085エピローグ
(エピローグ)
松葉杖をついての登校はひどく億劫だった。とはいえ二学期初日、授業に取り残されないようにするにはその倦怠を押しのけて学び舎に足を運ばなければならない。
「僕が支えるよ」
純架は「ただし一回100円で」と銭ゲバなところを見せた。
「それにしても色々あったね、夏休み」
「ああ。人から命を狙われたしな。それも何回も」
「何度も窮地に追い込まれる代わりに、そこから必ず生還する。悪運の語釈を改定しなきゃならないね」
俺はギブスを宙に浮かせながら、次々杖を繰り出す。
「そういや同好会に認可されて、今日から空き教室を使えるようになったんだっけ」
純架は大きく、嬉しそうにうなずいた。
「そうそう、楽しみだね! これで根無し草だった『探偵同好会』も心の安らぎを得られるってものさ」
授業のない日とあって、1年3組の生徒たちはリラックスムードだった。担任の宮古博先生はすっかり日に焼けている。まだ夏休みの余韻に浸っている、眠たそうな目つきだった。
ホームルームが終わると、早速純架は職員室に鍵を取りに行った。羽毛のような足取りの軽さだ。やがて戻ってきて俺と奈緒、英二と結城を連れ出す。日向は新聞部で今日は来られない。
部屋は木造の旧校舎3階にあるらしい。新校舎とは連絡通路で繋がっている。純架は意気揚々と大手を振って、先頭に立って進んでいく。悩み事のかけらもない我が会長。
鼻歌を歌いながら、純架は元は1年5組として使われていた教室の前に立った。鍵を開ける。
「さあ、ようこそ! 『探偵同好会』本部へ!」
まるで歌劇の主役のように悠然と、純架は扉を開いてみせた。
「……あれ?」
教室はがらんとしていて、先生が持ち運んでくれたのであろう、最低限の机と椅子だけが用意されていた。それだけならまだいい。
「君、誰だい?」
見知らぬ少女がこちらを向いて、平然と佇立していたのだ。彼女は言った。
「あたしは1年5組の白石まどか。よろしゅうな」
まだまだ続きます。




