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第25話 魔笛(負け犬の遠吠えは、魔獣の呼び声)

 アイゼンラッド公爵領の国境付近。

 荒涼とした岩場に、王都への帰路を急ぐ馬車が停まっていました。


「くそっ! くそっ! あんな屈辱、許せないわ!」


 馬車から降りたアリアは、ヒステリックに叫んでいました。


 彼女のプライドはズタズタです。

 得意の治癒魔法で負け、あろうことか「筋肉が死んでいる」と宣告されたのですから。


「アリア様、落ち着いてください。このまま王都へ戻れば、我々は任務失敗どころか、レオン様の面目が丸潰れですぞ」


 査察官ドランが青ざめた顔で言いました。


「分かっていますわよ! だから……これを使うのです」


 アリアは懐から、一本の笛を取り出しました。


 黒く禍々しい光を放つ、骨で作られた笛。

 それは、彼女が裏ルートで手に入れた禁断のアーティファクト、魔笛(イービル・フルート)でした。


「そ、それは……魔獣を興奮させ、呼び寄せるという……?」


「ええ。この笛を吹けば、周囲の魔獣たちは理性を失い、暴走(スタンピード)状態になりますわ」


 アリアの瞳に、狂気が宿りました。


「アイゼンラッド領は魔獣の多い土地。もし、大規模なスタンピードが発生すれば……」


「公爵領は壊滅する!!」


 ドランが卑しい笑みを浮かべました。  


「オーッホッホ! あの筋肉女も、魔獣の津波に飲み込まれてしまえばいいのです! さあ、おいでなさい、可愛い魔獣たち!」


 アリアは高らかに笑い、魔笛を口にくわえ――強く吹き鳴らしました。


 ヒュルルルルルゥゥゥゥ……ッ!!


 不快な高音が、風に乗って拡散していきます。

 その音は、生物の本能にある「闘争心」と「破壊衝動」を直接刺激する、呪いの旋律でした。


 ――ゴゴゴゴゴゴ……。


 直後。


 大地の底から、地響きが聞こえ始めました。

 遠くの森から、山から、無数の影が飛び出し、土煙を上げて公爵領の都へと殺到し始めたのです。


 オーク、ゴブリン、ウルフ、そして巨大なロックベア。


 普段は縄張りを争う魔獣たちが、今は一つの巨大な奔流となって、全てを喰らい尽くそうとしていました。


 ◇


 一方、アイゼンラッド公爵邸。


 夕食のプロテインと赤身肉を楽しんでいたルシナとジークフリートは、不穏な空気を感じ取ってカトラリーを置きました。


「……聞こえるか、ルシナ」


「はい、ジーク様。微かですが、地面が震えています。……この振動数、ただの地震ではありませんね」


 ルシナは床に耳を当て、振動を分析しました。


「不規則かつ多重的。数千、いえ数万の足音がこちらに向かっています。魔獣のスタンピードです」


「なんだと!?」


 ジークフリートが立ち上がりました。


 スタンピード。


 それは辺境における最大の災害です。

 かつて、一つの国を滅ぼしたこともあるという魔獣の大氾濫。


「すぐに騎士団を招集しろ! 領民の避難誘導を最優先だ!」


 ジークフリートの指示が飛ぶ中、ルシナは窓の外を見つめ、目を細めました。


「おかしいですね。この時期にスタンピードなんて……まるで、誰かが意図的に引き起こしたような」


 彼女の脳裏に、今日逃げ帰ったアリアたちの顔が浮かびました。


 まさか。

 いくらなんでも、そこまで愚かではないはずだ。


 しかし、現実は非情でした。

 城壁の警鐘が、けたたましく鳴り響きます。


 カンカンカンカンッ!!


「報告! 東の森から魔獣の大群が接近中! その数、目算で1万以上!」


「1万……!?」


 騎士たちが色めき立ちます。


 1万の魔獣。

 それは、この領地の全戦力を投入しても、防ぎきれるか分からない絶望的な数字でした。


 だが。  

 ジークフリートは、不敵に笑いました。


「慌てるな。……我々は、この日のために鍛えてきたのではないか?」


 彼はゆっくりと、上着を脱ぎ捨てました。

 露わになる、究極の肉体美。


「筋肉は、裏切らない。今こそ、その証明をする時だ!」


 ルシナもまた、聖女服の袖をまくり上げ、拳を鳴らしました。


「その通りです、ジーク様。1万匹? いいえ、それは『1万セットのサーキット・トレーニング』の間違いですわ!」


 二人の背中に、見えない炎が立ち上りました。


 絶望的なスタンピードを前に、彼らは恐怖するどころか、過去最大規模の「筋トレ・イベント」として迎え撃つ気満々だったのです。


「総員、配置につけ! 本日のメニューは『魔獣殲滅(有酸素運動)』だ!」


「「「イエッサーッ!!!!」」」


 アイゼンラッド公爵領、史上最大(そして最狂)の防衛戦が、今始まろうとしていました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


負け犬の遠吠えが、物理的な災害を呼び寄せました。

アリアさん、やってしまいましたね。これはもう、言い逃れできない重罪です。

しかし、我らが筋肉軍団にとっては「ご馳走(経験値)」にしか見えていないようです。

1万の魔獣 vs 筋肉。

普通のファンタジーなら絶望的な展開ですが、この作品では「お祭り」です。


「逆恨みの規模がデカすぎる」 「1万は草」

と笑っていただけましたら、 【ブックマーク】登録と、 記事下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、騎士団の士気が向上します!

(★評価、本当にありがとうございます! 皆様の応援が最強のバフです!)


次回、筋肉による防衛線マッスル・ウォールが展開されます。 盾? いえ、大胸筋です。

明日も更新します!

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