表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇行と美貌と探偵と〜桐木純架の推理日誌  作者: よなぷー
06慌ただしい年末年始
162/343

160大晦日の忘年会事件05

「愛君とのやり取りを続けていくことで、斉藤君はまんまとこの桐木家忘年会に潜り込むことに成功した。そして神に等しい桐木純架を目の当たりにし、ますます虜となった。会が進むうち、愛情はますます深まっていく。気づけば、このまま爪跡を残さず帰ることに我慢ならなくなっていた……」


 純架は塾の講師の黒マジックよろしく、箸を前後に振った。俺たちは楽団のように、その手振りをタクトがごとく見つめる。


「そうして斉藤君、君は僕の記憶に君自身を強く印象付けるために、腕時計の盗難という一芝居を演じたんだ。最後は隠したトイレから回収して、よく探したら持ってましたという具合にお茶濁しするつもりでね。僕はよく自分の美貌を忘れるから、光井さんに指摘されるまでこの真実になかなか気づけなかったよ。以上がこの事件の全貌さ。どうだい斉藤君、認めるかい?」


 大輔は紙のように白い唇をどうにか動かした。紡ぎ出された声は震え、心もとない。


「……ええ、その通りです。私は桐木君を利用し、純架さん、あなたに近づいた」


 純架の手の上に自分の手を重ねる。


「今年のことは今年のうちに、と言います。はっきり申し上げますが、私はゲイです。そして純架さん、私はあなたが好きです。大好きです!」


 愛が卒倒寸前だったが、俺以外気にするものはいない。大輔はすがるような目で自分の偶像を凝視した。


「純架さん、どうかお返事をください。率直に、どうか……」


 純架は哀れむように大輔を見つめた。そして、自分の手に覆いかぶさる彼の手を、やんわりとどかして押し返した。


「斉藤君、残念だけど、僕はノーマルだよ。男を好きになったりはしない。君の気持ちには応えられないよ」


 気を使った、しかし決して這い上がれない崖下へ突き落とすような、そんな回答だった。


 大輔は固く目をつぶった。その目尻から透明な水滴が溢れ、頬に伝っていく。


「色々と、すみませんでした……」


「いいさ」


 静まり返る室内で、大輔の嗚咽が響き渡る。そこに被せてきたのは愛の嘆きだった。


「ちっとも良くないわよ! 大輔君、小生のこと好きでも何でもなかったの?」


 大輔はしゃくり上げながら返した。


「ごめん、桐木君……」


 愛は怒髪天をく勢いだ。


「泣きたいのはこっちよ! 楼路さんといい大輔君といい、なんで小生の好きになった人は別の誰かが好きなのよ!」


 そして、そのままわんわんと泣き出した。年少者である中学2年生の男女は共に号泣し、とても手がつけられない。大人たちはうろたえ、彼らをなだめすかすことに全力を傾け始めた。


 それをよそに、純架は再びラーメンを食べ始めた。俺はペットボトルのコーラをコップに注ぎながら耳打ちする。


「おい、お前は慰めないのかよ」


 純架は麺を噛み切る。


「余計な言葉は必要ないさ。これも成長するための糧って奴だよ。そして今の僕には即物的な糧が必要ってわけさ。さあ、紅白でも観ながら今年を送ろうじゃないか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ