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ヘンゼルとグレーテル

 昔々あるところに貧しいきこりの一家が住んでいました。

 ある年、飢饉に見舞われてしまい、食べていくことが出来なくなりました。


 もうご飯のなくなった夜、子供たちが寝たあとで継母ままははが子供二人を捨てようと父親に提案しました。

 父親のきこりは反対しましたが押し切られてしまいました。


 ヘンゼルとグレーテルはこっそり起きていて両親の話を聞いていました。

「どうしましょう。明日、森に捨てられてしまうのですわ……」

 グレーテルは泣きそうです。


 しかしヘンゼルは飄々と言いました。

「僕がなんとかするから大丈夫さ」

「親に捨てられるのに動じないなんて、さすがお兄様ですわ!」


 そして家が寝静まったあとでヘンゼルは庭に出て月夜に良く光る石を拾い集めました。



 次の日、一切れのパンを持たされたヘンゼルとグレーテルは森へ連れていかれました。

 森の中の広場で父親が言います。

「木を切ってくるから待っているんだぞ」

「「はい」」

 兄妹は大人しく待ちました。与えられたパンを食べます。

 しかし日が暮れても父は迎えに来ませんでした。


 グレーテルは悲しげな声でいいました。

「おうちがどこかわかりませんわ……」


 するとヘンゼルは言いました。

「見てご覧。落としてきた小石が月光で光ってるよ。これをたどれば家に帰れるさ」

「小石を目印にするなんて! さすがお兄様ですわ!」


 ヘンゼルはグレーテルの柔らかな手を握って帰りました。

 父は喜びましたが、継母はとても嫌な顔をしました。



 次の日は森のもっと奥深くまで連れていかれました。

 小石はもうありません。

 そこでヘンゼルはパンを崩して道しるべにしました。


 また森の中で置き去りにされ、今度はグレーテルのパンを二人で分け合って食べました。

 そして日が暮れても父は迎えに来ませんでした。


 グレーテルは泣きべそをかきます。

「おうちがどこかわかりませんわ……」


 するとヘンゼルが言いました。

「パンくずを落としてきたけど小鳥たちが食べてしまったようだ」


「まあ! 自分もお腹をすかせているのに小鳥たちに与えるなんて、なんてお優しいんでしょう! さすがですわ、お兄様!」


「さて、今日泊まるところを探さないとね」

「こんな森の中で泊まれるところなんてあるのでしょうか……」


 ヘンゼルは神様から貰ったチートスキル、鑑定眼を発動させました。

「あっちに食べ物のデータウインドウが開いてる。行こう」

「さすがお兄様! グレーテルはお兄様の妹で本当によかったですわ」



 ヘンゼルとグレーテルは森の奥深くへと入っていきました。

 しばらく歩くと開けた広場があり、そこに小さなお菓子でできた家がありました。

 グレーテルは喜びながら窓枠を外して食べます。

 窓は薄く溶かした砂糖菓子で出来ていました。


「とっても甘いですわ、お兄様!」

 グレーテルは小さな口をいっぱいに開けて、可愛らしい笑顔で言いました。


 ヘンゼルは背伸びをしてラスクでできた屋根をはがします。

「うん、悪くないね」

 お腹をすかせていた兄妹はぼりぼりと家を食べました。


 すると、突然家の中から背中の曲がった年老いた魔女が飛び出してきました。

 目は赤く光り、爪は鋭く尖っています。

「我が家を食べる悪い子は誰だろね!」

 そう言って魔女はヘンゼルに襲い掛かりました。


 しかし不意を突かれたはずのヘンゼルは、ひらりとかわしました。

「鑑定眼があるから、気付いてたよ」


「さすがですわ、お兄様! ――きゃあ!」

 喜んだのも束の間、グレーテルが掴まってしまいました。


 魔女は凄い勢いで家の傍にある小屋へ行くと、鉄格子のはまった小屋にグレーテルをぶちこんで大きな錠前を下ろしました。


「ひゃっはー! さあ、どうするね? 妹の命が欲しくば、奴隷として働くがいいさ!」

「やれやれ、魔法鍵か。開錠コードがわからないんじゃ、しかたないね」


 こうしてグレーテルは小屋に閉じ込められておいしいものをたくさん食べさせられ、ヘンゼルはこき使って働かされました。



 ある時、ヘンゼルが小屋へ食事を運んでくると、グレーテルが泣きながら言いました。

「お兄様、このまま太らされたら食べられてしまいますわ……」


「だったらこうするといい。指を出させて太ったかどうか確認するはず。その時、この鳥の骨を触らせるのさ」


「まあ! 魔女の目の悪さを逆手に取るのですね! さすがですわ、お兄様!」


 それからというもの、魔女が指を出させて太りぐらいを確認してくるたびに、グレーテルは骨を触らせて誤魔化しました。

 魔女はなぜこんなにおいしいものを食べさせているのに痩せないのか不思議でなりませんでした。



 ですが誤魔化すにも限界がありました。

 ある日のこと。

 業を煮やした魔女は、ついにグレーテルを食べることにしました。


 壁に大きなオーブンのある台所で魔女が言いました。

「さあ、オーブンで焼いてしまうよ! ヘンゼル、しっかり火を起こして温めな!」


「おばあさん、このオーブン使いづらいよ。ちゃんと火が付いたかどうかわからないんだ」

「なんだい、情けないね! わからないなら覗けばいいじゃないか!」


「のぞくって、どういうふうに?」

「こうやるのさ…………だいたい、いい感じ――ぬあっ!」


 魔女はオーブンの中に身を乗り出して覗き込んだのですが、ヘンゼルはその背中に体当たりして魔女をオーブンの中へ押し込みました。

 そして、急いで扉を閉めると、予備の魔法錠前を下ろします。


 魔女はドンドンと内側から叩きます。

 しかし、魔法鍵が下りているので開きません。

「ヘンゼル、よくも! ――くそ、どうして開かないんだい!」


 ヘンゼルは棒と包丁と紐を手に取りながら、鼻で笑いました。

「そりゃアンタ特製の魔法鍵だからさ」



 するとオーブンの中から、轟くような笑いと怒声が起こりました。

「バカだね、私が作ったんだから、開けられるに決まってるじゃないか! ――はらほろももんじゃー! 《開錠》!」


 バァン!

 オーブンの扉が弾けるように開きました。


 ――が。

 飛び出してこようとした魔女の胸に、槍が突き刺さります。

 木の棒に包丁を紐でくくりつけた簡易な槍でした。


 ぐはっ、と魔女は呻き声を出します。

「な、なん……じゃと……!」


 ヘンゼルは髪を掻き上げながら言いました。

「出てくる場所が一箇所しかないんだから、子供でも簡単に狙いを付けられるのさ」

 それに魔女が飛び出そうとした勢いも加わっていたので、とても深く刺さったのでした。


「く、くそう……ただで済むと……」

「ああ、それと。――開錠コード教えてくれてありがとう! これで妹が助けられるよ! ――じゃあ、おやすみ!」


 ヘンゼルは槍をさらに奥へと押し込みました。

 オーブンの中へ火と薪も投げ入れます。

 魔女はまともに動けないまま、オーブンの中に閉じ込められました。


 中からは魔女の驚愕の声が響きます。

「ば、ばかな! 妹を助けるための開錠コードを知る機会を待っていたというのか――」


「自分だけ助かっても仕方ないからね」

 ヘンゼルは肩をすくめて言いました。


 オーブンの火が回り始めます。

 ごうごうと音を立てて魔女は燃え尽きてしまいました。



 それからヘンゼルは家を出て、小屋に行きました。

「はらほろももんじゃー。《開錠》」

 開錠コードを唱えてグレーテルを助け出します。


 美味しいものをいっぱい食べたせいか、妹はとてもスタイルが良くなり可愛らしくなっていました。


 グレーテルは可愛いえくぼのできる笑顔で言いました。

「ああ、助けてくれてありがとうです! 魔女を倒してしまうなんて、さすがお兄様ですわ!」


「たいしたことじゃないよ。それより、随分と可愛くなったね」

「お、お兄様……グレーテルは幸せです……」

 グレーテルは耳まで赤くなって言いました。ふくよかになった胸の前で指をもじもじさせます。


 ヘンゼルは、優しく笑いかけつつ言いました。

「それじゃ、帰ろうか。――食べ物をいっぱい持ってね」

「はい、お兄様!」



 兄妹は魔女の家を探し回り、食料以外に宝石や金貨を沢山見つけました。

 そして地図も見つけました。

「これがあれば迷わず家に帰れるね」


 グレーテルは大きな胸の前で手を合わせ、目をキラキラと輝かせながら言いました。

「まあ、お兄様は地図を読むことができるのですの!? なんて賢いんでしょう、素晴らしいですわ!」

「そうでもないよ。勉強すれば誰だって……あとでグレーテルにも教えてあげるよ」

「はい、お兄様!」

 兄妹は手を繋いで家に帰りました。大量の戦利品を背負って。



 家では後悔した父によって継母は追い出されていました。

 父とヘンゼルとグレーテルの三人は末長く幸せに暮らしました。


 めでたし、めでたし。

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