028エピローグ
(エピローグ)
5月28日日曜日、『探偵同好会』の会合があった。といっても俺の家に集まって、菓子をつまみながら馬鹿話に花を咲かせるだけだったが。
親父と兄貴が東京へ引っ越していったため、我が家は急にがらんとなった。こうして人を入れてないと寂しくて胸が張り裂けそうだった。
「そういや新聞部は今回の『タカダサトシ』事件をどう扱うんだい?」
純架が抹茶バームクーヘンを食しながら日向に尋ねる。相変わらず美しい顔だ。日向は微笑んだ。
「校内新聞といってもA4縦書きで4ページ――つまり一枚の紙しか使っていません。学校行事の特集や校長先生の話とかを載せたら、もうほとんど埋まってしまうんです。それでも私は諸先輩方を説き伏せ、どうにか半ページを押さえることに成功しました。ここに『探偵同好会』が扱った各種事件を掲載するつもりです。で、お話の『タカダサトシ』事件ですが、これはあまりにも複雑すぎるし、暴力の臭いがするので触れないつもりです」
「なんだ、つまんない」
純架はごろりと仰向けに寝転がった。そのままの状態で口を動かす。日向は苦笑した。
「それでも今のところ四人の『探偵同好会』が新たな会員を獲得できるような、そんな魅力的な記事を書くつもりですよ」
奈緒がはしゃいでいる。
「わくわくするね、日向ちゃん」
奈緒は無理矢理同好会に入会させられたわけだが、そのことに関する不平不満は聞いたことがない。それなりに面白さを見出しているのだろう。
純架が起き上がった。アイスティーをストローで飲む。唐突に言った。
「ちょっと聞きにくいこと、聞いてもいいかい?」
俺はいぶかしんだ。
「何だよ、改まって」
純架は蚊の鳴くような声を出した。
「君らは僕の友達と考えていいのかね?」
俺たち三人は気抜けした。
「あれ、お前、俺たちを何だと思ってたんだ?」
「私たち友達でしょ?」
「桐木さん、今更何をおっしゃってるんですか? 水臭い」
純架は頬をほころばせた。
「何だ、良かったんだ。友達とみなして……。僕は今まで友達というものを持ったことがなかったから、おっかなびっくりだったんだけど」
俺は純架の髪の毛を掴んでかき回した。
「大将、よそよそしいこと言うなよな。俺たちは仲間さ。皆お前を信頼してるよ」
「それならいいんだ」
純架は頬を朱に染めた。さすがに気恥ずかしかったのだろう。
奈緒が手を打ち叩いた。
「そうだ、皆で写真撮ろうよ。仲良し四人組ということで、さ。ねえ日向ちゃん、いいでしょ?」
日向の胸元には例のデジタルカメラが燦然と輝いている。黒縁眼鏡と共に彼女のトレードマークだ。
「構いませんよ。制服姿でないので校内新聞には使えませんが、同好会の親睦を深めるためにいい一枚を撮影しましょう」
こうして即席の撮影会となった。俺たち男子が前で屈み、後ろに中腰の女子が並ぶ。日向は設置したカメラのタイマーボタンを押すと、急いで俺の背後に回った。
「皆さん、笑顔で!」
フラッシュが焚かれ、シャッター音が鳴り響く。
そうして出来上がった写真は、カメラの画面を見せてもらった限り、なかなか上手く仕上がっていた。俺たちはそれを自らのスマホへコピーした。
桐木純架、朱雀楼路、飯田奈緒、辰野日向。『探偵同好会』の面々。皆素晴らしく写りが良かった。
純架は感激を抑止できず、声を弾ませた。
「少なくともこの画面の僕らは永遠だね」
俺は写真を待ち受けに設定しながら、微笑して答えた。
「ああ、そうだな」
渋山台高校での生活は始まったばかりだ。
これから俺たちはどんな事件に出会うのだろう?
俺は胸をときめかせ、血湧き肉躍らせ……
かけがえのない友達と、初夏を過ごしていくのだった。
まだまだ続きます。




