178プロローグ
(プロローグ)
これは犯罪なのだろうか。多分そうだろう。明らかに正義に反しているのだから。
俺は事を終えて虚脱感に満ちていた。全身の毛穴という毛穴から脂汗が噴き出し、暑くもない2月なのに全身濡れネズミだ。頭はスパークして視界には流星が乱舞する。
自分でも信じがたいことをしてしまった。よくあの皆との時間を平気な顔して過ごせたものだ。俺には演技の才能があるのかもしれない。まあその反動が、今愛車の中で長くなっているこの俺の無様な姿なのだが。
だがこれでいい。これで俺の望む結果が出る。箔がつく。最高の気分で新年度を迎えられるだろう。
ああ、愛しているよ、お前。お前は俺の気持ちなど知らぬまま新しい年度を迎えるのだろう。離れ離れになるかもしれない。だがそれでもいいんだ。秘めたる思いは秘めたまま、心のたんすに仕舞い込んでおくのが美しいというものだ。
いつか今日という日を振り返ったとき、俺は心の底から自身を誇ることが出来る。お前は何も知らぬまま、我が世の栄華を満喫するといい。その笑顔、その眼差し、俺はそれを守れて悔いはない。
早鐘を打っていた心臓がおさまり、アドレナリンの奔騰が引いていく。ようやく冷静さが回復してきた。俺は明日の朝のお前の歓喜を想像し、胸一杯の随喜に心躍らせて――車を発進させた。




