表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/39

第32話 愛のスクワット(筋肉痛の向こう側へ)

「……重い。なんと……なんと素晴らしい重みなんだ……っ!」


 地下迷宮の最深部、四十倍の重力が支配する『大聖堂』。

 ジークフリート公爵は、自身の背中に、動けなくなったルシナを「おんぶ」の形で担ぎ上げていました。


 ただでさえ自分の体重を支えるのがやっとの超重力環境。

 そこにルシナの体重(高密度の筋肉による、見た目以上の質量)と、彼女が身につけている重合金製のトレーニング用具の重さが加わります。

 ジークフリートの脊柱起立筋には、今、一国の運命を背負うよりも重い、物理的な「愛の重圧」がかかっていました。


「あ、ああ……ジーク様……申し訳ありません。私の神経系が、悪魔の魔力でハッキングされて……」


 背中でルシナが、消え入るような声で呟きます。


 彼女の全身は、悪魔の『絶対休息(オール・レスト)』によって弛緩し、指一本動かせない状態。

 しかし、その耳元に、ジークフリートの力強い、地鳴りのような鼓動が届きました。


「謝る必要はない、ルシナ! ……むしろ、感謝したいくらいだ。君の体温を背中で感じ、その圧倒的な質量に押し潰されそうになるこの感覚……。これこそが、私が求めていた『究極の加重(ウエイト)』だッ!!」


『狂っている……貴様ら、本当に正気かッ!?』


 祭壇の上で、怠惰の悪魔が絶叫しました。

 悪魔は、自身の霧状の腕を巨大なハンマーへと変形させ、二人の頭上へと振り下ろしました。


『死ねッ! 動けぬまま、その無駄な肉塊ごと押し潰してくれるわッ!!』


 漆黒の重力波を纏った一撃。


 逃げ場はありません。

 普通なら、ここで二人は「怠惰の塵」と化していたでしょう。


 しかし。

 ジークフリートは、不敵に笑いました。


「……見える。君が教えてくれた、正しい回避のフォームが!」


 ジークフリートは、ルシナの脚を自分の腰にしっかりと固定させると、大きく息を吸い込みました。

 腹圧を最大まで高め、骨盤をわずかに前傾。


「ふんッ!!」


 ズゥゥゥゥゥンッ!!


 彼が膝を曲げ、深く腰を落とした瞬間――。


 悪魔のハンマーが、彼の頭上わずか数センチの空間を空しく切り裂きました。


『……な、何!? 避けた……だと!?』


「いいえ、ジーク様……。それはただの回避ではありませんわ」


 背中でルシナの瞳が、プロフェッショナルな輝きを取り戻しました。

 体は動かずとも、彼女の(マッスル・センサー)はジークフリートの動きを完璧に分析していました。


「……フル・スクワット。膝の角度、股関節の連動、そして重心の安定。……なんて、なんて完璧なボトム・ポジションなの……っ!」


「その通りだ、ルシナ! 悪魔の攻撃は、私にとって『しゃがむタイミング』を教えてくれる合図に過ぎないッ!!」


 ジークフリートは、太もも(大腿四頭筋)が破裂せんばかりの力で地面を蹴り上げました。


 バキキキキッ!!


 超重力によって圧縮された空気を突き破り、彼は垂直に立ち上がります。


「1レップ!!」


「……っ!! 素晴らしいわ、ジーク様! 今の切り返し、おしり(大臀筋)の爆発力が完璧です!」


『ふざけるなッ! これならどうだッ!!』


 悪魔が逆上し、触手による連続攻撃を仕掛けてきました。

 左右、上下、死角からの同時攻撃。


 しかし、ジークフリートはステップ一つ踏むことなく、その場でリズムを刻み始めました。


 ドスン。バキッ。ドスン。バキッ。


 触手が右を薙げば、深く沈み込んで回避。

 触手が左を突けば、立ち上がりの勢いで弾き飛ばす。


 その光景は、死闘というよりは――「世界で最も過酷なパーソナル・トレーニング」でした。


「2レップ! 3レップ! 4レップ!!」


「いいですよ! 背筋を丸めないで! 視線は前です!」


「おおおおおおおっ!! 効く……! 効くぞ、ルシナ!! 悪魔の殺意が、私の筋繊維を一本残らず破壊していく感覚……! これが、これが『愛』なのかッ!!」


『貴様らぁぁぁぁぁぁッ!! 戦え! まともに戦え!! なぜ私の攻撃に合わせて屈伸運動をしているんだぁぁぁぁッ!!』


 悪魔の精神が、先に限界(オーバーワーク)を迎えようとしていました。


 自分の全力の攻撃が、相手にとっての「丁度いいトレーニングの補助」に利用されている。

 その事実が、プライドを糧とする悪魔にとって何よりの毒だったのです。


 ジークフリートの全身からは、摩擦熱と筋肉のエネルギーによって蒸気が立ち上り、周囲の黒い霧を浄化(デトックス)し始めました。  


「……ああ。見えます、ルシナ。……筋肉痛の向こう側にある、光の世界が……!」


「ダメです、ジーク様! 意識を飛ばさないで! あと20回! あと20回で『神のパンプアップ』に到達しますわ!」


 ジークフリートの意識が朦朧とする中、彼の肉体は既に「思考」を必要としていませんでした。


 ルシナの重み。

 悪魔の重圧。

 それら全てを「喜び」として受け入れる彼の肉体は、今、人類の限界を超えようとしていました。


「……私は、負けない」


 ジークフリートの瞳が、黄金色からプラチナのような白光へと変わりました。


「筋肉は……裏切らない。……そして、筋肉を信じる君も、私を裏切らないッ!!」


 ドドドドドドドドンッ!!!!


 地面が激しく陥没し、ジークフリートの全身から黄金のオーラが噴き出しました。

 『聖なるシェイカー』が彼の熱量に共鳴し、凄まじい光を放ち始めます。


「ルシナ……! 準備はいいか!?」


「……はい、ジーク様。神経のロックが、貴方の熱で溶けました。……最後のセット、お供しますわ!!」


 背中でルシナの腕に、かつてないほどの力が宿りました。

 二人の筋肉が、重力と絶望を糧に、完全なる「共振(レゾナンス)」を開始したのです。


 悪魔は、その眩い光を前に、ただ呆然と立ち尽くすことしかできませんでした。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!


ついにラスボス「怠惰の悪魔」との最終決戦本番です。

マッチョにとって一番怖いのは、「今日は筋トレいいや……」と脳が囁く瞬間。

あのルシナ様でさえ折れかけるほどの精神攻撃を、公爵様が「愛(という名の筋肉脳)」で突破しました!


「全レップ、ノーカウントww」 「ドーパミンまで操る悪魔、ガチで強敵すぎる」

と、手にプロテインを握っていただけましたら、 ぜひ【ブックマーク】登録と、 記事下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、ジーク様の神経伝達速度が上がります!

(皆様の★が、物語を完結へと押し進める最大出力になります! ありがとうございます!)


次回、絶体絶命の二人が放つ、究極の共同作業。 逃げ場のない高重力下で、二人は「あのポーズ」を決める!?

明日も更新します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ