表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

終わりを告げるかのように

 一年が始まった。それなのにどうして、気分は暗いままなんだろう。

 始まりを告げる鐘が鳴り響いた。その音を聞きたくない。なんだか始まりは今までを終わらせてしまうようで、嫌なんだろう。新しく始まるという事実から逃げたくて、耳を塞いでいた。

 安らぎを手に入れたのに。新しく、平和の世を生きたいのにどうしてだろう。

 変化する世界を恐れてしまう。戸惑いを隠すことも出来ず、僕は顔を隠していた。


 そんな僕のことを、君は待っていてくれた。凍えてしまいそうな細い体を必死に温めて、待っていてくれた。

 やっと戦いが終わり、君の隣に帰って来れた。これは何にも代え難い、最高の幸せ。その幸せを手に入れた筈なのに。


 初夢を見た。それはとても縁起が良くて、僕は哀しくなった。

 富士山、鷹、茄子。一般的に初夢で見るといいと言われているのは、この三つだ。しかし、僕の場合はそうではない。

 君の夢だよ。

 夢の中でだって、君は君らしい。ずっと君は僕のことを待っていてくれたんだ。

 柔らかいその微笑みで。



 僕の胸の中には、不安と恐怖ばかり溢れていた。その理由を本当は知っている筈なのに、目を逸らして問い掛ける。どうしてだろう、と。

 隣には君がいる。全てを手に入れて、僕は夢を叶えた。その筈なのに。


 初夢を見た。そこに出て来た君は、本当の君よりずっと演技派だったよ。

 それは偽者だってわかっているのに。偽物だって、贋物なんだって脳は理解しているのに。とっても嫌な夢。

 君の夢だよ。

 その君の隣には、僕ではなくてあいつがいた。まるで当然のように、あいつは君の隣にいたんだ。そして君とあいつは、何かを話していた。

 柔らかいその微笑みで。


 孤独に押し潰されそうになった、寒い夜。一人でいると、寒さも増すような気がした。それでも凍えそうな体を必死に温めて、僕は君を待っていた。

 信じて待ち続けていれば、神様は僕にご褒美をくれる。そう、君はいつも僕のところに来てくれるんだ。でも、僕の場所に帰って来ることにより君は幸せになれたんだろうか。僕の場所にいることが、本当に君の幸せなのだろうか。


 初夢を見た。それはとても縁起が良くて、僕は掴みたいと手を伸ばす。届くことのない手を伸ばし続ける。

 一般的には富士山に鷹に茄子、これが言われている。でも僕にとって縁起が良いのは、そんなんじゃない。

 君の夢だよ。

 夢の中でだって、君は僕を待っていてくれた。寒い筈なのに、僕を気遣い寒そうな仕草も見せない。一人で寒さに耐えて、僕を待っていてくれた。

 柔らかいその微笑みで。

 終わりを告げるかのように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ