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049生徒連続突き落とし事件05

「辰野さんの仇はきっと討つよ」


 純架はそう言うが、今回の件は犯人の手がかりがまるでない。不埒(ふらち)な悪漢に相応の(むく)いをくれてやるには点しかなく、繋ぐ線は描けそうになかった。


「可愛いとか言うな!」


 急にいら立たしげな声が後尾で発生した。数人の女子と話していた三宮英二が、相手の物言いを一刀両断したらしい。


「俺は男だぞ! 男に言うべきは『可愛い』ではなく『格好いい』だ!」


 怒号を浴びた女子はすっかり引いてしまい、怖がって離れていった。どうやら英二は自身の特性を認めたくないようだった。俺だったら、たとえ『可愛い』でも、好いてくれたらめっけものだと思うのだが。


 菅野結城の方は相変わらず英二の影に寄り添い、何くれとなく世話をしているようだ。


「英二様、彼女は好意でおっしゃっただけですわ。そう怒らず」


「……分かっている。ただ他人に対して尊敬の念を抱かず接触してくる連中がうざいだけだ。これだから女という奴は……」


 残った女子が改めて話題を振り直す。


 俺は「英二が犯人ではないか」との純架の言葉を脳裏でもてあそんだ。階段から転落した二人は揃って女だ。英二犯人説がより一層具体性を帯びてきたように思える。動機は「女は自分に対し尊敬の念を抱かないから」だ――


 俺は首を振った。誤断でないとは言い切れない。自分が純架をさとしたように、証拠はまるでないのだ。




 その放課後。俺と純架、奈緒の三人は、欠席明けの日向が3組に到着すると、早速『探偵同好会』ミーティングを開始した。


「三宮さんを同好会に迎える?」


 日向は驚いた。奈緒も負けず劣らず仰天している。


「あの生意気なちびっ子を?」


 おいおい、英二がこの場にいたら殴られるだけじゃ済まないぞ。純架が説得を開始した。


「飯田さん、辰野さん、話は簡単なんだ。辰野さん手製の新聞記事や、美術教師の金近先生謹製(きんせい)の第三のチラシをもってしても、未だ新入会員は現れない。現れないまま夏休みが来ようとしている。これはゆゆしき事態だね」


 奈緒は難しい顔だ。日向は熱心に聴いている。


「それで三宮君だ。彼はこの学校に来てから部活動にも加入せず帰宅部を貫いている。どうも先輩方の支配下にその身を置きたくないらしい。それはともかく、彼は自由な身なんだ。『探偵同好会』に加わってくれそうな人物として、これ以上はないように思える」


 純架は女子二人を見渡した。


「そして、これは楼路君と確認したんだけど、彼はなかなか筋がいいようなんだ。謎を追及する姿勢というのかな、そういった気概(きがい)が備わっているように感じてね。どうだろう」


 話を結ぶ。


「三宮君に誘いをかけるというのは。もちろん断られるかもしれないんだけど」


 俺は胸中複雑だった。英二犯人説の提唱者である純架は、もうその辺はすっかりうっちゃって、純粋に英二を『探偵同好会』に引き入れようとしている。どういうことだろう?


 俺の顔色から心中(しんちゅう)を読み取ったように純架が解明した。


「何、楼路君、三宮君を監視する意味もあるんだよ」


 俺は合点(がてん)がいった。そうか、そういうことか。もう二度と女子突き落としをさせないための重石(おもし)として、今回純架は『探偵同好会』に英二を抱き込もうとしているのだ――彼が真犯人だった場合を考慮して。


 奈緒は困惑の生ける絵画と化した。


「三宮君を巻き込む、ねえ。私は反対かな。同好会設立のために新入会員は欲しいけど、そうだなあ……今の4人体制が一番しっくりくると思うし。日向ちゃんはどう?」


 日向は肩をすくめた。


「私は三宮さんをあまり存じ上げせんが、それでも悪評は耳に届いています。やたら他人に突っかかる癖があるとかで……。私としては正直、桐木さんにお任せしたいところです」


 純架は手近な机の上に立つと、壁の一方向を指差し、「ボーイズ・ビー・アンビシャス!」と叫んだ。そして「バン!」とのたまって指を跳ね上げ、鉄砲を撃つ真似をすると、彼にしか見えない銃の硝煙(しょうえん)を息で吹き飛ばす。沈黙の中、純架は満足した表情で再び着席した。


 クラーク博士に謝れ。


「じゃ、誘っちゃおう。今日の重要案件は、これでおしまい」


「帰りましょうか」


 俺たちはそれぞれ鞄を手に立ち上がった。


 と、そのときだ。


 (きぬ)を裂くような悲鳴が鼓膜を震わせ、次いで硬い物が衝突するような音が轟いてきたのは。


「何だ?」


 俺たちは立ちすくんだ。一人純架だけが、鞄を放り出して教室から駆け出していく。


「行きましょう!」


 日向の声に呪縛を解かれ、俺たちは皆走り出した。1年3組を後にし、純架の背中を追う。純架は階段から二段抜かしで下りていった。俺たちは懸命に続く。


 そして2階と1階の狭間にある中間踊り場が見えたとき、俺たちは愕然(がくぜん)となった。黒髪でツインテールの女生徒が、膝を押さえて横倒しになっていたのだ。先に着いた純架が険しい表情で介抱している。息を切らした様子もなく、俺たちを見ると請願(せいがん)した。


「大至急先生を!」


 俺はうなずいて職員室へ向かった。現場の状況からいって、女生徒が階段を転落したのに間違いない。これで畑中先生、日向に続いて三人目だ。一週間に三人。こんな異常は人的被害としか考えられない。つまり、この学校にはやはり、突き落とし魔が存在するということだ。




 その後、俺たちは職員室で教師陣に状況を報告した。先生方からの情報で分かったこともある。落ちた生徒は天音永久(あまね・とわ)といい、1年2組在籍だ。教室で友達数人とお喋りに興じた後、一人先に帰ろうとして、何者かに突き落とされたらしい。彼女は先生の車で渋山台病院に直行した。膝の骨が折れている可能性があるという。


「ここまで来て隠し事は出来ないだろうね」


 帰り道、純架は予測した。


「今まで学校側は、校内に突き落とし魔がいるなんてことを認めるわけにはいかなかった。監督責任を問われるからね。だから畑中先生は『自分で転落した』と嘘をついていた。でも畑中先生、辰野さん、そして天音さん。転落者が三人も出てきたら――しかもうち二人は突き落とされたと証言している――、さすがにもうごまかしは効かないだろう。明日にも全校集会が開かれるに違いない。これから渋山台高校は、事件に対する正確な対応を迫られることになるだろうね。校長先生なんかは泡吹いて倒れるかもしれないよ」


「やっぱり犯人は三宮なのか?」


 純架は慎重だった。


「今日は放課後早く帰ったようだし、今回は関係なさそうだね。だからといって全面的に白だとはまだ決め付けられないよ。黒だと断定できないようにね。それにしても振り返ってみると、辰野さんは運が良かった。抱えていたゴミ箱がクッションになって、打撲(だぼく)で済んだんだからね」




 翌日、純架の予言したとおり、渋山台高校は緊急全校集会を開いた。前谷翔一郎まえたに・しょういちろう校長自らがマイクの前に立って説明する。


「ゆゆしいことに、この一週間で三件の突き落とし事件が発生しました。犯人はまだ特定できておりません」


 全生徒がざわめく。いつもは校長の長ったらしい話など左の耳から右の耳へ素通りさせていた人々は、この異常事態の到来に軽く興奮しているようで、熱心に次の言葉を待っているようだ。


「畑中先生、1年1組の生徒、1年2組の生徒。いずれも階段を下りようとするところを背後から押されて転げ落ち、打撲、あるいは骨折の傷を負いました。全校生徒諸君、特に下の階へ移動するときは背後に気をつけてください……」

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