終わりを告げるかのように
一年が始まった。それなのにどうして、気分は暗いままなんだろう。
始まりを告げる鐘が鳴り響いた。その音を聞きたくない。なんだか始まりは今までを終わらせてしまうようで、嫌なんだろう。新しく始まるという事実から逃げたくて、耳を塞いでいた。
安らぎを手に入れたのに。新しく、平和の世を生きたいのにどうしてだろう。
変化する世界を恐れてしまう。戸惑いを隠すことも出来ず、僕は顔を隠していた。
そんな僕のことを、君は待っていてくれた。凍えてしまいそうな細い体を必死に温めて、待っていてくれた。
やっと戦いが終わり、君の隣に帰って来れた。これは何にも代え難い、最高の幸せ。その幸せを手に入れた筈なのに。
初夢を見た。それはとても縁起が良くて、僕は哀しくなった。
富士山、鷹、茄子。一般的に初夢で見るといいと言われているのは、この三つだ。しかし、僕の場合はそうではない。
君の夢だよ。
夢の中でだって、君は君らしい。ずっと君は僕のことを待っていてくれたんだ。
柔らかいその微笑みで。
僕の胸の中には、不安と恐怖ばかり溢れていた。その理由を本当は知っている筈なのに、目を逸らして問い掛ける。どうしてだろう、と。
隣には君がいる。全てを手に入れて、僕は夢を叶えた。その筈なのに。
初夢を見た。そこに出て来た君は、本当の君よりずっと演技派だったよ。
それは偽者だってわかっているのに。偽物だって、贋物なんだって脳は理解しているのに。とっても嫌な夢。
君の夢だよ。
その君の隣には、僕ではなくてあいつがいた。まるで当然のように、あいつは君の隣にいたんだ。そして君とあいつは、何かを話していた。
柔らかいその微笑みで。
孤独に押し潰されそうになった、寒い夜。一人でいると、寒さも増すような気がした。それでも凍えそうな体を必死に温めて、僕は君を待っていた。
信じて待ち続けていれば、神様は僕にご褒美をくれる。そう、君はいつも僕のところに来てくれるんだ。でも、僕の場所に帰って来ることにより君は幸せになれたんだろうか。僕の場所にいることが、本当に君の幸せなのだろうか。
初夢を見た。それはとても縁起が良くて、僕は掴みたいと手を伸ばす。届くことのない手を伸ばし続ける。
一般的には富士山に鷹に茄子、これが言われている。でも僕にとって縁起が良いのは、そんなんじゃない。
君の夢だよ。
夢の中でだって、君は僕を待っていてくれた。寒い筈なのに、僕を気遣い寒そうな仕草も見せない。一人で寒さに耐えて、僕を待っていてくれた。
柔らかいその微笑みで。
終わりを告げるかのように。