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第17話 二日目14:00

 海辺を離れた後、昼間は何事もなく平穏に過ぎた。


 情報収集のために市街地へ戻り、警戒しながら歩いたが、誰かに襲われるどころか遭遇することすらない。もっとも、島の広さに対して生存者が少ないしため、妥当なことではある。

 赤星は狭井の情報を得られず不満げだった。日下たちのところに狭井が来ていない、ということくらいしかわかっていない。


「狭井の奴ら、この辺にはいねーってことか、あるいは、隠れてやがるのか……」

 島の全域を調べることは到底できない。彼らは島の東端をうろうろしているだけで、島全体の九割以上が未知の領域として存在する。

「ねえ、こーせーくん。そんなに拘らなくてもいいんじゃない? 正直、私は見つからないほうがいいと思ってる。見つけたら、戦うことになっちゃうし……」

 月影は不安そうに心情を吐露した。

 殺されることへの怯えもあるが、今朝、殺すことへの怯えを強く抱いた。肉体的にも精神的にも、月影は耐えられそうにない。

「まあ、こえーのはわかる。だが、あいつらを放っとくってのはナシだろ? こーしてる今だって、あいつらはどっかで誰かを殺してるかもしれねー」


「……天童くんは、どういう意見?」

 月影に水を向けられ、天童は少し考えてから話す。

「真正面から戦うのは正直ごめんだ。昨日は何とかなったけど、次もうまくいくとは限らない。だから、戦いを避けたいという月影さんには賛成だ」

 月影は安堵し、赤星が口をへの字に曲げたが、

「ただ、赤星の言うことにも一理あって、確かに彼らは放置できない。彼らを避けて回ったところで、いずれは遭遇するか、奇襲されるかで戦うことになるわけだし、情報は集めておきたい。どこにいるのか、どんな手口を使うのか、知っておけば対策が練れる」

 天童がそう付け足すと、月影は複雑そうな表情で「そっか……、早いか遅いかの違いしかないんだね……」とこぼした。

「厳密に言うと、そうなる前に、狭井たちが他の誰かに倒される可能性もある。ただ、その場合は、その『誰か』が狭井以上の脅威になる」

「つーことは、天童としては『狭井とはまだ戦いたくねーけど、情報は欲しい』と?」

「そうだね」

 赤星の問いに、天童は応じて、

「昨日会った木崎さんたちに電話してみようか? その後、状況に変化がないか確かめておきたい」

 と提案した。

 赤星は渋い顔をしたが、手がかりを得るためという大義名分には逆らえず、嫌々ながらに承諾した。



「狭井は見てないね」

 連絡を受けた直後の木崎はテンションが高く、「芙和さん、やっと僕らの仲間になる決心がついたんだね!」と嬉しそうに応じたが、そうではなく単なる状況確認だけと知って、トーンを落とした。

 とはいえ、天童たちの質問には誠実に応じている。

「木崎さんたちは、どこの配付所を使いました?」

「南側だね。君たちは?」

「東側です」

「だとすると、狭井たちは北か西に居る可能性が高いかな。もっとも、僕たちと違う時間帯に南や東を使ったのかもしれないけど」


 配付所がオープンしているのは朝の二時間。同じ配付所を利用したとしても、すれ違いになることは大いに考えられる。

「結局、手がかりはねーんだな」

「そうだね。ないねえ」

 赤星がぼやくと、木崎はそう応じてから別の話題を出す。


「あ、そうだ。狭井と関係あるかどうかわからないけど、殺された人なら見たよ」

「てめー、それ早く言えや! その近くに狭井がいるかもしれねーっつー手がかりだろ!」

「と言っても、おかしなことに、周囲には破壊の痕跡が一切なかったんだよ。死体だけがあった。つまり、殺害現場は僕らが見たのとは別の場所なんだよね」

「……つい最近どこかで聞いた覚えがある話だな」

 天童が呟いた。赤星は手をぽんと叩き、自信満々で言う。

「ってことは、そっちの攻撃手段も音なんじゃねーか?」

「ん? 君たちはそういうケースを見たのか? 後で詳しく聞かせてくれよ。それはそうと、僕らが見たのは違うなあ。死体の状況からして」


「どんな死体だったんです?」

「……ちょっとショッキングだから、芙和さんは聞かないほうがいいかもしれないな。純真なレディには酷な内容だ」

 木崎がそう言うと、遠くから神永が「それってつまり、私たちは純真なレディじゃないってことみたいね?」と木崎をからかったのが聞こえた。

「私も、聞く。こういうことには少しでも慣れておかないといけないから」

 少しの逡巡の後で、月影は意を決した。心配する赤星と天童に対して、「大丈夫」と小さく頷いて見せた。


「勇敢なレディだ。芙和さん、見くびってしまってすまないことをした。じゃあ、言うけれど」

 木崎はさらりと告げる。

「頭だけ落ちてたんだ」

 木崎には知る由もないことだが、生首の持ち主の名は田賀原といい、死ぬ直前、月影を殺そうとした人物である。

「昨日見た狭井の弟の攻撃方法なら、首だけ落とすことは可能かもしれない。ただ、首から下がないっていうのが解せなくてね。狭井とは別の殺人者なんじゃないかと思ってる」

「……なるほど」

 天童は応じながら、月影の様子を確認する。月影は青くなっていたが、それでも持ちこたえて木崎の話を聞いていた。

「それで、そっちの『音』の話も聞かせてくれよ? ちょっと興味がある」


 木崎の要求を受け、天童はかいつまんで説明する。しかし、詳しい場所は伏せた。日下たちはできる限り自分たちの拠点を隠そうとしていたので、その意向を尊重した。教えたところで、木崎たちが日下を攻撃しにいくとは思えないが、万一のことを考えた。


「はー、なるほどねえ。そういう使い方があるか」

 木崎は感心した様子だった。

「で、彼らとは仲間になったのに、僕の仲間にはなってくれないのかい?」

「僕は構わないと思ってるんですけど……」

 天童が柔和に応じようとするが、

「てめーのことは気に入らねーんだわ。悪い奴じゃなさそーだけどな」

 赤星が不作法に言い放った。

「そうかい。僕は赤星くんのことを買ってるつもりなんだけど、残念だなあ……」

「俺を買ってるんじゃなくて、月影にちょっかい出してーだけなんじゃねーのか?」

「いやいや、誤解だよ。『だけ』なんてことはないよ。月影さんみたいな美しいレディとはお近づきになりたいし、赤星くんと天童くんは戦力として頼りになる。一石二鳥や三鳥なんだ」

「……その話の順序、やっぱり俺と天童はついで扱いなんじゃねーか」

「おや、気に障ったかな?」

「下心が見え見えでな」

「率直な男だと言って欲しいなあ。下心を隠している男よりは信用できると思うよ?」

「てめーにはヴィーナスだかエンジェルだかがいるだろーが! そっちでよろしくやってろ!」

「うん、そうだね。ヴィーナスはヴィーナス、エンジェルはエンジェル、そして、月影さんは月影さんだ。僕は美しい女性は分け隔てなく全員仲良くしたい」

 さながら「甘いものは別腹」というような理屈だった。赤星の女性観とは相容れなかった。

「やっぱ、気に入らねーわ。じゃーな。また何かあったら連絡するわ」

「あっ、待って、せめて月影さんの声を一言聞かせてっ」


 月影が何か言う前に、赤星は通話を切った。その後、木崎から十回ほど着信があったが、すべて無視した。

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