第13話 冒険者ギルド改装計画(ダンジョンに行く前にベンチプレス)
アイゼンラッド公爵領にある冒険者ギルド。
そこは、魔獣討伐を生業とする荒くれ者たちの溜まり場であり、常に酒と血と汗の臭いが充満している場所です。
しかし、今日の空気はいつもと違いました。
ギルドの扉が、蝶番ごと弾け飛ぶ勢いで開かれたからです。
「たのもう!!」
元気な挨拶と共に現れたのは、聖女ルシナでした。 彼女はギルド内を見渡し、眉をひそめました。
「なんと……。空気が澱んでいます。換気が不十分ですね。それに、皆さん姿勢が悪い! 猫背でエールを飲んでいては、腹直筋が緩んでしまいますよ!」
酒場の冒険者たちが「なんだあの嬢ちゃんは?」「聖女様か?」とざわつく中、ルシナはカウンターにいるギルドマスター(眼帯の強面)に詰め寄りました。
「ギルドマスター! このギルドの生存率が低い理由が分かりました!」
「ああん? いきなり来てなんだ。魔獣が強いからに決まって……」
「いいえ、違います。『基礎筋力』が足りていないからです!」
ルシナは、包帯を巻いて担ぎ込まれてきた若手冒険者を指差しました。
「彼を見てください。ゴブリンの棍棒を喰らったそうですが、もし彼に強靭な『大胸筋』があれば、棍棒など筋肉の弾力で弾き返せたはずです」
「いや、それは無理だろ……」
「無理ではありません! 筋肉は天然の鎧。鍛え上げれば鉄より硬くなるのです!」
ルシナはドンッ! とカウンターを叩きました。 厚さ5センチの樫の木のカウンターに、拳の形の穴が開きます。
ギルド内が静まり返りました。
「そこで提案です。このギルドを改装し、『筋肉の家』を併設しましょう」
◇
一週間後。
冒険者ギルドの様相は一変していました。
かつて資材置き場だったスペースは、ルシナの手によって更地にされ、石と鉄で作られた謎の器具が並ぶ空間へと変貌を遂げていました。
「いいですか、皆さん! クエストを受注する条件はただ一つ!」
ルシナは、巨大な石のバーベルが置かれたベンチの前に立ち、集まった冒険者たちに宣言しました。
「この『ベンチプレス』を1セット行うこと! それが通行手形です!」
「ふ、ふざけるな! 俺たちは魔獣を狩りに行くんだぞ! なんでそんな重い石を持ち上げなきゃならねぇんだ!」
ベテラン冒険者が抗議しますが、ルシナはニッコリと微笑みました。
「この程度の石が持ち上げられないで、仲間の命が持ち上げられますか?(物理)」
「ぐっ……!」
「さあ、まずは貴方から。大胸筋に意識を集中して……はい、挙上!」
半ば強制的にベンチに寝かされた冒険者は、ルシナの補助(という名の指一本での強制挙上)により、バーベルを持ち上げさせられました。
「ぐ、ぬおおおおっ!?」
「そうです、その重みが『生きる実感』です! 筋肉が熱くなってきたでしょう? それがパンプアップ……戦う準備ができた合図です!」
不思議なことに、バーベルを置いた冒険者は、肩周りが軽くなっていることに気づきました。
血流が良くなり、闘争本能が刺激されているのです。
「……あれ? なんか、調子いいぞ?」
「剣が軽く感じる……!」
それを見た他の冒険者たちも、恐る恐る器具に手を出し始めました。
スクワット・ラックで脚を震わせる魔法使い。
デッドリフトで背中を鍛える盗賊。
懸垂で広背筋を虐める戦士。
ギルドは瞬く間に、巨大なジムへと変わりました。
そして驚くべきことに、その月の冒険者死亡率は、過去最低を記録したのです。
魔獣に襲われても「筋トレの最後の1回に比べればマシだ!」という謎の根性が発揮されたからだとか。
「素晴らしい成果です。ですがマスター、一つだけ問題が」
「な、なんだ?」
「肉の消費量がハンパないです。クエスト報酬を現物支給に切り替えましょう」
こうして、アイゼンラッドの冒険者ギルドは「世界一生存率が高いが、世界一汗臭いギルド」として生まれ変わったのでした。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
冒険者ギルド=ジム。 ファンタジー世界の住人はステータス(筋力値)に頼りがちですが、ルシナに言わせれば「筋肉の形」こそが重要なのです。 魔法使いもスクワットをする時代が来ました。
「物理防御力アップ(筋肉)」 「死亡率低下の理由が脳筋すぎる」
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次回、数ヶ月が経過。 ついに公爵様が……「仕上がり」ます。 明日も更新します!




