表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/17

第17話 勘違いの告白(契約期間は「死ぬまで」です)

 床板を破壊した伝説のワルツから、数十分後。

 夜会の熱気から逃れるように、ジークフリートとルシナは、人気のないバルコニーに出ていました。


 冷たく澄んだ夜風が、火照っ(パンプアップし)た二人の体を優しく撫でます。

 月明かりの下、ジークフリートは真剣な眼差しでルシナを見つめました。


「……ルシナ」


「はい、ジーク様。プロテインならまだ隠し持っていますよ?」


「いや、そうじゃない」


 ジークフリートは苦笑し、手すりに手をつきました。

 ミシッ、と石の手すりが悲鳴を上げましたが、今の彼には微調整(手加減)がまだ難しいようです。


「今夜、確信したんだ。私はもう、君なしでは生きられないと」


 彼の言葉は、重く、熱を帯びていました。


 かつて死を待つだけだった自分に、生きる力と、立ち上がる足と、そして破壊的なまでの自信を与えてくれた少女。

 彼女への感情に、もはや名前をつける必要すら感じませんでしたが、あえて言葉にするなら――それは「崇拝」に近い「愛」でした。


「君のおかげで、私は生まれ変わった。だが、この体は……この心は、君がいなければ維持できない」


 ジークフリートは一歩、ルシナに近づきました。


「もし君がいなくなれば、私はまた弱く、脆い存在に戻ってしまうだろう。……それが怖い」


 それは、彼なりの弱さの吐露であり、愛の告白でした。

 「君が必要だ」という、魂の叫びです。


 一方。


 その言葉を受けたルシナの脳内では、超高速の筋肉演算が行われていました。


(……なるほど。ジーク様は『筋分解(カタボリック)』を恐れているのですね!)


 ルシナは深く頷きました。


 無理もありません。

 急激に作り上げた筋肉は、維持管理(メンテナンス)が大変です。

 トレーニングをサボり、食事管理を怠れば、体はすぐに元の省エネモード(ガリガリ)に戻ろうとします。

 ホメオスタシスという名の悪魔です。


(専属トレーナーである私が離れれば、彼は甘えが出てトレーニングをサボるかもしれない……。そうなれば、あの美しい大胸筋もしぼんでしまう。それは人類の損失!)


 ルシナの使命感に火がつきました。


 彼女はジークフリートの目を真っ直ぐに見返します。


「ご安心ください、ジーク様。私はどこにも行きません」


「ルシナ……!」


「貴方の体は、まだ完成していません。今の大きさ(バルク)は素晴らしいですが、キレ(ディフィニション)が甘い。これからさらに彫刻のように仕上げていく必要があります」


 ルシナは熱弁します。

 ジークフリートには「二人の関係を深めていこう」という愛の言葉に聞こえています。


「だから……契約を更新しましょう」


 ジークフリートは、ルシナの手を取り、その指先に口づけを落としました。

 貴族の最上級の求愛行動です。


「ルシナ・ヴァレリウス。私の生涯のパートナーとして……ずっと、私の傍にいてほしい。君の全てを、私に預けてくれないか?」


 それは、実質的なプロポーズでした。

 「妻になってくれ」という言葉こそありませんが、貴族社会においてこれ以上の誓いはありません。


 ルシナは頬を染めました。

 そして、力強く答えました。


「はい! 喜んで!!」


(やった! 『終身雇用契約』キターーーッ!!)


 ルシナは内心でガッツポーズをしました。


 生涯のパートナー。


 つまり、死ぬまで衣食住とジム使い放題が保証されたということです。

 しかも、「君の全てを預けてくれ」ということは、トレーニングメニューの考案から食事管理まで、全権を委任されたということでしょう。

 トレーナー冥利に尽きます。


「契約成立ですね、オーナー!」


「……ああ。愛しているよ、ルシナ」


「私もです! 貴方の大殿筋と広背筋を、誰よりも愛しています!」


 ジークフリートは、感極まってルシナを抱き寄せました。  


 ガシィッ!!


 「抱擁」というよりは「組み技(クリンチ)」に近い衝撃音。


 互いの筋肉が緩衝材となり、骨が守られます。


「(ああ……なんて硬く、頼もしい体なんだ。彼女となら、どんな困難も物理的に粉砕できる)」


「(んんっ! 素晴らしい締め付け! これは前鋸筋が発達していないと出せない圧力です!)」


 月明かりの下、二人は強く抱き合いました。


 心はすれ違ったまま。

 けれど、筋肉と筋肉は、確かに理解し合っていたのです。


 バルコニーの陰で、その様子を盗み見ていたメイドや執事たちが、「ついに!」「春が来たわ!」「赤飯を炊けぇぇっ!」と泣き崩れていることなど知らずに。


 こうして、二人の間には「鋼鉄の絆(物理)」が結ばれました。

 それは、後に王都をも巻き込む大騒動の中心となる、最強夫婦の誕生の瞬間でもありました。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

これにて、名実ともに(?)二人はパートナーとなりました。

公爵様:愛の告白 ルシナ:終身雇用契約(福利厚生MAX)

……まあ、結果オーライです。幸せならOKです。

「会話のドッジボールが凄い」 「筋肉で通じ合ってるからヨシ!」

と、二人の門出を祝っていただける方は、 ぜひ【ブックマーク】と 記事下の【☆☆☆☆☆】で評価をお願いいたします!

(★評価いただけると、作者のモチベーションが有酸素運動後のように高まります!)


さて、次回からは第3章「王都動乱編」へ突入します。 幸せな二人の元へ、空気を読まない「あの男(元婚約者)」からの使者が……?

明日も更新します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ