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第16話 二日目08:30

 三人はホテルを出て、海岸に向かった。島の東側。ほんの数分歩くと砂浜があった。


 かつては海水浴の客で賑わっていたのだろう、売店があった痕跡も見て取れたが、今となっては荒れている。漂着した無数のゴミが拾う人もおらず、お世辞にも綺麗とは言えない。

 海にも砂浜にも、受験者はおろか、運営者も監視カメラも見当たらない。海から泳いで脱走されることを想定していないのか、あるいは、仕掛けが見つからないだけで巧妙に隠蔽されているのか。


 天童は頭の隅でそんなことを考えつつ、今すべきことに戻る。ホテルのほうを見て通信端末を起動し、大岩に電話をかけた。

「約束どおり、砂浜に来たよ」

「確認できた。話とやらを聞こう」

 大岩が遠距離での対話を臨んだので、このような形になった。今、大岩たちはホテルの地上階に上がり、天童たちに不審な動きがないかどうか見ているはずだ。

 警戒心が解かれていないことを感じつつも、天童は本題に入る。

「僕たち六人で共闘できないか、と思ってる」


 三人組のチーム同士で協力しようという提案は、初日に木崎から持ちかけられたものでもある。天童としては乗りたいところだったが、赤星の拒否を受けて断念した。

 今回は、天童から持ちかけ、赤星も拒否しなかったが、中途半端な形にまとまりそうだった。


「お前たちがむやみに殺人をしない、比較的まともな人間だということは理解したが、百パーセント信用できたわけではない」

 大岩は慎重な姿勢を崩さない。

「破芝は『生存者が若干名になるまで試験は終わらない』と言っていたな。例えば三人しか生き残れないのだとしたら、どうする? そして、俺たち六人が協力して、全員が生き残っていたら? どこかのタイミングで裏切ることになるだろう」

「ああ、そっか……」

 月影が大岩の言に納得しかけたが、天童は主張を変えない。

「僕はそれでも構わないと思っている。六人の中で裏切りが起きるリスクはあるけど、それ以上に、六人で生き残りやすくなるというメリットのほうが大きい」

 食糧や薬剤を融通できること、役割を分担できることなど、昨日の木崎の主張とほとんど同じ内容を天童も説いた。

「それに、三名というのはあくまで仮の数値でしかない。この『試験』の規模と労力を考えると、もっと大人数を採用しないと割に合わないと思う。二十名くらいは生き残れるんじゃないかな。もしかしたら、もっと多いかも」

「楽観的すぎないスか? そんなに多かったら『若干名』なんて言わないと思うッス」

 日下が会話に入ってきた。

「それに、申し訳ないんスけど、俺たち、できるだけホテルから出たくないんスよ」

 日下は協力的な姿勢ではあったが、行動を共にすることには難色を示した。

「大岩が立ててくれた作戦は、あの部屋だからこそうまくいくと思うんス。いや、他のところでもそれなりに有効かもしれないんスけど、やっぱり不安なんスよ」

「それに、合同で動くとなると日下の声で巻き添えを出してしまう可能性がある。耳を塞げばいいだけの話なのだが、普段から息を合わせている俺たちならともかく、見ず知らずのお前たちでは……」

 大岩がだめ押しのように懸念を追加した。

 彼らは仲間を増やすメリットよりも、日下の声を武器として使いにくくなるデメリットを重く見ていた。

「でもおめーら、出たくないとか言いながら、配付所には来てたじゃねーか」

 赤星がぞんざいな態度で指摘すると、

「それは、食糧を受け取れなければ飢え死にするからな」

 大岩は真っ当な答えを返した。

「この場所は配付所から遠くて不便という欠点がある。行き帰りの途中で襲われる危険は大きい。だが、俺か氷川が身体強化剤を使って敵を防ぎつつ、日下を背負ってこのホテルに逃げ帰れば、問題はない」

「って言っても、俺たちの尾行を許してるところは甘めーんじゃねーか?」

「…………」

 赤星の物言いには親切さや礼儀は欠けている。上から目線であり、相手によっては反感を買うだろう。だが、戦う者として的確な助言であり、大岩は言い返せなかった。


「どうだろう。配付所への行き帰りだけでも共闘できないかな?」

 ここぞとばかりに天童が尋ねた。日下たちの弱点を補う案であれば、却下されにくいと考えた。

 天童は自分たちが偽の配付所に騙されかけたことを明かした。移動中を狙う敵は、確かに存在する。この情報を伝えたは親切心でもあり、日下たちの協力を引き出すための打算でもあった。

「奇襲に対して、人数が多いほうが死角が少なくなって守りやすいと思う。攻撃と防御の手数も増えるし、何より、身体強化剤を使いやすくなる」

 三人組で動いたとして、身体強化剤を同時に使えるのは、最大でもふたりまでだ。一度に全員が身体強化すると、十分後に麻痺し、身を守るための人員がいなってしまう。

 これが六人になれば、最大で五人となる。三人組の相手なら余裕で対処できる。

「僕たちのことが信用できないなら、陣形はそちらが指示してくれてもいい。僕たちを盾にして身を守る、みたいなことでも」

「おい、天童、そんなこと言ったら月影が危ねーだろが」

「月影さんのことは赤星が守ればいい」

 赤星の横入りに、天童は冷静に応じた。

「それに、今日使った手と同じことをすることもできる。まあ、月影さんが嫌かもしれないけど……」

「えっと、できれば嫌、だけど……」

 月影は田賀原との対峙を思い出して躊躇を見せていたが、数秒の沈黙の後で意を決した。

「でも、必要なら、やる」

「そっちの話はよくわかんないんスけど、行き帰りの間だけなら協力してもいい気がしてきたッスわ。なあ、大岩と氷川はどう思う?」

 日下が仲間に話を振った。小声で何か相談し、意見がまとまったようだった。

「提案、乗ることにしました。明日朝、よろしくッス」



 赤星たちが日下たちと連絡先を交換し、集合場所などの取り決めをする少し前の時間帯。

 狭井兄弟は彼らとは別の配付所で食糧や薬剤を受け取った。


 初日に暴れたため、他の全受験者から警戒され、恨みを買い、あるいは恐怖されている。敵討ちの標的になることも大いに考えられる。くわえて、拠点は山の中腹にあるため移動距離が長い。

 危険な状況にありながら、狭井たちは逃げも隠れもせず、受け取った食糧を豪快に食らっていた。

 場所は配付所の目の前。入り口を塞ぐようにして、三人そろって地べたにあぐらをかいている。

「禁止行為は『運営者への敵対』のみ。ということは、ここで食事することは違反ではないな?」

 狭井は配付所にいたスタッフから言質をとった上で、食事を始めた。


「兄貴は豪胆だね……。別に今に始まったことじゃないけど……」

 三男の三太が呆れたように言った。

「これだと、他の皆は配付所に入りにくいよね……。ボクらと戦闘するのは極力避けたいだろうし……」

「あの赤星とかいう低能は俺に襲いかかってくるかもしれんがな」

「ああ、昨日の彼……。そういう可能性はあるね……。で、兄貴はそれを返り討ちにする、と」

「ところで兄貴ー、気づいているかぁー?」

 次男の丈嗣が口を挟んだ。

「一キロくらい先のビルの屋上、何かこっちを見てる奴がいんだけどよぉー」

 豆粒よりも小さな影を、丈嗣は目ざとく察知し、警戒を促した。

 が、

「気づいていないとでも思ったのか?」

 長男の肇は鼻で笑った。それがまた丈嗣の気を苛立たせる。

「おそらく狙撃手だな。身体強化し、何かを遠投して俺たちに当てて殺すつもりだろう」

「わかってんなら、何でここに居んだよ? あぶねーだろが」

「わからないのか? ここは一番安全だ」

 丈嗣と三太は、兄の言葉を理解できずに戸惑った。肇は小さく溜息をつきながら、

「この状況で狙撃してきたら、奴らは『禁止行為』に抵触する」

「……あ」


 運営者を攻撃してはならない。運営者のそばにいる者を攻撃しようとしたら、運営者を巻き添えにしてしまう可能性が高い。その場合の処罰の内容は、既に昨日示されている。


「賢いね、兄貴は……」

「このくらいは思いついて当然だろう」

 思いつかなかった丈嗣は、内心で忸怩たるものがあった。兄以上の力量を持つと自負するだけに、その事実が揺らぐのは気に入らない。

 狭井肇は今後の行動を検討する。

「奴らは俺たちがここを離れたら狙ってくるだろう。奴らの集中力が切れた頃に移動するか、あるいは、身を隠しながら去るか、もしくは」

 獰猛な笑みを浮かべながら、

「奴らを消すか」

「今、薬は三個あるから、できなくはないね……」

 三太は顔を強ばらせた。戦闘に向けて、心の準備をする。

「だけどよぉー、その三個を使い切ったら、また今日は何もできなくなんだろ? 奴らは三人ぽっちだろーし、三人消すだけじゃもったいなくね?」

「そうだな。まずは、この配付所に近づく奴らを蹴散らすことを優先しよう」

 狭井肇は一キロ離れた敵をあざ笑いながら、食事を終えた。



 一キロ先にいた三人組は、狭井の振る舞いを見て、この方法で狭井を倒すのは不可能だと悟った。

 だが、狭井以外の相手であれば通用するはずだ。

 そう考えた彼らは、今朝の狙撃を諦め、昼以降や明日朝の狙撃のために有効な地点を探すことにした。

 結果として、明朝、赤星たちが向かう配付所に照準が定められた。

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