ヴァーチャルセンス(仮)
ヴァーチャルセンス(仮)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
無限に広がる真っ白な部屋。
手にはナイフ。刃渡り20cm程度であろうか。
耳元で声がする。
「それでは刺して下さい。」
目の前には男が背を向けて立っている。
背格好はちょうど俺くらいだ。
一瞬の躊躇。だが、意を決した。
俺はその男に向かって思い切りナイフを刺す。
ブスリ、とは言いがたい鈍い手応え。
ナイフを捻じる。
ナイフと男の体の間からはとめどなく流れる血液。
目の前の男は痛みに膝をつく。
そしてそのまま倒れた。
初めて人を殺した。
そう思った。
直後、背中に激痛が走る。
刺されたかのような痛み。声が漏れる。
だが、手で背を探っても何もない。
突然、痛みが増す。
それは内臓をかき回されているかのような。
背を引き裂かれているかのような。
目の前が真っ暗になる。
(死ぬ………)
そして倒れた。
……………
頭部にはめられた機械を外す。
そこは、舞台の上だった。
背後には大きなモニタ。真っ白な部屋に俺が刺した男が立っているのが写っている。
舞台からはスーツを着た人間が大勢こちらを向き、中には隣の人間と話している様子が伺える。
突然のアナウンス。
「いかがだったでしょうか。これが我が社の新技術、ヴァーチャルセンス(仮)です。
最新の3D描画技術を用いて徹底的にリアルな見た目を追求。
また、10万回を越える実験と最新式コンピューターの計算によって作られた触感の再現。
さらに、空間を計算することによって、現実さながらの音の聞こえ方も再現しています。
プレイヤーは100%、現実世界と錯覚をおこします。
現在、この技術ヴァーチャルセンス(仮)を使用できるハードの開発と、ゲームソフトの開発を行っています。
ゲームソフトのジャンルですが、FPSを中心に開発をしております。
現在は未実装ですが、今後は味覚・嗅覚についても再現をする予定となっており、こちらについては現在、実験中です。」
そう告げたのは横にいる、この会社の社長だった。
人を刺殺したかのような手応え。
そして刺されたかのような痛み。
全ては現実ではなかった。
思い出す。
これは最新ゲーム技術の展示発表会だった。
俺はテスターに選ばれたんだった。
このゲームは危険過ぎる。世に出してはいけない。ここで問題を起こして止めないと。
気が付くと手にはナイフ。
俺はその場で◯◯◯を×××した。
おわり。