第2話 聖女やらせてください!!
「申し訳ございませんが、お断りいたします」
ディアナが断ったことにアルバートとクライヴが驚く。
しかし、その一方で村長な何かその原因に思い当たる節があるようで黙ったままだった。
「それでは畑仕事に戻りますので、失礼いたします」
そうして彼女が一礼して去った後、クライヴが口を開く。
「見事に振られましたね」
「彼女はどうして承諾したかったんだ……そんなに聖女が嫌だったのだろうか」
考え込むアルバートに対して、村長が返答する。
「メリットがなかったからでしょうな」
「メリット?」
「ディアナにとってここの暮らしはのんびり暮らせる場所そのものです。王宮に行って聖女にでもなってみれば、『休み』もないからでしょう」
「そんなに休みが欲しいのか」
村長は苦笑いする。
「あの子は休むことに目がないのです。それと、あの子の出自が関係しているのだと思います」
「出自……?」
「あの子はアーネット伯爵の娘です」
「何!?」
「私は、もともとアーネット家の執事でございました。ディアナが五歳になった頃のある日、母親の身分が低いからと、孤児院に預けてくるようにと奥様に申しつけられました。しかし、当時の孤児院は環境もひどく、とても生活ができる状況ではありませんでした。そこで、私はアーネット家の執事をやめ、密かにディアナを引き取って育てることに決めたのです」
村長が語るディアナの過去と村長の想いを知って、アルバートは何も言えなくなる。
「その後、私はしがない村の村長をしながら、ディアナと静かに暮らしています」
「ディアナは自分が貴族の生まれだということは知っているのか?」
「知っています。ですから、自分を捨てたアーネット伯爵家、ひいては貴族や王族に関わることを嫌がっているのです」
彼女が自分の願いを断った原因を知り、アルバートは考え込む。
どうしたら彼女を救ってあげられるだろう。
だが、自分が聖女を行なうことも難しく、国民を不安にさせることも心が痛む。
そうしてしばらく考え込んだアルバートは、もう一度彼女のもとへ行くことにした。
ディアナはベンチに座って、緑豊かな風景を楽しんでいた。
(危なかった。もうすぐで騙されるところだった。殿下を語る新手のセールスなんてこんな田舎に来るのね)
なんと彼女は驚くことにアルバートが第一王子であることを信じていなかったのだ。
「さてと!」
立ち上がった彼女は再び畑に戻って早めに今日の仕事を終わらせてしまおうと考えた。
しかし、そんな彼女にアルバートが話しかける。
「ディアナ」
「あなたはさっきの……」
すると、突然アルバートは頭を下げた。
「先程はいきなり聖女になれ、だなんて申し訳なかった。村長から聞いたんだ、君の出自のこと」
「え……?」
その言葉にディアナは持っていた収穫用のかごを落としてしまいそうになる。
(村長が私の生まれについて語るなんて、まさか……本当に殿下なの……?)
「君が貴族や王族を毛嫌いしていることも理解した。それでも、私は君に『聖女』になってほしい」
諦めずにディアナに願い出るアルバートに、ディアナは申し訳なさそうに断る。
「申し訳ございませんが、私にはここを離れる気はありません。もちろん生まれのことであまり街の暮らしが好きでないことも理由ですが、私はここの暮らしが好きです。村長と暮らすここでの生活が好きなのです」
「そうか……」
アルバートはその言葉を最後にうつむいたまま、しばらく顔を上げない。
(諦めてくださったかしら……?)
「君の過去を聞いて、無理強いはしたくないと思った。だが、君の力が必要なんだ」
「殿下……」
(殿下という身分のあるお方がこんなにも私に頭を下げてくださっている……)
難色を示す彼女に、アルバートは最後の手段といった様子で勢いよく顔をあげて手の指を三にしてディアナに目いっぱい向けた。
「【週休三日・三食保証・高給料】! 君が聖女になってくれたら、この労働条件を約束しよう!」
「聖女やらせてください!!」
繰り返すが、ディアナは現金な女だった。




