表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

桜吹雪に包まれて

 都は栄えに栄え、大都市へとなって行きました。文化を残す都市として、商人や富豪も集まって来ますから。しかし古い文化を繁栄させ大都市にまでなったここ。そんな都ですら、遂には衰えて行きます。衰える一方の様子です。

 こうなってしまっては、長続きはしないでしょう。ここでもう一度、革命が起こってしまうのですね。この国は、このままでは長くは続かないと思われます。残念ですが。

 革命が起こります。そうしたらまた、国が割れて乱世が訪れるのです。辛い記憶が蘇って来ますね。

 いつでも祭りのように、都は賑わっていました。人々の顔は笑顔に溢れ、都は栄えていたと言えるでしょう。この国で最も栄えた、迷わずそう言えるでしょう。そんな都が、このままただ滅びて行くなんて。衰えて、滅びまでするとは。考えられないし、考えたくないものです。

 これが運命と言うものなのでしょうか。満開となれば散るだけ、それが運命と言うものなのでしょうか。儚くも美しい、悲しい悲しいものですよね。

 もう二度と、戦乱の世を生きたくはありませんでした。大切なものを壊し合う、最悪の時代です。経験したくないと願ったその時代が再びやって来るなんて。それが運命と言うものならば、悲しみに負けてはいられませんが。


 政治が悪化して行っています。自分勝手なやり方で、国を乱します。悪戯に民の反感も買い、信頼も失ったでしょう。国の乱れ、もう取り返しのつかないほどにまでなってしまいました。

 怒って攻撃による訴えに入るのも、時間の問題です。それに勝っても負けても、結果は同じ。国を乱してしまったのですから、政権は失われたと思っていいでしょう。

 支配者がいなければ、人は纏まりません。だから人は争うのです。今の支配者が去れば、次の支配者が生まれる。その支配者になりたいと、人は争うのですね。

 そんなの、無駄な争いです。しかし人はそれに気付きません。欲に目が眩み、大切なものが見えていないのです。そうして無駄な争いを繰り返す。何度も、何度も……。


 美しく桜は咲き誇っています。満開は少し前であったようで、今は儚く散っていきますが。その姿もまた美しいものです。まるで桜と言うものは、人の世を映しているように感じられました。

 たった一刻の夢、すぐに消えて行ってしまう幻。苦しみに満たされた心、一瞬の幸せ。一度きりですが、最高のときを迎えてくれるのです。だからそのときを。

 最高の瞬間が過ぎ去れば、もう堕ちて行ってしまいます。ただ落下していくだけ、残るのはそんな命です。堕ちていく以外に、本当に何もないのでしょうか。上がり続ける道は、どこにも存在せず作ることも出来ないのでしょうか。

 花全体から、木全体から。散り行く桜は儚い雰囲気を醸し出しています。そんな美しい姿を持つので、桜が好きです。人の世も、まるで桜のように満開となるとすぐに散ってしまうのでしょう。似ているようなこの二つが持つ美しさが好きです。

 たった一刻の夢、瞬きしたとき瞼に映る幻のように。苦しい現実の中に見つけた幸せ。一度きりですが、感動へと誘ってくれるのです。

 しかし、満開の瞬間が訪れれば散っていってしまいます。花が咲くではなく、残るのは花びらが落ちていく時間です。散っていく以外に、本当に何もないのでしょうか。咲き続ける桜の道も、それはそれで最高とは呼び難いですがね。



 君は何にも例えられない特有の美しさを持っています。失うのを恐れて孤独に逃げる僕の、数少ない愛した人です。しかし今はどんなに美しい君だって、いずれは衰えていくのですよね。

 大切な人を失ったあとは、どうしても孤独に苛まれてしまいます。そしてもう一度人に近付くまでには、幸せな時間よりもずっと多くの時間を必要とします。君は中でも美しいから、失ったその先には長い孤独が続くのでしょう。

 人を愛するのは初めてではありませんし、僕はそんな未来を知っています。それを知り尚、僕は今君を愛したいと願うのです。何百年もの孤独を背負うことになってもいいから、数十年君との時間を大切にしたいのです。

 これほどまでに美しい君。ずっと失いたくない、そうは思いますけれど。人間の寿命は短く、僕は君を失い独り残されてしまうのでしょう。

 僕が生き続ける中、君は散っていってしまいます。それは絶対事項であり、決められた運命なのかもしれません。

 大切な人が目に見えて衰えていく姿を、隣で見ている。そして遂には動かなくなるのを、隣で看取る。もう二度と経験したくないと、僕が逃げ続ける悲しみです。そんな悲しみが訪れてしまう、君を愛しながらどうしてもそんなことを考えてしまいます。


 ずっと僕は人間を見て来ましたが、それでもわかりません。どうして人間というのは、同じ過ちを何度も何度も繰り返すのでしょう。同じ過ちを繰り返していると気付かずに、何度も繰り返すのでしょう。

 僕には人間のことを理解することが出来ません。人間同士、仲良く暮らして行けば良いではありませんか。それを選ぶことが出来る幸せ者の人間は、なぜお互いに苦しめ合っているのでしょうか。

 仲間がいないので、仲良く暮らすと言う選択肢を持たない。そんな、僕のような醜いあやかしには理解することの出来ない心理です。その愚かさがあるからこそ、僕は人間を美しいと思っているのかもしれません。

 しかし僕は人間が繰り返す争いを、無駄な争いと決め付けます。僕の中でそれは無駄という認識にし、人間よりも優位に立ちたいのでしょうか。自分の心理すら理解できないまま、無駄な争いを僕は嗤ってやります。


 美しく桜は散って行きます。散る姿を眺めて僕は、ふと思いました。満開の姿も美しいけれど、逆に散り行く姿の方が美しいのではないかと。それは、人に対しても言えることです。栄えた時代よりも、少し乱れた時代を美しいと感じてしまっていました。乱世は嫌いですが、そんな世だからこそ美しいものに目が行くのではないかと考えたのです。

 たった一刻の夢、彷徨い続ける現実との狭間。悲しみと孤独で凍った心も、愛の温もりが解かして行ってくれるのでしょう。一度きりですが、幸せなときを僕にも齎してくれるのです。だからそのときを。

 少しずつ散る美しい姿を見せてくれます。しかしそれさえも終わってしまえば、最早花は残りません。風に吹かれて、全ての花を散らしてしまうのです。

 永遠に美しく咲き続けてくれる訳ではありません。桜はすぐに散っていってしまいます。だからこそ、すぐに花を散らしてしまうからこそ桜は好きです。そしてそれは、人に対しても言えることであるのです。永遠ではなくすぐに最期を迎えてしまうから美しむ、そう考えることにしたのです。

 たった一刻の夢、夢か現かすらわからぬ夢心地の時間。君と一緒にいるだけで、僕の気分は幸せの最高潮でした。一度きりですが、頂へと誘ってくれるのです。

 しかし頂に上ってしまえば、もう上へ行くことは出来ません。風は冷たく僕の幸せを吹き飛ばし、華を亡くしてしまうのですね。


 また桜の木の下にいます。幸い人間たちは桜を見ている場合ではないらしく、見物客は僕以外にいません。誰も見ていなくても、桜の木は満開を迎えていました。

 いつの間にか、無意識のうちにここに足を運んでしまうのです。春がやって来る度、毎年毎年ここにやって来てしまうのです。

 この桜は、ずっとここにいてくれています。君と笑い合ったあの日も、変わらずに桜はここで咲いていました。充実していた最高の幸せを思い出す、僕の大好きな木です。

 桜の木の傍には、都が栄えていました。しかしそれも、今となっては遠い昔のこと。街はなくなり人は去ってしまいましたが、桜は咲き誇ります。まるで僕を待っているように、桜は毎年花を咲かせてくれます。あの日と変わらないものは、この桜くらいだから。


 美しく桜は咲き誇っています。満開は少し前であったようで、今は儚く散っていきますがそれでいい。その姿こそが美しく、僕が愛するものです。まるで桜と言うものは、人の世を映しているようですよ。

 たった一刻の夢、たった一刻の幻。君への愛に満たされた心、一瞬の幸せ。一度きりですが、最高のときを迎えてくれるのです。だからそのときを、僕はいつまでも大切にするのです。

 最高の瞬間が過ぎ去れば、もう落ちて行ってしまいます。ただ落下していくだけ、残るのはそんな命でしょう。落ちていく以外に、本当に何もないのでしょうか。しかし、上がる続ける道など存在はしません。それならば、落ちてもいいから上がることの出来る坂道を僕は求めます。

 見た目から、香りから、音だって。散り行く桜は儚い雰囲気を醸し出し、僕の五感を擽ります。そんな美しい姿を持つので、僕は桜を何度でも見に来ます。人の世も、僕に快感を与えるような素晴らしい幸せを見せてくれるのでしょう。この二つが共通して持つ、そんな美しさが大好きです。

 たった一刻の夢、目を閉じる度に瞼の裏に映る幻のように。苦しい現実の中に、見つけた一枚の花びら(幸せ)。一度きりですが、感動へと誘ってくれるのです。

 たとえ満開のときが終わってしまっても、その美しさは僕の中に焼き付いています。だから、綺麗な目を持ったまま桜を楽しみ続けられるのでしょう。花が咲くのではなく、残るのは花びらが落ちていく時間しかありません。散っていく以外に、何もなくていいのです。咲き続ける桜の道も、それはそれで最高とは呼び難いですから。


 それでも僕は散り行く姿も愛し抜きます。どれだけそれが悲しいとしても、僕は最期まで愛し抜きます。

 孤独の日々の中、僕はいつも幸せを思い出します。君との思い出が沢山詰まった、この場所で。君にもう一度会えた気にすらなれますよ。

 あの日君と、お互いの夢を語り合いました。そして二人、誓いを交わしました。思い出に溢れている、この場所で。そしてもう一度その夢や誓いを思い出します、あの日と変わらないこの場所で。

 桜吹雪に包まれて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ