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頬を滴る雫

 いつも、自分の殻に閉じこもって。いつしか、そこから出る術を忘れてしまい。ずっとずっと、その中で隠れていた。

 外に出ることで、非難を浴びることを恐れていた。そんな冷たい雨を避けたくて、恐怖で隠れてしまったまま。

 この殻を出て君に触れてみたい。実現はしないけれど、ずっと思ってはいた。

 その願いが叶わないのは、僕が弱いからなんだ。人と接することにより心を傷付けるのは、僕に堪え難いことなんだもの。


 太陽のように明るく元気で温かい笑顔。だけど雲がそれを隠し、悲しい雫が滴った。

 雨って、神の涙だと思う。神が嘆いて、いつの間にか空全体が嘆きと悲しみで染まる。僕が嫌う季節が、またやって来てしまったんだ。


 今日も昨日も一昨日も、その前だってずっと同じ。ただ、雨が降り続いている。雨を避けて、屋内にいてしまう。誰もがそうなので、誰にも会うことが出来ない。一人切りの寂しい季節。

 大雨時には、時々雷が鳴ったりもする。それはきっと、神がお怒りであることを伝えて下さっているんだ思う。

 雨が僕の胸を撃つ。とても鋭く、冷たくも生温い雫。銃のようにも感じられるほど、強く鋭く体を打ち付ける。何よりも強い武器なのではないか、とすら思える。

 これは、僕の心をズタズタにするもの。そんな、強い武器なんだ。



 血のように紅い薔薇が咲いた。絶妙な色合いや形、とても美しい花。

 棘に刺さることを恐れてしまったのであろう。それにより、紅い薔薇を更に血の色にしてしまうことを恐れていたのであろう。僕に、近付いて眺めることは出来なかった。

 棘を恐れずに、美しい君に触れてみたい。実現はしないけれど、ずっと信じている。

 それが叶わないのは、僕は臆病者だから。傷付くことを恐れて、傷付けてしまうなんて。


 僕は夢を見ていた。しかしそれにより、君から笑顔が減った。本気で僕を応援したい、そう言ってくれたね。でも君の笑顔がないと、僕は力が出ずに。結局夢も捨て、哀しい雫が滴った。

 全てを失って、僕は嘆いていた。そんなことをしても時は戻らない。更に無駄にすると自分で感じていたけれど、嘆いてしまう。笑顔の君が、最も嫌う季節がまたやって来てしまったのだ。


 今日も明日も明後日も、その先だってきっと同じ。ただただ、雨だけが降り頻る。雨を嫌い屋内にいる為、誰に会うことも出来ない。毎日毎日、自分の家の中で一人切りの寂しい季節。

 雨だけではなく、時々強風が吹いたりもする。それはきっと、楽しかった過去すら吹き飛ばしてしまうんだろう。

 雨は僕の胸を討つ。その哀しくも美しい雫で、確実に討ち殺してしまうんだ。それは最早、何よりも強い武器だとすら思える。

 僕の命を終わりへと、僕を最期へと導いてくれる。そんな、強い武器なんだ。


 この時期が通り過ぎれば、雨はあがる。四季を持つこの国では、必ずいつか雨はなくなる。

 雨が止んだときには、梅雨の終わりを喜ぶように虹が架かる。

 それはそれは美しい。綺麗な虹を見せてくれる雨も綺麗だ、とかなんとか? そんなことを、何も知らずに謳ったりしてさ。


 今年も去年も一昨年も、その前だってずっと同じ。ただ、雨が降り続いている。雨は怖いけれど、君を失うことの方が怖かった。必死に雨の中君を追い掛けるけれど、見つかる筈もなく一人切りで雨に打たれる悲しい季節。

 そんな僕の様子を、時々紫陽花が嗤っているようだ。きっと全てを失ったの僕のことを憐れんでいるんだろう。

 雨が僕の胸を打つ。その美しさに僕は、感嘆して立ち尽くして。何も出来なくしてしまうような、強い強い武器なんだ。

 どんなときでも、僕を隣で守ってくれる。そんな、強い武器なんだ


 強くなれないからこそ、僕は傘を差さないさ。

 溢れ出る哀しい雫を、雨が誤魔化してくれるから。

 それに、打たれてみるのもいいよねなんて笑ってさ。

 頬を滴る雫。

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