかな…。」
とは言ってみたものの、頭痛が少々。そっと守の手が額に当てられる。その手が冷たく感じる。
「熱いよ。測ってみたほうがいいよ。」
体温計を渡されて脇にはさむ。すぐにピピピっと鳴ったと同時に守の手が伸びてきて、体温計を奪うように取り出す。
「やっぱり…。あんな恰好で寝てるから…。」
「何よ、もう。」
守の手から奪った体温計の数字は38.0℃を表示している。あんな恥ずかしいことをして、ホントに風邪ひいちゃったんだわ。情けない。熱があるとわかったら急に頭がズキズキしてきた。
「ほら、病院行くぞ。」
車のキーを手にした守に手を取られて立ち上がる。
「ねえ、さっきの話の続き…。」
「ん?」
病院へ向かう車の中、運転する守に話しかける。熱はあっても気になるじゃない?あんなコトまでしたのに、守の求めているものは違ったんだから。
「とぼけないで。私に何を求めているのかって聞いてんの。」
助手席のシートを倒している状態で、運転席を斜め後ろから見上げると、学生のころと変わらない守の横顔があった。あの頃も、いつも私の体調を気にかけてくれてたっけ。
「え、いや、その…。今度話す。」
「今度っていつよ?」
熱でぼーっとしながらも、思わずくってかかりそうになると守がうろたえだした。
「こ、興奮すると熱が上がるぞ。」
「誰が興奮させてんのよ。」
「いや、その…。」
また口ごもって黙ってしまった。意味不明だわ。
「あ。着いたぞ。歩けるか?しんどいなら車椅子を借りてくるけど。」
無言の数分間ののちに病院に到着した。休日診療をやっている総合病院に来たのだ。
「う…。歩ける。たぶん。」
話をはぐらかされるし、頭はどんどん痛くなるし。シートから体を起こすと頭がグワングワンした。
「待ってろ。やっぱり車椅子を借りてくる。」
守が走っていく。確かにこのヨロヨロの状態で歩くのはつらい。私が車椅子を使ってよいのだろうかという気持ちもあるけど…、などとためらっているうちにガラガラと音を立てて、守が車椅子を押してやってきた。あれよあれよという間に乗せられ、車椅子の振動を頭に感じているうちに受付前に着くと、守が受付を済ませている。思えば高校生の頃からいつも、守に“お守り”をされてきたんだわ。ずっとこれも変わらないなあ。