001プロローグ
(プロローグ)
人と人との巡り会いは分からないものだ。
親しくなったり敵対したり、尊敬されたり侮蔑されたり。
先輩と後輩、上司と部下、幼馴染に単なる知り合い。
見えない糸が複雑に交差し、個々人を縦横に繋げている。
出会ったばかりの細い糸、莫逆の友の太い糸。
つい一瞬前まではなかった連結が、突如成立する。
かと思えば、確固たる紐帯がいきなりプツンと途切れてしまう。
そんな人間たちの出会いと別れは、各自の人生をひどく撹拌させ、時に喜びを、時に悲しみを劇的に生じせしめるのだ。
それまで傍観者の立場でいた俺は――
その日、身近に迫った「変化」に気づかずにいた。
――うるさいな、と感じたのは入学式の前日だった。
時刻は午前10時。すっかり惰眠をむさぼってしまった。遊んでいたノベルゲームでどんでん返しが発生し、思わず徹夜してしまったのだ。
一軒家の二階にある俺の部屋は、窓から通りを見渡せる位置にある。その方向から絶えず聞こえるざわめきに、俺は何事かとカーテンを開けた。
「引っ越しか」
俺は独りごちた。テレビのゴールデンタイムでコマーシャルを流している運送会社『白犬タケル』、あれの制服を着た作業員たちが、巨大な4トントラックから次々荷物を運び出していた。巨大な本棚や家具に苦戦し、一見軽そうな段ボール箱――だいたい重たい漫画などが詰まっているものだ――を辛そうに持ち上げる。隣も一軒家で、確か一ヶ月ほど前から空き家になっていたはずだ。新たな入居者を得て活気付いたりするのだろうか。
ま、どうでもいいか。
俺は荷物のバケツリレーから目を逸らすと、明日から始まる高校生活に気もそぞろで階下へ下りていった。腹が減っていた。
俺の平穏かつ安らかな日々の、それが最後だった。