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お前のパンツは俺のもの  作者: 真木あーと
第三章 暴君でチキンな俺
7/12

第一節 変わっていく態度と関係

「おい、お前本当に高埜(たかの)に勝ったんだな」

 学校に到着し、教室の席に座る。

 祐奈(ゆうな)とは同じクラスだが、席は離れている。

 まあ、だから祐奈(ゆうな)には聞こえない程度の声で慎治が聞いてきた。

「まあな、一点差だが勝ちは勝ちだ。お前にも感謝してるぜ?」

 俺は胸を張ってそれに応える。

「で、何だよ、あいつに勝って告白でもしたのか?」

 慎治はにやり、といやらしげに笑いながら耳打ちしてくる。

 こいつは一体朝から何を言い出すんだよ。

「何の事だよ。告白なんてしてないし、する気もないんだが」

「いや、でもお前、今朝、高埜(たかの)と手をつないで登校してきたらしいじゃねえか。どう考えても付き合い始めのカップルの行動だろ? それ」

 慎治はニヤニヤと笑う。

 からかうと言うよりは、俺に彼女が出来て喜んでるって感じだ。

 だが、それは余計すぎるお節介の話だ。

「いや、それは大いなる誤解だ」

 俺に彼女はいないし、ましてや祐奈(ゆうな)が彼女ってわけでもない。

 いや、祐奈(ゆうな)なら彼女にしても申し分ないし、まあ、わがままさも強引さも、自分の女なら許せるかもしれないが、まあ、あいつが俺と付き合いたいなんて思わないだろうな。

 どっちかというと、俺の立ち位置って奴隷とか下僕だったからな。

「だが、手をつないでたって言ってる奴は何人かいるんだが?」

「ああ、まあ、それは本当だ。なんていうか、成り行きでな」

 俺は頭をかきながら、さて、なんて説明しようかと迷った。

「成り行きってなんだよ? どんな成り行きがあれば手をつないで登校するんだよ」

 慎治が(いぶか)しげに聞く。

 まあ、そりゃそうだろう、そんな成り行き、俺も人生初めてだったからな。

「んー、まあ、あいつが色々手間取ってたからしてたからイライラして、手を引っ張って連れてきたんだよ。そのまま手を離すのを忘れたまま学校まで来てしまっただけだ」

高埜(たかの)が手間取ってただ? お前じゃなくってあいつがか?」

 慎治は更に不思議そうな顔をする。

 まあ、その気持ちは分からなくはない。

 あいつはせっかちなところもあるから、俺はいつも引っ張られる側だしな。

「まあ、今朝は色々あってな」

 もちろん、俺は慎治に賭けのことを言うつもりはない。

 祐奈(ゆうな)も今朝、秘密にして欲しそうだったし、そもそも俺の名誉の問題もある。

 俺はいつも祐奈(ゆうな)のパンツを見ていて、祐奈(ゆうな)のパンツの所有権は俺にある、なんて、今考えると、何のプレイの最中だよって感じだ。

 そんなことがばれたら、俺も祐奈(ゆうな)も死ぬほど恥ずかしい。

 だから、俺はこの親友(慎治)にすら言うつもりはない。

 祐奈(ゆうな)も多分そのつもりだろう。

「色々、か」

 慎治は俺の顔をじっと見て、ふっと笑う。

「ま、色々あるよな、世の中って」

 慎治はこの話に何か聞いちゃまずいものを感じたのか、それ以上何も言わなかった。

 俺と祐奈(ゆうな)の間に何かがあった、くらいは理解したかもしれないが、それ以上は探るつもりもないんだろう。

 話の分かる奴で助かる。

 俺と慎治はそれから適当な話をして過ごし、チャイムが鳴ったので席に着いた。

 授業中に今朝のことを反省してみた。

 確かに、手をつないで登校ってのはまずかったな。

 そんな奴がいたら、俺だって必要以上に仲を勘ぐりたくもなる。

 ちょっといい気になってたのかもな、あいつのパンツを見れる立場になって。

 でも、変わったのはそれだけの事だ。

 俺と祐奈(ゆうな)が根本的に変わったわけじゃないから、勘違いだけはしないでおこう。


          ▼


 放課後、俺は何となく祐奈(ゆうな)を待っていた。

 別に待ち伏せてパンツを見せろ、と言うつもりじゃない。

 朝、あいつの様子がおかしかったから、ちょっともう一度確認したかっただけだ。

 結局学校にいる間はあいつと話が出来なかった。

 俺もあいつも友達がいるし、そこに割って入る程の用でもなかったしな。

 遠くから様子を見る限り、いつも通り元気だし、問題があるようには見えないが、俺に対しても元通りなのかが気になる。

 今朝の態度の原因は考えるまでもない。

 俺みたいな見下してた野郎にパンツを見せる日々ってのはあいつにとっては屈辱的だしショックなことなんだろう。

 どうしてもその状態が直らないなら、俺は約束を反故(ほご)にしてもいいと思っていた。

 俺にとって、あいつは幼馴染だし、まあ、親友と言ってもいい。

 少なくとも、俺はそう思ってる。

 そのあいつが俺のせいで傷つくなら、俺はそれをやめる。

 まあ、あいつに一泡吹かすって目的は達成してるからな。

 で、祐奈(ゆうな)を待っている間、俺は図書室へと向かった。

 そういえば美琴に礼を言ってない。

 俺が祐奈(ゆうな)に勝てた勝因の一つがあいつだからな。

 感謝してもし切れない。

 まあ、一言くらいは礼を言っておかないとな。

 俺は図書室に来ると、美琴を探すまでもなく、いつもの場所に座り、本を読んでいた。

 セミロングの髪は相変わらず毛先に癖があり、そのくせ毛と無表情が美琴の美琴らしさとも言えた。

「よ、隣、いいか?」

 俺が言うと美琴はちらり、と俺を見て無言でうなずいた。

 だから俺は遠慮なく隣に座る。

「中間テストはありがとな、お前のおかげでいい点が取れた」

 慎治もそうだが、俺が今回祐奈(ゆうな)に勝てたのは、美琴のおかげが大きい。

 美琴も慎治も、闇雲に暗記することしか知らなかった俺に、「勉強」ってものを教えてくれた。

「別に。私はノートを見せただけ」

 美琴は本を読んだまま、こっちも向かずに言う。

 こいつのいう通り、俺はノートを見せてもらっただけではあった。

 だが、それでも美琴の役割は俺にとって大きかった。

 こいつらのおかげで俺が今まで「勉強」ってものをしていなかったんだと思い知った。

 特に美琴のノートは結構大きな部分を占めた。

 あれ以来、ノートの取り方を考えるようになり、美琴レベルとは行かないまでも、前よりはまともに取るようになった。

「それでも、俺がいい成績が取れたのは、あのノートのおかげだ。ありがとうな」

 俺が言うが、美琴は返事をしなくなった。

 うっとおしいから無視してるわけじゃなく、反応に困ってるんだろう、照れくささもあるだろうしな。

 ま、人付き合いの苦手な奴だ。

 これでも精一杯の受け答えだろう。

 俺はその後、適当な本を選んで美琴の隣でそれを読んで時間を過ごした。


 十六時を過ぎた頃、俺は本を閉じた。

 美琴は俺が来た時と全く同じように本を読んでいた。

「じゃ、そろそろ俺、帰るわ」

 立ち上がりつつ美琴にそう言うと、美琴は小さくこくん、とうなずいた。

 俺は本を棚に片付けてから、図書館を出てクラブ棟の方へと向かう。

 まだ部活は終わってないだろうが、ま、少しぐらいなら待ってやるか。

 それよりも先にさっさと帰られる方が面倒だ。

 全く約束もしてないんだからな。

 グラウンドに出ると、それそれのクラブが、ラスト前の練習に励んでいた。

 陸上部は、とグラウンドのトラックを見ると、祐奈(ゆうな)が走っていた。

 柄の入ったスポーツシャツに、短パンという格好で、必死に走っている。

 俺から見ると全力疾走にしか見えないが、それがいつまで経っても止まらないし、速度もほとんど落ちない。

 ああ、あいつの競技は中距離だったっけ。

 実は俺、あいつの走りを見るのは久しぶりだ。

 いや、初めてか?

 まあ、走ってるあいつはしょっちゅう見かけるが、陸上競技として走ってるあいつはほとんど初めてと言ってもいい。

 こだわりなのか、ツーサイドはそのままで、更に後ろで大きくまとめている髪型。

 引き締まった体を活かしたフォーム。

 そして、苦しそうにしながらも、一切速度を落とさない根性。

 なんていうか、いい言葉が浮かばないが、綺麗、とか凄い、とか、そういう表現とは違う何かを、俺は祐奈(ゆうな)に感じた。

 そう言えばあいつは前に俺に言ったっけ。

 自分は一歩一歩積み重ねている、と。

 これを毎日毎日繰り返して、ここまで来たんだ。

 じゃあ、一体俺は何をしてたんだろう。

 祐奈(ゆうな)はトラックを二周ほどしてからゴールした。

 おそらくそれが最後だったんだろう。

 そのまま軽い運動に切り替え、クールダウンを始めた。

 筋肉を伸ばすストレッチをする祐奈(ゆうな)と、目が合った。

 祐奈(ゆうな)は驚いて俺を見て、すぐに目をそらした。

 それから顧問の話やら、グラウンド整備やらがあったが、その間も何度かちらちらと俺の方を見ていた。

 解散となると、歩きながら俺の方に来た。

 クールダウンはしたものの、まだ汗が完全に引いておらず、タオルで顔や手を拭きながら俺を見る。

「……何? あんたがあたしの練習見に来るなんて、今までなかったのに」

 驚きと、不満を綯交(ないま)ぜにして、だが落ち着いた声で言う。

 何か変だな。

 祐奈(ゆうな)ならもっとこう、軽口とか文句を交えつつ、怒ってるのか、からかってるのか分からないような感じになるものだと思っていた。

 俺の気のせいならいいんだが、今の祐奈(ゆうな)には、ちょっとした俺への拒絶が混じってる気がした。

「いや、ついでがあって残ってたから、一緒に帰ろうと思ってさ」

 俺はそう答えてから、何か自分の言葉がおかしいな、とは思った。

 「ついでがあって残ってた」って何のついでだよ。

 何かで残ってて、そういうついでがあるから一緒に帰ろうかと思ったとか、そういう事を言いたかったんだが、祐奈(ゆうな)みたいなカンが鋭くて頭のいい奴は、俺が祐奈(ゆうな)と帰るために待ってたと気づいたかもしれない。

「……じゃ、着替えてくるから、もう少し待ってて」

 祐奈(ゆうな)は気づいたのかそうじゃないのか分からないまま、そう言って俺に背を向けた。

 歩いて去っていく祐奈(ゆうな)の後ろ姿に、何人かの陸上部女子が合流する。

 そいつらはちらちらとこっちを向いて祐奈(ゆうな)に話しかけ、祐奈(ゆうな)はいつもの冗談の動作でそれを否定する動きをする。

 なんだ、普通に冗談言い合えてんじゃん。

 つまり、俺にだけってことか?

 そんな事を考えながら、俺はしばらく待つ。

 すると、あいつの消えていった方向から、制服姿のあいつが歩いてきた。

 さっきまでまとめていた髪はツーサイドを残して下ろしていた。

 俺がいつも目にする祐奈(ゆうな)の姿だ。

「待たせたわね」

「あ、いや、俺が勝手に待ってただけだからさ」

 祐奈(ゆうな)の雰囲気がやっぱり少し違うので、俺は少し驚きながらそう答える。

 祐奈(ゆうな)が俺の隣に並ぶと、俺は何も言わず歩き出す。

 だから、祐奈(ゆうな)も何も言わずついて来た。

 放課後の通学路を祐奈(ゆうな)と歩く。

 別に珍しくもないシチュエーションだが、なんとなく雰囲気が違っていた。

 いつもならほっといても祐奈(ゆうな)が話しかけてくるから、俺はそれに答えていればよかったが、今日は祐奈(ゆうな)が喋ってくれない。

「お前の部活やってるところ、初めて見たけどさ、何か新鮮だった」

 仕方がなく俺から話題を振ってみた。

「新鮮って、何がよ?」

 祐奈(ゆうな)は俺からの話題には、ちゃんと乗ってくれる。

 別に拒絶されてるわけでもないって感じだ。

「いや、お前って普段わがままっていうか、奔放なところがあるけど、そんな雰囲気じゃなくて、真剣だったから、何か格好よかったって言うかさ」

「…………」

 祐奈(ゆうな)は無言でうつむく。

 それは拒絶の無言じゃない。

 美琴のような、何と返していいか分からないときの無言だ。

 その証拠にうつむいたまま少し頬を染めている。

 祐奈(ゆうな)って奴は、あんなに傍若無人でも可愛いと思えるような逸材だ。

 その祐奈(ゆうな)が、はにかんでうつむくと最高に可愛い。

 こんなテレ方する祐奈(ゆうな)を見るのは初めてかもしれない。

 いや、昔はずっとこんな祐奈(ゆうな)だったかな。

 まだ俺がこいつを引っ張っていた頃のこいつはこんな感じだったかも知れない。

「ま、まあ、お前がああやって毎日必死に努力して積み重ねてる事が、一日しか見てないけど分かったんだよ。お前が前に言った通り、俺は何も積み重ねてなかったな、と反省してるところだ」

 祐奈(ゆうな)はちらり、とこっちを見上げた。

「じゃ、康太も何か積み重ねるの?」

「うーん、まだこれっていう積み重ねたいものがないから、とりあえず勉強でも積み重ねてみようかと思ってたところだ。今回いろいろな人に相談してみたんだけど、俺が今までやってたのはただの暗記で、勉強じゃなかった。だから、少なくとも勉強を始めようかと思ってる」

 俺は、思っていたことを祐奈(ゆうな)に言う。

 祐奈(ゆうな)はなんだかんだで俺が努力することを喜んでた奴だ。

「そっか……じゃ、あたしはもう康太に勝てないね」

 祐奈(ゆうな)が寂しそうに、だがちょっと嬉しそうにそう言った。

 なんだろう、この、子供に追い抜かれた親のような表情。

 いや、まさにそんな気持ちなのかも知れないけどさ。

「いや、俺が今回勝てたのは奇跡的に運が良かっただけで、次やったらまた勝てるってわけじゃない。もちろん負けるつもりで頑張るわけじゃないけどさ。祐奈(ゆうな)が本気で頑張ったら、俺が勝てるわけがないだろ?」

 なにせお前は何をやっても卒なくこなせて、文武両道で、それでも俺に勝ってたんだからな。

 そう俺が言うと、祐奈(ゆうな)は首を振った。

「あたしは康太の本気には敵わない。だからずっと必死になって頑張ってきただけ」

 祐奈(ゆうな)が少し寂しそうに笑う。

 これが本気なのか、こいつなりの謙遜なのか分からないが、何かどこかがいつもと違った。

「そう簡単にお前に敵うわけないだろ。今回だって必死に頑張ってこれだ。今まで積み重ねてきたお前に勝つのはそう簡単じゃないだろ?」

 言うまでもなく今回の勝利は奇跡に近いものがあった。

 もう一度同じことをしたとしても、おそらく勝てないだろう。

「……でも、勝った」

 祐奈(ゆうな)は、寂しそうに、だが、少しだけ、俺を励ますような声で、そう言い切った。

「絶対に勝てないはずなのに、あたしに追いついた。今回は奇跡だったかもしれないけど、次は違うかもしれない。あたしが積み重ねて来たものを康太はちょっと頑張れば追い抜いて行ける」

 祐奈(ゆうな)の言葉が、俺をむずがゆくした。

 褒め言葉に褒め言葉を上塗りしたような言葉ばかり出てくる。

 いや、会えば大抵罵倒する、あの祐奈(ゆうな)がだぞ?

 なんかこう、意外過ぎて気味が悪い。

 もしかして、こいつなりに落ち込んでるんだろうか。

 さっき見る限り、態度が変わったのは俺へだけだ。

 実は俺に負けたことがショックで、隠してるけど結構落ち込んでて、だから俺への態度がおかしくなってるのかも知れない。

「なあ、もちろん俺も頑張るけどさ。お前も頑張ればいいじゃん。今まだお前に分があるんだからさ、その差を縮められないようにすればいいんじゃないか?」

 何となく、俺の方が励ます雰囲気になっていた。

 だけど、この態度はさすがに祐奈(ゆうな)らしくない。

 確かに今までの祐奈(ゆうな)はうっとおしかったけど、嫌いじゃなかった。

 だから、元に戻るなら戻って欲しい。

 いや、何ていうか、あの祐奈(ゆうな)だから、パンツよこせと言って悔しがりながらも、俺にパンツを見せる屈辱を味わわせたいってのがあった。

 こんな素直な祐奈(ゆうな)にはそんなことしても可哀想に思えるだけだ。

「うん……もちろん、頑張るけど、もう、康太にはかなわないかな」

 これまでの祐奈(ゆうな)なら絶対に言わない言葉を言われ、俺は困惑する。

 元凶は何だ?

 俺がパンツの所有権をよこせと言ったことなのか?

 だったらもうそれはいい。

 そうだろ? こんな祐奈(ゆうな)を見続けるくらいなら、祐奈(ゆうな)のパンツなんて。

 ……パンツなんて……!

 くそっ! 心のどこかでパンツが見れなくなるのを惜しんでる俺がいる。

 今朝見た、祐奈(ゆうな)のパンツを思い出して頭から離れない。

 あれが見れなくなるのは惜しい、毎日見たい、そう思う心がどんどん大きくなってくる。

 いや! だからと言ってこのままの祐奈(ゆうな)とこれから付き合っていくのか?

 ちょっと待て、おとなしくて従順な祐奈(ゆうな)の何が悪い?

 祐奈(ゆうな)は元々可愛いし、そこにこの従順さが加われば、最高の女の子じゃないか!

 そうなることの、何が悪いんだ?

 悪くない。

 むしろ望ましい。

 いや、それが元からの性格ならいい、だがこいつが今精神的に歪んだ状態になってて、その結果がこの性格ならまずいだろう。

 だから、俺は、賭けを……!

 ちょっと待て、原因は本当にパンツの所有権か?

 他にも原因があるかもしれないだろう。

 俺に負けたことそのものなら、パンツの所有権を返したところでどうしようもない。

 何も変わらないだけだ。

 そう、パンツが見れなくなるだけで、何も変わらない!

 最悪の状態だ。

 だから……だから……!

 俺の頭の中で、天使と悪魔が囁き合っている。

 俺は最大限に混乱していた。

「……どうしたの、康太?」

 俺をのぞき込む祐奈(ゆうな)

「いや、何でもない」

 少し、様子を見よう。

 俺は、態度を保留することにした。

 自分が少し情けないと思った。

 ま、いいさ、一日二日延びただけでこいつがどうにかなるわけじゃないからな。

 祐奈(ゆうな)とはそのままの、これまでとちょっと違った感じで一緒に帰り、家の前で別れた。


 俺は、とうとうおかしくなったんだろうか?

 朝、祐奈(ゆうな)のパンツを見てから、それが離れない。

 別に一日中そればっかりを考えてたわけじゃないが、何かふっと気を抜いた瞬間にはだいたいそれを思い出していた。

 相手は祐奈(ゆうな)だ。

 毎日会ってるあの祐奈(ゆうな)だ。

 もちろん毎日会ってるんだがパンツなんてここ最近見たことがない。

 ただそれを見たってだけで、別にそれだけの話だ。

 なのに、どうしてだか頭から離れない。

 やばい、何かやばい。

 俺は、こんなにエロい男だったのか?

「ただいま、あれ? もうテスト終わったんじゃないの?」

 珠優(みゆ)が帰って来て、勉強机に座る俺に言う。

「ああ、予習復習くらいしておこうと思ってさ」

「へえ、凄いね。本当に勉強する気になったんだ」

 そう言いながら制服を脱ぐ珠優(みゆ)を、なんとはなしにじっと見ていた。

「? どうしたの、お兄ちゃん?」

 下着姿の珠優(みゆ)が俺に視線に気づいて聞く。

 うーん、珠優(みゆ)のパンツどころか半裸を見ても何も思わないんだがな。

「いや、何でもない」

 俺が目を背けると、珠優(みゆ)は不思議そうに首を傾げたが、すぐに服を着た。

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