第37話 筋肉結婚式(ケーキ入刀は「正拳突き」でお願いします)
アイゼンラッド公爵領の都。その中心にそびえ立つ大聖堂は、かつてないほどの「熱気」に包まれていました。
今日は、この地を救った英雄――ジークフリート公爵と、聖女ルシナの結婚式。
本来、サンクチュアリ王国の結婚式といえば、繊細なレースをあしらった装飾と、清らかな賛美歌が流れる静謐な儀式であるはずでした。
しかし。
大聖堂の入り口に掲げられた看板には、力強い筆致でこう記されていました。
『本日のドレスコード:広背筋が強調される服装。なお、過度なパンプアップによる服の損壊は、領主の慶事につき不問とする』
この一文が、本日の儀式の全てを物語っていました。
◇
「……ルシナ様。本当に、本当に宜しいのですか?」
控室で、メイド長ヒルダが震える手で、ルシナのヴェールを整えていました。
鏡の中に映るのは、息を呑むほど美しい、純白のドレスを纏ったルシナ。
しかし、そのドレスは「常識」という名の束縛を物理的に拒絶した、特注品でした。
正面から見れば、清楚で可憐な花嫁。
ですが、その背中は腰のあたりまで大胆にカットされており、ルシナ自慢の「広背筋」と、脊椎の両脇で鋼のように隆起した「脊柱起立筋」が、照明の光を浴びて神々しく輝いていました 。
「ええ、ヒルダさん。これこそが、私の『正装』ですわ」
ルシナは満足げに、肩甲骨を寄せて胸を張りました。
その瞬間、ドレスの胸元の生地が、彼女の「大胸筋上部」の膨張に耐えきれず、ミシミシと悲鳴を上げました。
「筋肉を隠すことは、神から授かった美しさを否定することと同じですもの。……さあ、ジーク様を待たせてはいけませんわね」
◇
パイプオルガンの重厚な旋律が響き、大聖堂の重い扉が開かれました。
バージンロードの先に立っていたのは、「超々ストレッチ素材」のタキシードを纏ったジークフリート公爵でした。
彼の肉体は、今や一つの「概念」に到達していました。
首から肩へと流れる僧帽筋は、ダイヤモンドのような硬質な輝きを放ち 、肩を覆う三角筋は、タキシードの袖を限界まで押し広げ、もはや布ではなく「皮膚の一部」のように密着しています 。
「……っ!!」
ルシナが歩み寄る姿を見た瞬間、ジークフリートの「大胸筋」が感動のあまり激しく痙攣しました。
(ああ、ルシナ……。なんて……なんて見事なコンディションなんだ! 広背筋の下部にまでしっかりと血管が走り、僧帽筋中部がドレスの白さを凌駕するほどの陰影を作っている……!!)
ジークフリートの目には、彼女の美貌以上に、その「鍛え抜かれた機能美」が女神の奇跡として映っていました。 二人は祭壇の前で並び立ち、神官の前に立ちました。
「……汝、ジークフリート・アイゼンラッド。汝は、いかなる時も、バルクアップが滞る時も、減量で心が折れそうな時も、この聖女を愛し、共にプロテインを分かち合うことを誓いますか?」
「誓おう!! 私の全筋繊維に懸けて!!」
ジークフリートが答えた瞬間、その声量によって、大聖堂のステンドグラスがガタガタと震えました。
「……汝、ルシナ・ヴァレリウス。汝は、いかなる時も、相手のフォームが乱れた時も、怪我でスクワットができない時も、この公爵を導き、死ぬまでその肉体を管理することを誓いますか?」
「はい!! 私の指圧が塵になるその日まで、彼を『理想のマッチョ』として飼い慣らすことを誓いますわ!!」
それは、愛の誓いという名の「永久トレーニング契約」でした。
神官が「では、愛の証を」と言い終わる前に、二人は互いの腕を交差させ、黄金のシェイカーでプロテインを酌み交わしました。
そして。
披露宴のメインイベントが訪れました。
「さて、続きましては、結婚を記念しての『ケーキ入刀』に移らせていただきます!!」
運ばれてきたのは、ケーキではありませんでした。
それは、領内で獲れた最高級の魔獣オークの赤身肉を100キロ分積み重ね、特製のプロテイン・クリームでコーティングした、総重量150キロの「マッスル・ミート・ケーキ」でした。
「ルシナ、準備はいいか?」
「ええ、ジーク様。……刃物などは不要ですわね?」
「ああ。……二人で、『道』を切り拓こう!!」
二人は横に並び、ケーキの前に立ちました。
司会者が「せーの!」と合図を送った、その瞬間。
「「せああああああああああああああああああッ!!!!」」
ドゴォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!!
ルシナの正拳突きと、ジークフリートの手刀が、同時にミートケーキの中央に叩き込まれました。
爆発音と共に、ケーキは正確に真っ二つに「両断」され、衝撃波によってコーティングのプロテイン・クリームが会場全体に霧のように降り注ぎました。
「おおおおおっ!」「ナイス・カットォォォッ!!」「断面のサシが美しいぞ!」
参列していた騎士団、冒険者、そして「筋肉更生施設」から一時外出を許された元王子レオン(※現在、自重スクワット500回を無表情でこなすマシーンへと進化中)たちが、一斉に立ち上がりました。
「祝杯だ!! 総員、祝福のポージングを開始せよッッッッ!!!!」
ジークフリートの号令が飛ぶ。
バババババババッ!!
大聖堂を埋め尽くした数百人のマッチョたちが、一斉にタキシードを脱ぎ捨て、黄金の肉体を晒しました。
「「「サイドォォォッ! チェストォォォォォッッ!!!!」」」
数百人の大胸筋が同時に収縮し、発せられた熱量によって大聖堂の気温は一気に40度を超えました。
ルシナもまた、ブーケを空高く放り投げると、ドレスの背中の鬼を躍動させ、最高の笑顔でフロント・ダブル・バイセプスを決めました。
「最高ですわ、ジーク様!! 世界で一番、暑苦しくて幸せな結婚式ですわ!!」
「ああ、ルシナ!! 君は、私の、私の理想の伴侶だッ!!」
黄金の光と、舞い散るクリーム、そして男たちの雄叫び。
アイゼンラッド公爵家の結婚式は、後に「北の筋肉事変」として歴史に刻まれ、この日から辺境では「結婚式に服を着て参加するのは失礼」という謎の風習が生まれかけるのですが……。
それはまた、別のお話。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
ついに結婚式回です! ケーキ入刀が物理的な破壊行為になり、参列者が全員脱ぎ出すという、まさに「筋肉聖女」に相応しい大団円(?)でした。
「肉の断面を褒める参列者ww」 「神官の問いかけがプロテイン中心すぎる」
と、笑って楽しんでいただけましたら、 ぜひ【ブックマーク】登録と、 記事下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、二人のハネムーンのトレーニング器具が豪華になります!
(皆様の熱い応援のおかげで、ついに残すところあと2話となりました! 最後までパンプアップしていきましょう!)
次回、波乱の予感!? 「ハネムーン・ブートキャンプ」。 新婚旅行先でも、二人は休むことを知りません!
明日も更新しますので、絶対にお見逃しなく!




