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第28話 黒幕の正体(筋肉を喰らう悪魔と、リボ払いの末路)

 ルシナが放った『聖女の鉄槌(マッスル・メテオ)』の衝撃波が収まり、辺境の地に静寂が戻りました。


 爆心地に穿たれた巨大なクレーターの縁で、王都査察団の馬車は横転し、その影には這うようにして逃げようとする二人の男女がいました。


 査察官ドランと、偽聖女アリアです。


「ひ、ひぃ……あんなの人間じゃない……! あんな暴力、神が許すはずがないわ!」


 アリアは泥にまみれ、ガタガタと震えながら懐の「魔笛」を強く握りしめていました。


 彼女の計画は完璧だったはずです。

 スタンピードを引き起こし、領地を壊滅させ、ルシナを「守りきれなかった無能」として陥れる。


 しかし、現実はどうでしょう。


 一万の魔獣は「騎士団のポージング」に阻まれ、最強のベヘモスは「ルシナの(かかと)」によって文字通り粉砕されました。


「認めない……! 認めませんわよ! 私は……私は王太子の婚約者! この世で最も美しく、最も慈悲深い聖女なんですのよッ!」


 アリアは狂ったように叫び、杖を高く掲げました。

 彼女は自分の崩れかけた顔(恐怖で引きつった表情)を治そうと、残された全魔力を振り絞って治癒魔法を唱えようとしました。


「『ホーリー・ビューティー・リカバー』!!」


 しかし。


 魔法が発動する代わりに、彼女の身体を襲ったのは――()()()()()()()()()でした。


 ピキピキピキ……ッ!!


 アリアの肌から、急速に水分が失われていきました。


 瑞々しかった頬は一瞬で枯れ木のように乾燥し、艶やかだった金髪は色素を失って白銀へと変わります。

 ドレスから覗く手首は、老人のように細く、醜くしわが寄っていきました。


「な、……え? 手が……私の手が!? 鏡! 鏡を出しなさいドランッ!!」


「あ、アリア様……ヒッ、化け物ォォォッ!!」


 ドランが悲鳴を上げて逃げ出しました。


 アリアは水たまりに映る自分の姿を見て、魂が凍りつくのを感じました。

 そこに映っていたのは、二十歳の少女ではなく、(よわい)八十を超えたかのような老婆の姿だったからです。


「これが、貴女が続けてきた『魔法のリボ払い』の最終通告(デフォルト)ですわ」


 静かな声が響きました。


 見れば、クレーターから悠然と歩いてきたルシナが、腕を組んで彼女を見下ろしていました。

 その後ろには、上着を失い(本日四枚目)、黄金の肉体を晒したジークフリートが控えています。


「ル、ルシナ……! 貴女、私に何を……!」


「何もしていません。貴女が安易な治癒魔法で『筋肉の再生』を前借りしすぎたせいで、身体の細胞が寿命を迎えただけです」


 ルシナは、アリアの腕を指先でツンと突きました。

 それだけで、アリアの皮膚はボロボロと剥がれ落ちそうになります。


「筋肉は、破壊と再生を繰り返して強くなるもの。貴女はそのプロセスを魔法で省略し、強制的に『治ったこと』にしてしまった。……結果、貴女の身体には『再生するための資源』がもう残っていないのです。筋分解(カタボリック)の果てにある、完全なる枯渇……。これが、筋肉を裏切った者の末路ですわ」


「嫌……嫌ぁぁぁぁっ! 治して! 貴女のその腕で、私をマッサージしてぇぇっ!」


「お断りします。貴女の今の身体は、私の指圧に耐えられません。一押しで(ちり)になりますわ」


 非情な宣告。


 アリアはその場に崩れ落ち、泣き喚きました。

 かつての栄光も、美貌も、権力も。全ては筋肉という土台の上に築かれた砂の城だったのです。


 その時でした。


 ――グ、ググ……、ハハハハハ……!!


 アリアの背後の影から、粘りつくような笑い声が聞こえてきました。

 同時に、大気を凍らせるような強烈な()()()が、その場を支配しました。


「……なんだ、この感覚は」


 ジークフリートが眉をひそめます。


 あれほど(たぎ)っていた筋肉の熱が、急速に冷えていく。

 膝に力が入りにくくなり、猛烈な眠気が襲ってきます。


「筋トレ……面倒くさい……。プロテイン……飲みたくない……。このまま寝ていたい……」


 ジークフリートの口から、信じられない言葉が漏れました。

 ルシナは目を見開き、ジークフリートの頬を全力で(物理)叩きました。


 パゴォォォォンッ!!


「目が覚めましたか、ジーク様!?」


「ハッ……!? すまない、ルシナ! 一瞬、ベンチプレスよりも昼寝の方が魅力的だと思ってしまった……! 私は、私は死ぬべきだッ!!」


 ジークフリートが激しい自責の念に駆られる中、アリアの影が大きく膨らみ、実体化しました。


 それは、真っ黒な霧で形成された、実体のない怪物の姿。


『……クク。これほど質の高い活気(エネルギー)が、この辺境にあるとはな』


「……貴様が、ジーク様の呪いの正体か?」


 ルシナが前に出ました。

 彼女の筋肉レーダーが、敵の正体を補足(サーチ)します。


「なるほど……。貴方は『怠惰の悪魔』。人のやる気を奪い、筋肉を萎縮させることで、その余った生命力を糧にする寄生虫(パラサイト)ですね」


『その通りだ、小娘。私は人の“動きたくない”という本能に潜り込む。かつての公爵は、私の最高のご馳走だった。動けば動くほど、私が彼の活力を吸い取り、肉体を腐らせる……。それこそが、我が呪いの真実よ』


 悪魔は、空中を漂いながら嘲笑いました。


『だが……想定外だった。まさか、物理的な痛み(マッサージ)によって、無理やり身体を再起動させる狂人が現れるとはな。おかげで私は、一時的に彼の内側から追い出されてしまった』


「追い出されたのなら、そのまま消え失せなさい。今のジーク様には、貴方に分け与える脂肪(エサ)など一グラムもありませんわ!」


『クク……。ならば、強引に奪うまでよ。この地の下……。(いにしえ)の戦士たちが残した“力の根源”を喰らい、私は完全なる実体を得る。……さらばだ、筋肉の申し子たちよ』


 悪魔はそう言い残すと、地面を透過し、公爵邸の地下へと消えていきました。


 同時に、屋敷の庭の地面が激しく陥没し、隠されていた「地下大迷宮への階段」が姿を現しました。


「……逃がしませんわ」


 ルシナは、陥没した穴の底を見つめ、拳をボキボキと鳴らしました。

 その視線は、もはや怒りを超え、未知のトレーニング機器を見つけた時の高揚感に包まれています。


「ジーク様。あの悪魔、追いかけましょう」


「ああ。私の肉体(プライド)をバカにした代償、たっぷりと払わせてやる」


 ジークフリートは、予備のシャツ(本日五枚目!)を羽織り、ルシナの手を握りました。


「……ところでルシナ。あのアリアという女はどうする?」


 足元で老婆のように震えるアリアを一瞥し、ルシナは慈悲深く微笑みました。


「放置で構いません。……今の彼女に一番必要なのは、魔法ではなく『バランスの良い食事と、一日30分の散歩』ですから。それを自分で行えるかどうかが、彼女の残された人生の課題ですわ」


 こうして、二人は悪魔を追って、地下深くに眠る伝説の遺跡へと足を踏み入れました。


 そこは、数千年前の勇者が作り上げたという、「世界最古のトレーニングジム」だったのです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ついに黒幕「怠惰の悪魔」が登場しました。 マッチョにとって最大の敵は、強敵でも魔法でもなく「今日はジム行かなくていいかな……」という怠惰の心。

ジーク様の呪いの正体は、まさにそれだったのです。

そしてアリアさんの自滅……。 安易な回復魔法(リボ払い)の怖さを、現代社会の皆様にもお伝えできたでしょうか(?)。

やはりコツコツ貯金(貯筋)するのが一番ですね。


「魔法のリボ払い怖すぎる」 「悪魔の能力がダイレクトにマッチョを殺しに来てるww」

と、楽しんでいただけましたら、 ぜひ【ブックマーク】登録と、 記事下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、ルシナの地下迷宮でのセット数が増えます!

(いつも熱い応援、本当に励みになります! ありがとうございます!)


次回、地下迷宮探索編。 勇者が遺した伝説のプロテインを探して、二人が爆走します。

明日も更新します!

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