何よりも大切なとき
仕事終わり、疲れを紛らす為に酒を口に含む。心地好いほろ酔い気分で、大きな月を見上げていた。
僕の瞳に、それはなんだか妙に儚いものに映った。静かに上を見上げていると、いつしか僕の隣には君がいた。
二人で肩を寄せ合い微笑む。昼間のように明るいけれど、昼間とは異なる明かりをくれる。美しい月を眺めていた。
「今宵の月は綺麗ですね」
僕の言葉に、君は小さく頷いてくれる。
それは永遠に続かせたい、何気ない幸せな生活だった。
こう見ていると、なんだか手招きしているようだね。あの月の兎だって。
しかしそれに気付いてしまったときには、君はもう隣にいないんだって。君は月に帰って行ってしまうんだって思った。
美しい月も美しい君も、雲に隠されてしまう。雲により少し明るさはぼやけたようになり、更に儚さを醸し出すようで。
「次の満月も君と一緒に見たい」
それは僕の願い、君は静かに微笑むだけ。
肯定も否定もしてくれない君に、なぜか急に不安が込み上げてきた。
「君は美しいから、心配だよ。実は竹から生まれていて、月に帰っちゃうんじゃないかって」
僕の言葉に、君は可愛く微笑んでくれる。
それは永遠に続かせたい、何気ない幸せな生活だった。
何よりも大切なとき。