十六歳
その後、おれは警察に保護されて、親元に帰された。
両親は、帰ってきたおれを暖かく迎えてくれた。もう、嫌魔のせいで嫌われることはなかった。両親は、いままでのおれに対しての仕打ちを深くあやまってくれた。
親父とは、あの夜のことは話さなかった。おふくろのためにも、あの時のことは互いに無かったことにしようという、暗黙の了解ができていた。
こうして、嫌魔から解放されたおれは、あっさりと平凡な日常にもどることができた。
そして、普通の高校生として、いま友達のおまえと話をしている。
こんな話、信じられないか?
まあ、信じてもらえなくてもいいさ。
嫌魔から解放されて、初めてできた友達がおまえだったからな。嘘だと思われてもいいから、聞いてほしかったんだ。
あの後からずっとな、おれはあの町の周辺に毎日通ってるんだ。
何でかって?
利美を助けるために決まってるだろう。
あの町に近づいて、嫌魔の嫌悪感に耐えながら、町に入ろうとしてるんだ。歯を食いしばって、全身に力をこめて、町を囲む金網を乗り越えて、全速力で走って町に突入してるんだ。勢いでなんとかならないかと思ってね。
でも、全然だめだ。
すぐにゲロ吐いて気絶してしまう。
それで目覚めたら、また体が勝手に動いて、町から逃げ出してしまう。
毎日、それをくりかえした。
もう、ぼろぼろよ。凄まじく嫌なものに、毎日触れに行くわけだからな。何度も何度も腹に激痛が走って悲鳴をあげた。転げまわった。おかげでほら、おれってすげえやせてるだろ?顔も結構青白くなってるんじゃないかと思う。この年で、髪もほとんど白くなってるしな。
でも、あきらめねえ。
少しずつなんだけどな、嫌魔の嫌悪感に、体が慣れてきている気がするんだ。
嫌魔は確かにとんでもねえ化け物だ。でも、完全じゃないと思う。完全だったとしても、もがいてやる。あらがってやる。あんな胸くそ悪いものに、なめられてたまるか。おれは中崎とはちがうんだ。
おれがあの町から逃げ出してから、もうだいぶたつ。
でも、町の中にただよう嫌悪感は、まだ消えていない。
それは、まだ利美が生きている証拠だ。
嫌魔は利美からはなれていない。利美の魂をすすってはいない。
利美はあの町でひとりで暮らしながら、きっとおれが帰ってくるのを待ってくれているんだ。
もう少し、もう少しなんだ。
おれはあの町の中に入れるようになってやる。そしてもう一度、利美を強く抱きしめてやるんだ。
絶対にな。
終わり