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第18話 二日目18:00


 二日目もそろそろ日没だが、皆、壮健だろうか!

 といっても、君たちの動向はこちらで逐一モニターしてるから、だいたいのところは把握している! そもそも、病気や怪我を負った者がいたとしても、病院に連れて行く気はないがね! この島にも一応病院があるにはあるが、医者はいない! 各自で対処したまえ!

 死んだ者も何人かいる! しかし、死者はこの通信を聞くことはないだろうから、何も問題ないな!

 そうそう、問題は死者よりも生存者だ! 君たちの中に、死体をいじくり回している者がいる! 別に禁止行為には抵触していないが、感染症を起こす恐れがある! 君たちが病気で全滅すると、私の目的が達成できない! ちょっと遅いかもしれんが、後で私の部下を派遣しておく! いくつか衛生上の助言をするから、ちゃんと聞くように!

 あとは、この島での生活に消極的な者にも注意を与えておく!

 昨日言ったとおり、生存者数が若干名になるまで、この島での生活は終わらない!

 趣旨をきちんと理解して、生存者を減らすように頑張ってほしいのだが、かなり多くの者が、身を隠すだけになっている!

 はっきり言っておくが、私から見て、その行為は非常に評価が低い!

 もちろん、敵に見つからないための隠密行動の技術は、我々の組織の一員としても必要なのものだが、「隠密」は恙なく「行動」し、仕事を果たすためのものだ! 隠れているだけでだけでは仕事にならない! 理解できるかね?

 だから、私は要求する!

 行動したまえ!

 この島での生活を終わらせるべく、積極的に動きたまえ!

 私の要求は、昨日、ルールとして提示しなかったし、これからもするつもりはないが、まあ、察してくれたまえ!

 要求を拒み続けるなら、それなりの覚悟をしてもらいたい!

 ……とはいえ、私が要求するまでもなく動いてくれている者もいて、頼もしさも感じている!

 昨日のような大量得点はさすがにもうないが、今日も着々と弱者を間引いてくれて大変良い! その調子で今後も頼む!

 今日三十人減って、残り百五十二名!

 皆が私の要求を聞いてくれるなら、一週間ほどで片が付くだろう!



 通信を聞いて、秋野レミはいつくか考えを巡らせた。

「死体をいじくり回している者」と聞いて、まず自分たちが思い当たった。仲間である藤春とともに、昨日、講堂の大勢の死者から身体強化剤を回収した。そして、今日は薬効の確認のため、配付所近くに死体同然で倒れていた三人にとどめを刺した。

 だが、破芝が矛先にしたのは、おそらく自分たちではない。

 講堂には、秋野たちより深く濃く「死体をいじくり回している者」がいた。

 おぞましい芸術家の三人組。破芝の発言は、きっとあの三人に向けられたものだろう。彼らは昨日に引き続き、今日も「制作」を続けていたのか。

 だとすると、彼らは「生存者を減らすために頑張っていない者」でもある。

 二重に警告を受けている。


 破芝の通信の直後に、そんな彼らからの連絡を受けた。

「君の赤いペンダントは、まだ見つかっていないよ。ごめんね」

「……そう、残念」

 そう言えばそんな嘘を吹き込んであったな、と思い出す秋野だった。もちろん、ペンダントなど存在しない。

 電話の向こうにいるのは、昨日会話を交わしたのと同じ男。三人の芸術家の中では、一番言葉が通じそうな人間だった。彼は中条と名乗った。

「中条さん、破芝からの警告、あれはあなたたちのことよね? 死体いじり、そして、消極的」

「ああ、心配してくれるんだね。ありがとう」

「いや、別に心配なんかしてないけど……」

「それって、ツンデレって言うんだよね」

「…………」

 全然違う。秋野は純粋に、思ったことを言ってみただけだ。さらに言うと、運営者が中条たちにどんなアプローチをしてくるかを探れたら御の字、という計算もあった。

「まあ、予告されたってことは、破芝さんの部下の人たちがこれからやって来るんだろうね。助言には従っておかないとね」

「助言だけで済むものかしら?」

「つまり君は、粛清もあり得る、と言いたいんだね?」

 当然、そのとおりだ。初日の言動を見て、破芝の危うさは強く感じていた。何をし始めてもおかしくはない。

「僕の観点では、それは違うね。死体いじりに関してわざわざ助言をしてくれようとしているんだ。これから粛清する相手に、そんな手間をかけてくれるとは考えにくい。今すぐの粛清は、ないね」

「……一理ある、かしら」

「たぶん、僕たち以外にも消極的な人間は多いんじゃないかな? いきなりこんな環境に放り込まれて、人を殺せる人間のほうが少数派だと思うね。だから、二、三日くらいは様子を見たいはずだ。粛清に動くとしたら、それからだね」

 秋野は自分が少数派のつもりだったし、中条たち三人はもっと常軌を逸していると思ったが、口には出さなかった。


 とはいえ、中条は狂っている割には頭が回る。運営者の動きの読み方は理に適っていて、秋野よりも的確かもしれない。不審人物という意味では最初から警戒していたが、強力な敵にもなり得ると感じた。

「粛清を避ける手段は考えてる?」

 少なくとも、秋野たち自身は安全圏だ。今朝、田賀原たち三人を殺害しているし、今後も積極的に攻めに出るつもりだ。

 だが、中条たちは、死体で遊んでいるだけで、直接の殺害数はゼロだ。

「……僕らも誰かを殺しにいかないとダメっぽいね」

 秋野は、寒気を覚えた。

 言葉の内容だけ見れば妥当だ。破芝から殺人を要求されているのだから、それに応じるか、逃げるかの二択。後者が難しい以上、皆、嫌々ながらも殺人を考えるだろう。

 だが、中条は、

「正直面倒くさいんだけど、こればっかりはしょうがないよね。僕は別にいいとしても、彼を殺されるのは困る。人類の美術史にとって大きな損失になってしまう。彼と、彼の作品は守っておきたい」

 気怠げに、しかし口調に似合わぬ強い動機を吐露した。


 秋野は他者を踏み台として見ているが、中条は、踏み台としてすら見ていない。自分たちのリーダーの存在が至高で、それ以外のものを無価値と思っている、そんな言い方だった。

「ああ、安心してね。君たちとは縁があるから、ばったり会っても見逃してあげるから。もっとも、見間違いで殺しちゃうこともあるかもしれないから、そのときは、ごめんね?」

「……殺されないように気をつけるわ」

 秋野は、本心からそう言った。


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