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144白石まどか事件12

「体が消えかかってるんで、応急処置だけや。じゃ、短い間やったけど、皆ありがとな。『探偵同好会』に入れてくれて、仲間にしてくれて……。ごっつ嬉しかったわ」


 まどかの双眼から透明な液体が流れ落ちた。


 純架が唇を引き結んだ。


「白石さん、行ってしまうんだね」


「ああ。あたしは皆のことは忘れんから、皆もあたしのこと忘れんといてな。ほな、さいならな」


 まどかの姿が薄れていく。消えていく。俺たちはそれぞれの思いを胸に、離別の挨拶をした。


「さよなら、白石さん」


「あの世でも元気でな、白石」


「まどかちゃん、また会おうね。きっとだよ」


「白石さん、あなたの心霊写真、大事にします」


「英二様がきっと、あなたの立派なお墓を建ててくださいます。お楽しみに」


 最後に純架が手を振った。


「白石さん、君はいつまでも『探偵同好会』だよ。お達者で」


 まどかは顔をくしゃくしゃにして微笑んだ。そうして――


 やがて彼女は、完全に消えた。


 それがいつもの透明化とは違う、完全な消滅だと、皆が分かっていた。


 ふと気づくと、清水先生が両膝をつき、がっくりとうなだれている。純架が先ほどまでの表情から一変、厳しさを取り戻した。


「清水先生、あなたは荻原美音子も殺害したのですか」


 答えは予想通りだった。


「……ああ。俺が殺した。白石の殺害のことを知られているとあって、このままではいけないと思ったんだ。彼女を愛していたが、最終的に恐怖の方が上回った。殺し方も葬り方も白石と一緒だ。美音子は白石と同じ場所に仲良く眠っている」


「同じ場所に……?」


「あいつらは親友同士だ。天国で離れ離れにならないよう、ぐっすり眠れるよう、そうしてやった」


 殺人鬼の奇妙な優しさが、俺には理解不能だった。純架が続ける。


「先生は弓削沙織さんに荻原美音子さんを求めたのですか」


 清水先生は膝の上で握り拳を作った。


「そうだ。沙織は美音子の生まれ変わりではないかと思うほど、15歳の頃の彼女に似ていた。だから俺はアプローチをかけた。白石を殺してから、美音子に手をかけるまでの一年間は、本当に人生の最盛期だったからな。それが再現されるかと思うと、いても立ってもいられなかった。俺は美音子を殺してから断っていた覚醒剤に再び手を染め、近いうち沙織にも与えてやるつもりだった……」


 間一髪のところだったというわけか。


 純架が最後に尋ねた。


「清水先生は、なぜかつて白石さんを抱きしめたんですか?」


 答えはなかった。




 その後純架は諸先生方に事情を話し、彼らは警察に電話した。身柄を引き取りに来たパトカーに乗せられ、清水先生はこの学校から永遠に去っていった。


 一方、弓削沙織は純架への興味を失った。純架との初のデートを取り付けたときは、年頃の娘相応に喜んだが、実際に待ち合わせ場所に行ってみると声を失った。


 純架は、デーモン小暮のメイクに金髪を王冠のように逆立て、「だっこちゃん」を腕に二つも付けていた。更に裸の上半身は白と青のストライプでペンキが塗られており、下は虹色に着色されたステテコ。雨でもないのに長靴を履き、そこにはAKB48の顔写真が所狭しと貼り付けられていた。そして夏でもないのにピンクの浮き輪を小脇に抱え、片手で地球儀を掴んでいた。


 沙織は他人の振りをして、純架に話しかけることもなく、怒ったように去っていった。その様子を遠くから確認した俺は、純架のスマホを鳴らし、作戦がうまくいったことを告げた。彼に直接言わなかったのは、さすがに俺も、今の純架と直接会って、周りから知り合いだと思われるのは御免だったからだ。


 純架は2組通いも取りやめ、こうして沙織とは自然消滅の形となった。


 弓削慎太郎先輩は懸案事項が完全に解決して、大いに満足していた。他方、出番のなかった日向は、「まあいいですけど」と頬を膨らませた。


 こうして全てが片付くと、純架は胸に手を当てた。やや寂しそうに笑う。


「以上がこの事件の全貌だよ、楼路君」

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