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第15話 背中に鬼(オーガ)を飼う聖女

 アイゼンラッド公爵家が主催する春の夜会。

 それは、復活したジークフリート公爵のお披露目の場であり、彼を救った聖女ルシナを社交界に紹介する重要なイベントでした。


 しかし、開催数時間前の公爵邸・衣装部屋では、深刻な「物理的闘争」が繰り広げられていました。


「ル、ルシナ様! 息を! 息を吐いてくださいッ!」


「吐いてます! これ以上ないほど腹横筋を収縮させていますわ!」


 数人のメイドが、ルシナの背中に取り付き、必死の形相でドレスのファスナーを引き上げようとしています。

 しかし、ファスナーは背中の半ばで膠着し、ジジジジ……と悲鳴を上げて停止していました。


 原因は明白。

 ルシナの広背筋(ラット)です。


 一見、華奢に見えるルシナですが、その背中は日々の懸垂(チンニング)とデッドリフトによって、極限まで発達していました。

 特に、脇の下から腰にかけて広がる筋肉の翼は、既製品のドレスが想定する「貴族令嬢の背中」の規格を遥かに超えていたのです。


「ダメです! これ以上上げたら、布が裂けます!」


「うぬぬ……。やはり、背中のパンプアップが冷めやらぬうちに試着したのは失敗でしたか」


 ルシナは困り顔で言いました。

 直前まで、筋肉のカットを美しく出すために「軽い腕立て伏せ500回」を行っていたのが裏目に出たようです。


「仕方ありません。……プランBで行きましょう」


 ルシナは決断しました。

 彼女は、用意されていた予備のドレス――背中が腰まで大きく開いた、大胆な「バックレス・ドレス」を指差したのです。


「あれなら、背中の布面積がゼロなので、物理干渉は起きません」


「し、しかしルシナ様! あれはあまりにも露出が……それに、その……」


 メイド長が言い淀みました。


 露出度の問題ではありません。

 あの背中を、無防備に晒すことへの懸念です。


「構いません。筋肉は天然のドレスです。見せつけてやりましょう」


 ◇


 そして、夜会の時間が訪れました。


 煌びやかなシャンデリアの下、着飾った貴族たちが談笑しています。


「アイゼンラッド公爵、ジークフリート閣下! ならびに、聖女ルシナ様の御入場です!」


 ファンファーレと共に、大扉が開かれました。


 どよめきが走ります。


 現れたのは、見違えるほど逞しくなった公爵と、その腕に手を添える絶世の美少女。

 ルシナは、深いミッドナイトブルーのドレスを纏い、銀髪を結い上げていました。

 正面から見る彼女は、まさに聖女の名に相応しい、清楚で可憐な姿でした。


「おお……なんと美しい」


「公爵様もお元気そうで……」


 人々は感嘆し、二人の周りに人だかりができます。

 ルシナは優雅に微笑み、貴族たちに挨拶を返します。


「ごきげんよう。……あら、あちらに美味しそうなローストビーフ(タンパク質)がありますね」


 ルシナが興味を惹かれ、くるりと背を向けた、その瞬間でした。


 ザワッ……!!


 会場の空気が、一瞬で凍りつきました。

 貴族たちの目が点になり、令嬢たちが小さな悲鳴を上げて口元を覆います。


 露わになった、ルシナの背中。


 そこには――()がいました。


 極限まで脂肪が削ぎ落とされ、鍛え抜かれた筋肉群。

 僧帽筋から広背筋、脊柱起立筋にかけての隆起が複雑に絡み合い、照明の陰影によって、まるで「鬼が泣いている顔」のような模様(クリスマスツリー)を浮かび上がらせていたのです。


「な、なんだあれは……!?」


「背中に……魔物が張り付いているのか!?」


「い、いや、あれは筋肉だ……! だが、あんな背中をした女がいてたまるか!」


 恐怖と畏怖。

 それは生物としての本能的な「格の違い」を見せつけられた反応でした。


 普通の人間なら、ドレスを着ていても分かる「戦闘力」の高さに、誰もが言葉を失います。


 しかし。

 ただ一人、その背中を熱烈な瞳で見つめる男がいました。


「……素晴らしい」


 ジークフリートです。

 彼はルシナの背後に回り込むと、うっとりとした表情でその「鬼の顔」を見上げました。


「見ろ、あの僧帽筋中部(トラピジウス)の厚みを。まるで難攻不落の要塞だ」


「あら、ジーク様。褒めても何も出ませんわよ?」


 ルシナが恥ずかしそうに(嬉しそうに)肩をすくめると、背中の鬼がニタリと笑ったように動きました。  

 周囲の貴族が「ヒッ!」と後ずさります。


「いや、お世辞ではない。君のその背中は、どんな宝石よりも美しい」


 ジークフリートは、震える手でルシナの背中に触れようとして――その神々しさに気圧され、手を止めました。


「君のその背中は、我が領地の重責を、そして私の命を背負ってくれた証だ。……なんと頼もしく、愛おしい背中なのだろう」


 彼の目には、鬼の顔が「守護神」に見えているようです。

 完全にフィルターがかかっています。


「ジーク様……♡」


 ルシナは頬を染め、嬉しさのあまり、無意識に広背筋を広げるポーズ(ラット・スプレッド)を取りました。

 ブワッ!! と背中が扇のように広がり、ドレスの肩紐がピーンと限界まで張り詰めます。


「キャアアアアッ! 背中が! 背中が襲ってくるわーッ!」


 一部の令嬢が卒倒しました。

 会場はパニック寸前。


 しかし、当の二人は「愛の空間(マッスル・ゾーン)」に入っており、周囲の悲鳴など鳥のさえずりにしか聞こえていませんでした。


「さあ、ルシナ。踊ろうか」


「はい。有酸素運動の時間ですね!」


 こうして、伝説の夜会が幕を開けました。

 この後、二人のダンスによって床板が破壊されることになるのですが、それはまた()()()のお話。

最後までお読みいただきありがとうございます!


背中にオーガを飼う聖女、爆誕です。

いわゆる「範馬○刃」的な背中ですが、公爵様には天使の羽に見えているようです。

恋は盲目ですね。

「背中で語りすぎww」 「令嬢が気絶するレベルの背中とは」

と、その背中に魅了(恐怖)された方は、 ぜひ【ブックマーク】と 記事下の【☆☆☆☆☆】で評価をお願いいたします!

(★評価をいただけると、ルシナの広背筋がさらに広がります!)


次回、ダンスの時間です。

優雅なワルツ? いいえ、これは「格闘技」です。

床板の運命やいかに。

明日も更新します!

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