桃の花を散らして姫は去る
綺麗な飾りを付けて、君はひな壇の一番上にいた。最も高いところに座り、柔らかく微笑んでいた。
少し照れ臭そうに、頬をほんのりピンク色に染めていたね。その姿は、僕の目には何よりも美しく見えていた。
全国から選び抜かれた美しいお召し物。でもそれは、君に相応しいものとは言い難い。なぜなら君は、その何よりも輝いているから。圧倒的な美しさで。
それを見て、痛感した。どんなにどんなに僕が手を伸ばしても、君に届くことがないんだって。
仄かに甘酸っぱい香りを漂わせ、桃の花が咲いていた。春の訪れを告げるかのように、小鳥が囀っている。それはそれは、爽やかな気分だった。
それらの全てが、まるで君を祝福しているように思えた。君の栄光を讃えているように思えて。
それらの全てが、まるで僕を拒んでいるように思えた。嗤われているようさ。君と僕では釣り合わない、と。
君はいつも優しい微笑みを浮かべてくれる。君の瞳は、いつもいつでも優しさに溢れている。
その優しい瞳は、悲しみを映す。優しいけれど、儚さが残る。その瞳の奥にいるのは、僕ではなかったとやっと気付く。
勘違いして思い上がって、勘違い乙。
綺麗に飾り付けられて、私はひな壇の一番上にいる。模範解答通りの微笑みで、孤独の頂点にいる。
その存在は私とは異なるものの気がして、怖くなった。自分を隠すことしか出来ない、そいつの醜さが。隠れることしか出来ない、私の醜さが。何もかも余りに醜くて。
私の為ではなく、親の名の為用意された服を着て。そうしたら私は、人形のように台本通りの行動をするしなくて。
私の意思など関係ないんだ。私は娘ではなく、道具でしかないらしく。どんなに叫んでも、それが届きはしないことを痛感した。
色鮮やかな祭りの明かり。それは桃の開花を祝う筈が、花の美しさを消してしまっていた。私の好きな冬はもう終わり。それを告げるように、小鳥が囀っている。
それらの全てが、まるで私を祝福してくれているように思えた。そうすると両親も満足してくれるし。
それらの全てが、まるで私を嗤っているように思えた。非力で言葉すら届かないんだ、と。
私を羨んだり、称えたりする声も聞こえる。でも私は知っている。皆が見ているのは、私ではないんだって。
だからその何もかも、聞きたくなかった。聞きたくなかったからって、聞こえてくる。逃げ出すことも出来ず、耳を塞いでいた。
私が褒められているとでも? 勘違い乙。
人形のように微笑み、君は完璧な存在だと思っていた。しかしそれが君の演技だったと知る。そして苦しみにも触れることが出来たんだ。
君自身、本当は僕と同じ。だから救いたいと願ったんだ。遥か上空に座らされ、一人怯える君のことを。手も届かぬ下界の僕が。
期待はしたくないけれど、信じてしまうの。君は私を助けてくれるんじゃないかって。いつかこの思いが、届いたらいいなとは思う。
いつか君が助けに来てくれる。本気で信じてしまいそうなんだ。
民衆が求めている美しさ。民衆が美しさと思い込んでいるそれの為、私がひな壇にいる意味はない。
外見のことしか見てくれない。それを知った。だから、だから私は行動する。
思い通りになる人形と 勘違い乙。
桃の花を散らして姫は去る。