表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/39

第27話 聖女の鉄槌(位置エネルギーは正義の重みです)

「報告! 魔獣の群れの最奥より、超巨大個体が出現! ……あ、あれは『グランド・ベヘモス』です!!」


 物見櫓からの絶叫が、戦場に響き渡りました。


 地平線の向こうから現れたのは、山が動いているかと錯覚するほどの巨躯。

 全身を鋼鉄よりも硬い岩石の甲殻で覆い、一歩歩くたびにアイゼンラッドの城壁が地震のように激しく揺れます。


「グオォォォォォォォォォッ!!」


 大気を震わせる咆哮。

 その風圧だけで、並の兵士なら吹き飛ばされ、鼓膜が破れるレベルの衝撃波です。


 流石に「サイド・チェスト」で踏ん張っていたアイゼンラッド騎士団の面々も、その圧倒的な「質量」の前に、冷や汗を流しました。


「閣下……! 流石にあれを筋肉で受け止めるのは、関節の強度が持ちません!」


「ああ、分かっている」


 ジークフリートは、愛用の特注シャツ(本日三枚目)を脱ぎ捨て、岩のような大胸筋をピクピクと波打たせました。


「だが、引くわけにはいかん。……ルシナ、どうする?」


「ジーク様、ご安心ください」


 ルシナは、城壁の最も高い尖塔の上に立ち、月を背に銀髪をなびかせていました。


 彼女の瞳は、ベヘモスの巨体ではなく、その「頭蓋の頂点」を正確にロックオンしています。


「筋肉とは、物理の法則を具現化するための機関です。……今から、私が『神の数式』を証明してみせましょう」


「数式……?」


 ルシナは、法衣の裾をぐいっと太ももまでまくり上げました。

 露わになった大腿四頭筋は、美しくも恐ろしいほどの密度で凝縮されています。


「位置エネルギーは、『質量 × 重力加速度 × 高さ』。そして、衝突の衝撃力は運動エネルギーの減衰率に比例します」


 ルシナは深く膝を曲げ、溜めを作りました。


 バキバキバキッ!!


 彼女が踏みしめた尖塔の石造りが、その脚力に耐えきれず粉々に砕け散ります。


「つまり、『重い私が、高いところから、速く落ちれば、相手は死ぬ』。……これこそが、筋肉神学の第一テーゼですわ!」


「行きます!! 『聖女の鉄槌(マッスル・メテオ)』!!」


 ドォォォォォォォォォンッ!!


 大砲が発射されたような爆音と共に、ルシナの体は上空へと射出されました。


 雲を突き抜け、月さえも掴みそうな高度まで上昇。

 そして、最高到達点で体を反転させると、彼女は自身の体重に「全身の筋力による下方向への加速」を上乗せし、垂直落下を開始しました。


 シュゥゥゥゥゥゥゥッッ!!


 大気との摩擦で、ルシナの全身が赤く発光し始めます。


 地上の人々が見上げたのは、流星ではありません。

 正義の重みを乗せた、一人の聖女です。


「逃がしませんわよ、肩こり予備軍(べへモス)さん!!」


 落下速度は音速を超え、衝撃波(ソニックブーム)が周囲の空気を引き裂きます。


 グランド・ベヘモスが異変に気づき、頭上を見上げた瞬間――。


「せあっ!!!!」


 ルシナの右足、究極までパンプアップされた(かかと)が、ベヘモスの脳天に直撃しました。


 ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッッ!!!!!


 瞬間、音と光が消失しました。


 コンマ数秒の静寂の後、世界が爆発しました。


 ベヘモスの巨大な頭蓋が、スイカのように粉々に砕け散ります。

 衝撃波は地面を伝わり、周囲にいた数千の魔獣をドミノ倒しのように吹き飛ばしました。

 爆心地には直径数十メートルの巨大なクレーターが穿たれ、土煙が空高く舞い上がります。


 ……沈黙。


 魔獣たちは恐怖に凍りつき、戦意を完全に喪失して逃げ出しました。


 土煙がゆっくりと晴れていきます。


 クレーターの中心。  

 そこには、砕け散ったベヘモスの死骸の山の上で、静かに着地ポーズ(ランジの姿勢)を決めるルシナの姿がありました。


 彼女はゆっくりと立ち上がり、乱れた髪を指先で整えると、城壁の上で呆然としているジークフリートに手を振りました。


「ジーク様! 目標の粉砕、完了しましたわ!」


 その姿は、血と土にまみれながらも神々しく――。

 それを見ていた王都の使者たちは、震えながらその場に跪きました。


「……戦乙女(ヴァルキリー)だ」


「いや、あれは歩く天災だ……」


 一方、ジークフリートは、感極まった表情で自身の二の腕を抱きしめました。


「ルシナ……! なんて、なんて効率的で美しい放物線(アーク)なんだ……! 私の目は間違っていなかった。君こそが、私の筋肉の太陽だ!!」


 こうして、一万の魔獣によるスタンピードは、聖女の一飛びによって終結しました。


 この日を境に、ルシナの名は「戦乙女(ヴァルキリー)」として国中に響き渡ることになるのですが、本人は「落下の衝撃でふくらはぎに良い刺激が入りました」と、事もなげに筋肉痛を楽しんでいるのでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


これが物理特化聖女の「メテオ・ヒール(物理)」です。

複雑な魔術式よりも、重力と質量。それが最も確実な救済手段ですね。

ベヘモス君も、一瞬で楽になれたので幸せだったことでしょう。


「物理学の暴力ww」 「ルシナ様マジヴァルキリー」

と、スカッとしていただけましたら、 ぜひ【ブックマーク】登録と、 記事下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、ルシナの落下の衝撃波がさらに広がります!

(いつも熱い応援ありがとうございます! 皆様の★が私の広背筋を育てます!)


さて、スタンピードが解決したのも束の間。 逃げたアリアが自滅し、ついにこの騒動の裏に隠された「真の呪い」の正体が明らかになります。

次回、「黒幕の正体」。 物語は最終局面クライマックスへと加速します!

明日も更新します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ