第1話 聖女になるのはお断りいたします
「もういやだあああああーーーーーー!!!!」
「王子! 建国350周年の記念式典です。さすがに聖女が出ないわけにはまいりません」
「い・や・だ!! もうやりたくない!!」
「そんなことを言わず、さあいつものお洋服に着替えて……」
金色の綺麗な髪から覗く碧色の瞳。
そんな見目麗しい第一王子アルバートが、白と黒のシスター服に青の差し色が入ったドレスに身を包む。
「さあ王子、これを」
そう言って、側近クライヴが黒髪のロングヘアのカツラを王子に被せた後、仕上げに王子の頭から布を被せた。
この日も王子は『聖女』として、民衆の前へと姿を現した──。
◇◆◇
式典が終了すると、クライヴはソファにうなだれている王子に声をかける。
「王子、今日もさすがの聖女っぷりでございました」
「疲れた……俺は一回寝る」
ふらふらになりながら、彼は自室に足を運ぶ。
(たくっ……父上もクライヴも人づかいが荒い……)
そうしてアルバートがクライヴと別れて廊下の曲がり角に差し掛かった時、メイドたちの声が聞こえてきた。
「いたっ!」
「どうしたの? 大丈夫?」
メイドの一人が怪我をしたのを心配そうに見て言う。
「指切っちゃったみたいで……」
「あら、結構深く切ってるわね……。回復魔法できる人に早く見せてきなさいよ」
「回復魔法……?」
「え? お城だからいるでしょ? 回復魔法が使える人くらい」
「何いってるの? 回復魔法なんて一般人が使えるわけないじゃない」
「うそ!? 私の田舎の村ではどんな傷もすぐに治してくれる子がいたわよ!?」
その言葉を聞いたアルバートは目の色を変えた。
そして、彼女らに近づくと食い気味に質問をする。
「その村はなんて村だ!」
「殿下!」
「頼む、教えてくれ! その村はどこで『回復魔法が使える子』の名前を教えてほしい!」
「はい、マージャ村のディアナという少女です」
「ディアナ、だな。助かる!」
アルバートはメイドに礼を告げると、急いで馬の支度を進める。
(回復魔法が使えるディアナという少女、それが本当なら……)
アルバートを馬を走らせ、ディアナのもとへと向かった──。
◇◆◇
「今日もいい天気ね、トマトがいい実りだわ」
ディアナは自身のオレンジがかった髪を耳にかける。
日課である畑の仕事をしていた彼女は、大きく実ったトマトを手に笑みを浮かべた。
その時、村の入り口が騒がしいことに気づき、目を凝らしてみてみる。
どうやら村長とお偉い貴族が何か話しているようだ。
(なんだか嫌な予感がする……)
そう思った彼女は畑作業に戻ろうとしたが、その姿を見つけた村長が大声でディアナを呼ぶ。
「ディアナ! ちょうどよかった来てくれ!」
その声を聞いてディアナの肩がわずかにぴくりと動いた。
(ダメよ、ここで振り向いたら負け。こうやっていつも村長の泣き言に付き合って面倒になるんだから)
そう固く決心したディアナは聞こえないふりをして、作業を続けた。
しかし、その次の言葉で彼女の態度は一変する。
「ディアナ、お願いだ! 明日休んでいいから!!」
「はい、今行きます!」
ディアナは現金な女だったのだ。
村長に連れられて部屋に入ると、先程話していた貴族が椅子に座っている。
「ディアナ、こちら第一王子のアルバート殿下だ」
(殿下……? どうしてこんなところに……?)
そう思いつつも、ディアナは笑顔で挨拶をする。
「お初にお目にかかります、ディアナでございます」
「早速だが、君が回復魔法を使えるというのは本当か?」
「はい。小さい頃から使えますが、いかがいたしましたか?」
「やはりそうか……君は神の啓示を聞いたことはあるか?」
(神の啓示……頭の中で声がすることがあるけれどそれのことなのかしら?)
「神の啓示かはわかりかねるのですが、夢で見たことが実際に起こる事はよくあります」
「なっ……!」
アルバートは大きく目を見開いた。
それと同時に彼女の不思議な力がまさしく『聖女』の証であることを確信する。
「ディアナ、この国の『聖女』になって国を守ってくれないだろうか?」
「しかし、聖女様は確かすでにいらっしゃると伺っておりますが……」
「それは私だ」
「……え?」
「先代の聖女が不慮の事故でなくなったため、本来の儀式継承ができなかった。それゆえ、今代の聖女がどこにいるのかわからなかった。そして、回復魔法が使えた私に白羽の矢が立ち、聖女のふりをしている」
「ですが、以前幼い頃、父に連れられて見た聖女様はとても可愛らしいドレスを身にまとった小さな女の子でした」
「あの頃は体も小さく、女の子によく間違われていたんだ。だが、成長するにつれ、ガタイがよくなりすぎた。それにそろそろ裏声もきつい……」
(まさか聖女様を殿下がやっていらしたなんて……)
「聖女になると王宮に行くのでしょうか?」
「ああ、もちろんだ」
(王宮に……)
ディアナは何も答えられず、考えこむ。
そんな様子に心を痛めながらも、アルバートは深く頭を下げた。
「頼む、『聖女』をやってくれないか!」
少しの間を置いて、ディアナは口を開いた。
「申し訳ございませんが、お断りいたします」
ディアナはきっぱりと断ることができる人間だった。
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ラブコメな感じの明るいお話ですので、楽しんでいただけると幸いです。




