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第9話 初日 夜間


 生き残った者の大半は、島の南側にある住宅地の家屋に上がり込んで夜を過ごすことにした。住民がひとりもおらず、戸の鍵は開いていたので、簡単に入ることができた。

 とはいえ、何の安心もできない。

 どの家にも電気が通っていないため、日没後はほとんど真っ暗闇となり、日常的な動作にさえ危険が伴う。幸運にもマッチやライターのような明かを見つけられれば多少過ごしやすくなるが、それはそれで、自分たちの居場所を敵に知らせてしまうことになるため、おいそれと使用するのは躊躇われた。

 敵。

 狭井の猛威を目の当たりにし、破芝の説明を受けたことで、受験者たちは自分の仲間以外の誰も信用できなくなっていた。いつどこで狭井に襲われるかわからない。狭井でなくても、誰かがこの「試験」を真に受けて、狭井のようなことをし始めるかもしれない。

 そんな奇襲を警戒して、見知った三人組の仲間で固まり、他の受験者から距離をとるように、別々の番地に散らばって身を潜めた。


 睡眠についても神経質にならざるを得ない。急な異変に対応できるように、最低でもひとり、見張りを立てるグループがほとんどだった。見張りは当然、身体強化剤を所持し、いつでも服用できるように準備している。何かがあった時には仲間に知らせると同時に、自分の身体を強化して敵に立ち向う。

 このように、危険に備える心構えは、島のほぼ全員に浸透していた。これが徹底されていれば、膠着状態が続くことも大いに考えられた。

 膠着を崩そうとする者は、彼らの警戒の上をいく攻撃を仕掛けなければならない。


「なるほどなあ! そういう攻め方を考えるか!」

 島の某所の地下深くに設えられた一室で、運営者の破芝は感嘆の声をあげていた。

 部屋の壁面にはモニターが無数に並んでいる。各地に仕掛けられた監視カメラの映像がリアルタイムで送られ、「試験」の状況を伝えてくる。赤外線暗視カメラなので、夜中であっても受験者の動向を見逃すことはない。

 破芝はモニターのうちのひとつに注目し、話し声の音声も拾い、その後の展開を見守った。

「狭井くんたち以外にも骨のある若者がいて、嬉しいねえ……! しかし、アイデアはいいが、果たして万事うまくいくかな?」

 モニターに映っている三人組は、しばらく相談した後で位置についた。ふたりが少し離れたところに控え、ひとりが口に手をやった。

 おそらく、身体強化剤を服用した。


 数秒後、別のモニターの中で爆発が発生した。

 民家のブロック塀が盛大に吹き飛び、そこに隠れていた受験生たちが慌てふためいていた。どうやら死者はいないようだが、見張りが瓦礫の直撃を受けて負傷したらしい。口々に「痛え!」「大丈夫か!」「脚がやられた! つーか、薬落とした!」「クッソ、ヤベえぞ、誰か攻めてきてる!」と叫んで状況を伝えているが、その後の対策を語れる者が誰もいない。

 そもそも、彼らは敵を視認できていない。

 自分たちがどんな攻撃を受けているのかすら、把握できていない。

 位置的に、一キロメートル以上離れている。攻撃者はもといた場所から動かないままに、民家を破壊した。

 もちろん、破壊が目的ではない。

「試験」の終了条件は、生存者を減らすこと。

 彼らは殺傷を目的としていた。


「一撃目から二撃目まで約八秒といったところか? ちょっと遅いと思うが、今後の修練次第で短縮の余地はあるな! 楽しみだ!」 

 再び、民家に異変。今度は塀ではなく、人体が粉砕され、吹き飛んだ。断末魔を叫ぶ暇もなく即死。生き残っているふたりは、仲間の死に動揺し、薬を飲むことを忘れてしまっていた。

 当然、攻撃は終わらない。三撃目、四撃目が民家を襲い、生存者の命を脅かしていく。

「あとは、命中精度がもう少し上がってくれるといいのだが……! いや、未完の大器だな! できれば勝ち残って欲しいものだ!」

 有望株を見つけた破芝は、終始楽しげだった。



 ほぼ同時刻であったため、破芝が見逃した出来事がある。別のとある場所で、別のとある受験者たちが、作戦を相談していた。


「俺たちは空腹だ。俺たちというのは、この島の全員のことだがな。食糧を与えられてないから、当たり前の話だ」

「そりゃわかりますけど、それで、どうするんです? 今から飯、探してきます?」

「そういう話ではない。今日の飯は我慢するしかあるまい。明日以降の作戦の話だ。俺たち全員が空腹。だとすると当然、食糧配付の機会は逃せん。皆が一斉に配付所に群がる。ここまではわかるな?」

「とりあえず、わかります」

「そこで待ち構えて、受験者を殺す」

「……とりあえず、やろうとしてることはわかりましたけど、そんなにうまくいきます? 今日あんなことがあったわけで、皆、警戒してますよ?」

「警戒されないための作戦がある」

「えっ、本当ですか」

「運営者になりすませばいい」

「……んん?」

「司会者たちが着ていた砂色の軍服。あれに似た服を着ていれば、皆、俺たちのことを『食糧配付の担当者』と思い込むだろう。おびき寄せて、油断させて、背後から殺せる」

「なるほど! 『服屋を探せ』って言ってたのはそういうことかあ。賢い!」

「こんな試験、さっさと終わりにしようぜ。明日朝、たくさん減らしてな」


 殺人の経験はない彼らだが、すでに覚悟を済ませ、「試験」のルールに乗ることを決めていた。

 彼らは明日、赤星たちと対峙することになる。



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