ケサランパサランの鉢植え
このメンタルクリニックでは、ケサランパサランの鉢植えが処方されていた。
「ケサランパサランの鉢植え、処方しますね。
後で受付でもらって下さい。」
受付に来ると鉢植えを渡された。
鉢植えには、
真っ白でふわふわした毛玉のような生き物が、ちょこんと生えている。
くりくりとした目にニコニコしている口元。
「なんですかこれ?」
「ケサランパサランですよ。」
「まさか、本気でこれを処方箋と?・・・」
「はい。」
「これ、何をしてくれるんですか?」
「ずっとニコニコしてるだけですよ」
「え!?そ、それだけ!?」
「はい。それだけです。副作用もありません。」
いや、副作用もありませんって・・・。
病んでるのにこんなおもちゃみたいな生き物を飼うなんて。
注意事項は一つだけ。
朝に一度、日の当たる場所で水をあげること。
あげないと、だんだん小さくなり、やがて枯れて死んでしまいます。
帰宅すると、僕は鉢をベランダに置いた。
翌朝、目覚ましが鳴っても二度寝したくなった。
でも、ふと鉢を見ると、ケサランパサランはずっとニコニコとこちらを見ている。
なんだか申し訳なくなって、起き上がって水をあげた。
それからまたベッドに戻り、二度寝コース。
しかし、それを繰り返しているうちに、少しずつ身体のだるさが抜けていった。
朝、水をやるために起きる。
それが習慣になると、自然と体が軽くなってきた。
ある朝、僕は鉢に向かって小さく呟いた。
「ありがとう。君がいてくれて良かった。」
僕がお礼を言ったけど、
ケサランパサランは、相変わらずニコニコしているだけだった。
♦︎
帰宅した家で俺は苛立っていた。
「何だよ、ケサランパサラン処方って。
しかもニコニコしてるだけで何の役にも立たないなんて。やっぱり普通の薬を出してくれる医者を探すか・・・。」
ケサランパサランは、ただただニコニコしている。
最初は水をあげなかった。
すると、一日ごとに体が小さくなり、ショボンとしていた。
その姿を見て、さすがに俺はバツが悪くなり、
日の当たる場所へ移動させると水をやった。
ある日、
人付き合いでいざこざを起こした俺は鉢植えを睨んだ。
「くそ、いいよなお前は気楽でよ。何の苦労も知らないで。」
俺が毒を吐いても、ケサランパサランはただニコニコしているだけだ。
一か月後。
俺は泣きながら鉢植えに抱き付いていた。
「酷いこと言って俺が悪かったよぉ・・・くそがぁ・・・。」
ケサランパサランは、いつものようにニコニコしている。
それ以来、人が変わったように穏やかになったことで周囲の人からは気味悪がられたらしい。
朝、太陽の光を浴びながら鉢植えに水をやる。
ケサランパサランは、今日もニコニコしている。




