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第36話 プロポーズ(一生、私のバルクを管理してください)

 アイゼンラッド公爵領に「春」を告げる勝利の祝宴。

 地下迷宮から生還し、悪魔の呪いを物理的に粉砕したジークフリート公爵と聖女ルシナを称えるため、屋敷の大広間には領民と騎士団が集い、熱気に包まれていました。


 テーブルの上には、アイゼンラッド領の豊かな大地で育った極太の野菜と、魔獣の赤身肉(プロテイン)が山のように積まれています。

 しかし、そんな喧騒の中、主賓席に座るジークフリートの心臓は、トレーニングの限界セット中よりも激しく脈打っていました。


(……今日だ。今日こそ、私は彼女に伝えなければならない)


 ジークフリートは、本日十一枚目となる礼装の襟元を正しました。


 彼の肉体は今、地下迷宮の『黄金のシェイカー』の光を浴び、かつてないほどの輝きを放っています。  

 頸部から背中の中央まで広がる広大な僧帽筋は、まさにダイヤモンドのような形状をした強固な盾となり、肩を覆う三角筋はメロンのように丸々と隆起して、腕の動きを完璧に支えています。

 背後から見れば、広背筋(ラット)が脇の下から力強く広がり、その中央では脊柱起立筋が一本の硬い杭のように背骨を保護していました。


 彼は隣に座り、無表情でローストビーフを咀嚼しているルシナを見つめました。

 彼女の存在が、彼を「死神」から「巨神」へと変えたのです。


「ルシナ……少し、いいか?」


「はい、ジーク様。デザートのプロテイン・バーなら、まだ予備が三本ありますわ」


「いや、そうじゃない。……皆、聞いてくれ!!」


 ジークフリートが立ち上がった瞬間、会場が静まり返りました。


 彼は衆人環視の中、ルシナの前に進み出ました。

 そして。


 ズゥゥゥンッ!!


 重低音を響かせ、ジークフリートはルシナの前で片膝をつきました。

 それは、騎士が主君に捧げる最上級の敬意であり、男が愛する女性に捧げる唯一の「求婚」の姿勢。  


 ルシナの(マッスル・サーチ)が、一瞬でジークフリートの姿勢をスキャンします。


(……素晴らしい。膝関節の角度は正確に九十度。大腿四頭筋にかかる負荷を、大臀筋と中臀筋の収縮で完璧に分散させていますわ。これぞ、腸腰筋が正しく機能している者だけが到達できる、理想的なランジ姿勢……!)


 ルシナは、その機能美に感嘆の吐息を漏らしました。

 しかし、ジークフリートの口から出た言葉は、彼女の予想を遥かに超える温度を持っていました。


「ルシナ・ヴァレリウス。……私は、君を愛している」


「…………え?」


 会場から「おおおっ!」と地鳴りのような歓声が上がります。

 ジークフリートは、彼女の小さな――けれど岩をも砕く――手を、自身の厚い手のひらで包み込みました。


「君のその鋼のような筋肉も、不調を一瞬で見抜く慈悲深い魂も、全てを心から愛している。……君がいなければ、私の心臓は正しく鼓動を刻むことすらできなかっただろう」


 ジークフリートの告白は、魂を削り出すかのように熱烈なものでした。

 彼は、ルシナの瞳を真っ直ぐに見上げ、言葉を続けます。


「私はもう、君なしでは生きられない。……一生、私の()()()()()()()()()()として、いや……私の()として、私の傍にいてくれないか?」


 会場は一瞬、真空になったかのような静寂に包まれました。


 そして、直後。


「いいよぉ! デカいよ!」「ナイスバルク! 結婚しちまえ!」「背中の鬼が喜んでるぞ!」


 騎士団員たちから、ボディビル大会のような野太いコールの嵐が巻き起こりました。


 ルシナの顔は、一瞬で完熟したトマトのように赤く染まりました。

 彼女の脳内では今、かつてないほどの化学反応が起きていました。


(……あ、愛? 私を? ……いいえ、落ち着きなさいルシナ。これは、つまり……『終身専属管理契約(生涯フルサポート)』の申し出!?)


 ルシナは深呼吸をし、腹圧を整えました。


 彼の言った「妻」という言葉。

 ルシナの筋肉脳は、それを「最も近くで、二十四時間体制で、筋肉の最良の状態を維持する法的権利を持つ者」と翻訳しました。


「ジーク様……。……本気、なのですか?」


「ああ。私の全細胞が、君を求めている」


「……分かりましたわ」


 ルシナは、力強くジークフリートの手を握り返しました。

 あまりの握力に、ジークフリートの指先で骨がミシミシと鳴りましたが、彼はそれを「愛の深さ」として満面の笑みで受け止めました。


「はい! 喜んで! ……その代わり、覚悟してくださいね?」


「覚悟……?」


「貴方のトレーニングメニューは、三食の栄養バランスも、夜の筋膜リリースも、死ぬまで私が管理(コントロール)しますわ!! 途中で『今日は脚の日を休みたい』なんて言っても、絶対に逃がしませんから!!」


「……望むところだッ!! 君という名の『重圧』なら、永遠に受けて立ちたい!!」


 ジークフリートは立ち上がり、ルシナを軽々とお姫様抱っこ(リフトアップ)しました。  


 バリィィィンッ!!!!


 本日十二枚目となる特注の礼装が、抱き上げた際の背筋と上腕二頭筋の膨張によって粉々に粉砕され、夜風に舞いました。


 月光の下、黄金の肉体を晒した公爵と、赤くなって微笑む聖女。  

 それは、歴史に残る「愛と暴力(物理的治療)」の誓いとなりました。


 会場の騎士たちが一斉にフロント・ダブル・バイセプスのポーズで祝福する中、二人の新しい生活が、今まさに始まったのです。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!


ついに、公爵様がやりました! プロポーズ大成功です!

本来なら感動のラブシーンのはずが、ルシナ様の手にかかれば「地獄の終身雇用契約」になってしまうのがこの作品らしさですね。

公爵様も、服が破れるたびに愛が深まっているようで何よりです。


「プロポーズの返答が怖すぎるww」 「公爵様、一生筋肉痛確定ですね」

と、ニヤニヤ(あるいは戦慄)していただけましたら、 ぜひ【ブックマーク】登録と、 記事下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、二人の結婚式のケーキが「赤身肉100kg」にアップグレードされます!

(皆様の熱い応援、本当にパンプアップの励みになります! ありがとうございます!)


次回、大団円へのカウントダウン! 「筋肉結婚式」。

ケーキ入刀ならぬ「ケーキ両断(素手)」!?

明日も更新しますので、絶対にお見逃しなく!

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