第34話 合体奥義:グランドクロス・プレス(愛の重力加速度は限界を知りません)
――ズ、ズ、ズ、ズンッッッッ!!!!!
地下迷宮の最深部、『大聖堂』に満ちていた「怠惰」の霧は、今や二人の全身から立ち上る黄金の蒸気によって、跡形もなく焼き払われようとしていました。
ジークフリート公爵の黄金の肉体と、ルシナの放つ聖なる輝き。
二つのエネルギーが筋肉という回路を通じて一つに溶け合い、空間そのものが共振を起こしています。
あまりの熱量に、周囲の四十倍重力場が歪み、光が屈折して虹色の輪を作り出していました。
「……見えますわ、ジーク様。悪魔の核が……。あのソファのような醜悪な肉の塊の奥底、もっとも『動くことを拒絶している』一点です!」
ルシナは、自身の広背筋(鬼の顔)を最大まで横に広げ、翼のように羽ばたかせました。
彼女の神経系は今、ジークフリートから伝播した爆発的な「やる気」によってオーバークロック状態。
毛細血管の一本一本にまで聖なる力が充填され、彼女の身体はもはや「生体組織の形をした高密度エネルギー体」と化していました。
「ルシナ……。私の準備は、整った。……我が人生における、最強の『1レップ』を、君に捧げよう!!」
ジークフリートは、祭壇の前で仰向けに横たわりました。
超重力によって地面が陥没する中、彼は両腕を天高く突き上げ、手のひらを広げます。
その姿勢は、まさに――「ベンチプレス」。
『な……!? この土壇場で、なぜ寝転がっている!? 正気か!? 死ぬのか!?』
怠惰の悪魔が、困惑と恐怖の入り混じった絶叫を上げました。
しかし、ジークフリートは不敵に笑い、自らの大胸筋をピクピクと波打たせました。
「寝転がっているのではない。……これは、君を『打ち上げる』ための、最強の発射台だッ!!」
「行きますわよ、ジーク様!! 全細胞、リミッター解除!!」
ルシナが、ジークフリートの手のひらの上に飛び乗りました。
二人の接点から、激しい火花が散ります。
ルシナの全体重と、四十倍の重力、そして彼女自身の筋力による踏み込み。
その全てを、ジークフリートは大胸筋と上腕三頭筋だけで受け止め、そして――。
「ふんッッッッッッッッ!!!!!!!!」
ドゴォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!!
爆発音。
ジークフリートが、ルシナを空高く押し上げました。
それはもはや挙上という次元を超えた、質量弾の射出。
ルシナの体は、黄金の光を纏った砲弾となり、大聖堂の天井へと消えていきました。
『な、……!? 消えた!? 上か……!?』
悪魔が仰ぎ見た瞬間。
天井の闇を突き破り、さらなる加速を伴って「死」が降り注いできました。
最高到達点で体を反転させたルシナは、重力加速度を味方につけ、さらに自身の脚力で空気を蹴って二次加速を敢行。
右拳を突き出し、全身のひねりを一点に集中させます。
「『物理』による救済を、その身に刻みなさい!!」
「そして……下からも逃がさんッ!!」
ジークフリートが跳ね起きました。
彼は本日九枚目となる予備のシャツを、ただ立ち上がった時の背筋の膨張だけで粉砕。
祭壇の床を蹴り破り、下から突き上げるような「アッパーカット」の体勢に入ります。
上からの重力落下。
下からの爆発的推力。
二人の拳が、悪魔の核を挟み込むようにして交差する――!!
「「合体奥義!! 『高質量十字絶対圧』ッッッッ!!!!!!」」
ズ、バ、ズ、バ、ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッッッッ!!!!!
瞬間、光が世界を塗りつぶしました。
上からのルシナの拳が、悪魔の外殻を粉砕し。
下からのジークフリートの拳が、悪魔の核を貫く。
二人の筋肉から発せられる「努力の波動」が、悪魔の内部で激突。
それは、数千年にわたって蓄積されてきた「怠惰」を、一瞬で「過労」へと反転させる、物理的な論理崩壊でした。
『あ、ああああああああああああああああああああああッ!!?? 熱い……! 動きすぎだ……! こんなに……こんなに頑張ったら……死んでしまうぅぅぅぅぅぅぅッ!!』
悪魔の構成物質が、過剰なまでの活力に耐えきれず、次々と「燃焼」し始めました。
怠惰の王は、自身の存在理由である「休息」を奪われ、文字通り「努力のしすぎ」で蒸発していったのです。
……沈黙。
爆風が収まった後。
大聖堂の中央には、お互いの拳を合わせたまま、背中を合わせて立つ二人の姿がありました。
黄金の汗が、宝石のようにきらきらと舞い落ちます。
祭壇の上にあった『聖なるシェイカー』からは、黒い澱みが消え、透き通った黄金の液体が溢れ出していました。
「……やりましたわね、ジーク様」
「ああ。……ルシナ。君の手、温かいな」
ジークフリートは、そっと自分の拳を解き、ルシナの小さな、けれど鋼鉄のように硬い手を確認しました。
彼の目には、もはや悪魔の遺灰など映っていません。
そこにあるのは、共に地獄のセットを戦い抜いた、最愛の戦友の姿だけ。
その時、シェイカーから放たれた光が、ジークフリートの身体を包み込みました。
長年、彼の血筋を蝕んでいた「怠惰の呪い」が、音を立てて砕け散りました。
もう、動いても衰弱することはありません。
むしろ、動けば動くほど、彼はどこまでも強く、逞しくなれる。
それは、数千年ぶりにアイゼンラッドの血筋が手に入れた、本当の「自由」でした。
「おめでとうございます、ジーク様。……貴方は今、この瞬間、人類最強の『動ける公爵』になりましたわ!」
「……ありがとう、ルシナ。だが、最強なのは私ではない」
ジークフリートはルシナを抱き寄せ、その銀髪に顔を埋めました。
「私を最強にしてくれた君こそが、私の世界の、唯一の聖女だ」
二人の愛(と筋肉)の力が、地下深くの闇を完全に払い、アイゼンラッド領の凍てついた大地を、内側から温め始めていました。
スタンピード、王都の刺客、そして古代の呪い。
全ての「障害」を物理で粉砕した二人の、勝利のポージングが、地下宮殿に長く刻まれることになったのです。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
ついに、怠惰の悪魔を「過労」で消滅させました! 合体奥義『グランドクロスプレス』。
上からメテオ、下からアッパー。
物理的にサンドイッチされた悪魔君、最後は「頑張りすぎ」て蒸発するという、まさに因果応報な結末でした。
「シャツのストックが心配ww」 「努力の波動で蒸発するとか新しいww」
と、スッキリしていただけましたら、 ぜひ【ブックマーク】登録と、 記事下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、ジーク様のシャツの耐久度が1アップします!
(皆様のブックマークのおかげで、ついに最終回まであと数話! 最後まで駆け抜けます!)
次回、凱旋。 呪いが解けたアイゼンラッド領に、本当の春がやってくる! そして、王都側への最終的な「落とし前」とは!?
明日も更新しますので、絶対にお見逃しなく!




