307エピローグ
(エピローグ)
「終わったーっ!」
『秘密倶楽部』事件解決から1週間。期末テストが終わり、俺たち『探偵部』は目前に控えた夏休みを指折り数えていた。
俺の心からの叫びに、奈緒がくすりと笑う。
「また今年も色々遊ぼうね、楼路君!」
「でもまだ怪我が治りきってないからなあ。どっかの山荘にお邪魔して、森林浴といきたい気分だよ」
英二が誠に片手を握られたまま嘲笑する。
「なら三宮財閥の山荘に来るか? 言っておくが去年の奴じゃないぞ。もっと豪勢で快適なものだ」
誠は幸せそうに微笑んだ。
「俺は英二のそばにいられるならどこにでも行くよ」
結城は無感情な顔を崩さない。もうすっかり英二と誠の関係にも慣れきって、ただ英二の専属メイドという役割を果たすロボットと化していた。
「皆さんがいらっしゃるのであれば、こちらも準備いたしますが」
真菜が賛成した。
「行きたい行きたいですです! 純架様、一緒に行きましょう?」
純架は2年1組の黒板にでっかく『金が欲しい』と書いていた。
さっさと消せ、恥ずかしい。
「そうだね、じゃあみんなで英二君の山荘にお邪魔になりに行こうか。後はどうしよう? 去年は行く先々で事件に巻き込まれたけど、今年はすんなり夏休みを満喫したいね」
健太は昼飯を全力で掻き込んでいる。
「おいらは泳げないんで、練習がてら海に行きたいです!」
朱里はぱちんと指を鳴らした。
「いいねえ。オレの水着姿、見てみたいだろ、楼路」
「何で俺に振るんだよ」
朱里は『秘密倶楽部』事件以降、俺に対する絡みをソフトなものに変更していた。どういう風の吹き回しだか知らないが……
日向が久々に愛用の紅色デジカメを操作している。
「『探偵部』の皆さんのオフショット、記念に一杯撮りたいですね。ねえ、桐木さん」
「そうだね、辰野さん。よし、今年の夏も大いに騒ぐぞ、えいえいおー!」
皆は純架にならって控え目に拳を突き上げた。
俺は渋山台高校二度目の夏休みに、早くも心躍っていた。
こいつらとなら、楽しくならないはずがない。
俺は完治していない傷の痛みを実感しながら……
人生の面白さに、無垢な恋情を抱くのだった。




