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第29話 呪いの源(伝説のジムへようこそ)

 公爵邸の庭に突如として現れた、底の見えない巨大な縦穴。

 そこからは、生物の根源的な活力を奪い去るような、どろりとした漆黒の魔力が溢れ出していました。


「……う、ぐ。身体が、重い……。まるで、全身の細胞が『今日は公休日だ』と主張しているような……」


 ジークフリート公爵は、膝をガクガクと震わせていました。


 穴の底から漂ってくる『怠惰の悪魔』の残滓――それは、意識を持つ者の脳内に「今日はジムを休んで二度寝しよう」「プロテインを振るのが面倒くさい」「そもそも人間は動かなくても生きていける」という、マッチョにとって死よりも恐ろしい甘い誘惑を直接流し込む精神汚染でした。


「しっかりしてください、ジーク様! それは筋肉への裏切り(カタボリック)ですわ!」


 パゴォォォォォンッ!!


 ルシナの強烈なビンタが、ジークフリートの頬に炸裂しました。

 衝撃波で周囲の雪が円形状に吹き飛びます。


「ハッ……!? すまない、ルシナ! 一瞬、ベンチプレスの挙上重量を5キロ減らそうという妥協が頭をよぎった……! 私は、私はなんて浅ましいんだッ!」


 ジークフリートは自らの頬を打ち据え、再び黄金の瞳に闘志を宿しました。


 二人は暗い階段を駆け下り、地下数百メートルにある伝説の遺跡へと足を踏み入れました。

 そこに広がっていたのは、驚くべき光景でした。


「……これは、迷宮(ダンジョン)ではありませんわ」


 ルシナは、壁に設置された不思議な石の装置を見て、うっとりと吐息を漏らしました。


 広大な石造りの空間。


 そこには、数千年の時を経てもなお鋭い光沢を放つ、巨大な石の円盤(プレート)を連ねたシャフト。

 天井からは、滑車を介して巨大な岩を吊り下げる、複雑なワイヤーシステム。

 そして床には、衝撃を吸収するための弾力性のある魔獣の皮が敷き詰められていました。


「……見てください、この機能美。ここは、古代の勇者たちが己の限界を突破するために作り上げた、聖なる『高強度インターバル・トレーニング施設』……つまり、地上最古のゴールド・ジムですわ!」


「ジム……だと?」


 ジークフリートが困惑する中、ルシナは一つの石碑を見つけ、その文字を読み解きました。


「『汝、強さを求むる者よ。怠惰は心の錆なり。重力こそが神の抱擁であり、乳酸こそが魂の輝きなり』……。ジーク様、ここに貴方の家系にかけられた呪いの真実があります」


 ルシナは、施設の最奥に鎮座する、真っ黒な巨大な像を指差しました。


「アイゼンラッドの先祖は、かつてこの『聖なるジム』の管理人だったのでしょう。彼らは筋肉を鍛え、世界を救いました。しかし、その強すぎる活力を妬んだ『怠惰の悪魔』が、施設のエネルギー源を乗っ取り、逆流させた……。それが、貴方の血筋を蝕んできた『動けば動くほど衰弱する呪い』の正体ですわ」


『……クク、正解だ、筋肉小娘。よくぞ見抜いた』


 暗闇の中から、先ほどの『怠惰の悪魔』が、実体化して現れました。

 それは、複数の人間の腕が絡まり合い、巨大なソファのような形をした、醜悪な肉の塊でした。


『この施設の地下には、地球の核から湧き出る“重力エネルギー”をプロテインに変換する、究極の錬金釜がある。……それを私が喰らえば、私は永遠に動かなくても最強の存在でいられるのだ!』


「そんなこと、させるわけがないでしょう!」


 ルシナが前に出ようとしますが、悪魔が指をパチンと鳴らしました。  


 ――ズォォォォォォンッ!!


 二人の頭上に、不自然なほど強力な重力場が発生しました。

 通常の十倍、いや二十倍の圧力。


「ぐ、ぅ……身体が、床にめり込む……!」


「あら? これは……」


 ジークフリートが四つん這いになって苦しむ中、ルシナは片膝をついた姿勢で、自分の上腕二頭筋を確認しました。


「……素晴らしい。自重トレーニングが、これほど高負荷になるなんて。悪魔さん、意外と気が利くではありませんか」


『何……!?』


「ジーク様! これはチャンスです! この高重力下で『腕立て伏せ(プッシュアップ)』を行えば、短時間で爆発的なパンプアップが期待できますわ!」


「ルシナ……君という人は……! ああ、分かった。……確かに、今の私は絶好調だ。この重み、まるで君が私の背中に乗っている時のような、心地よい圧迫感だッ!!」


 ジークフリートの脳内で、悪魔の重力攻撃が「ルシナからの熱烈なバック・マッサージ」へと変換されました。

 アドレナリンが噴出し、血管が怒張します。


 バキバキバキッ!!  


 ジークフリートの背筋が、重力に逆らって隆起し、服をまたしても(本日六枚目)粉砕しました。


「おおおおおおおおっ!! 効く……! 効くぞぉぉぉぉぉッ!!」


 悪魔の攻撃を「無料のパーソナル・トレーニング」として楽しみ始めた二人を前に、怠惰の悪魔は初めて「恐怖」という感情を覚えました。


『な、なんだ……この生物たちは……。呪いが、私の呪いが……物理的に押し返されている……!?』


「さあ、悪魔さん。……本日のメニュー、第2セット開始ですわ!」


 伝説のジムに、狂気と歓喜の掛け声が木霊します。

 最終決戦は、もはやどちらが先に限界突破(オールアウト)するかの、壮絶な持久戦へと突入するのでした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ついに呪いの正体が判明しました。 呪い=ジムの管理不行き届き。 そして、敵の必殺技である高重力攻撃を「丁度いい重し」として利用するルシナ。 彼女にとって、この世にトレーニングにならない場所など存在しないのです。


「悪魔の能力がマッチョに利敵行為ww」 「公爵様、そろそろ服が足りなくなるのでは?」

と、笑っていただけましたら、 ぜひ【ブックマーク】登録と、 記事下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、ジーク様の最大挙上重量が更新されます!

(皆様の★評価、本当に励みになります! 毎日ありがとうございます!)


次回、地下迷宮の最深部。 勇者が遺した「究極のプロテイン」が、奇跡を起こす!?

明日も更新します!

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