第12話 魔獣シチュー(究極のパンプアップ食)
聖ルシナ農場(仮)の開墾は成功しましたが、種を蒔いてから収穫までには数ヶ月の時が必要です。
その間、騎士団や領民たちの腹を満たし、何より筋肉を維持するための食糧をどう確保するか。
ジークフリート公爵が頭を悩ませていると、ルシナが台車を押して現れました。
「ジーク様、朗報です。極上の食材を見つけました」
「食材? 輸入小麦が届いたのか?」
ジークフリートが期待して台車を見ると、そこには小麦粉の袋ではなく――巨大な「オークの太もも」が鎮座していました。
「……ルシナ嬢。これは?」
「オークです。先日、森で遭遇したので少し狩ってきました」
ルシナは愛おしそうに、丸太のような肉塊を撫でました。
「ご存知ですか? オークの肉は、牛や豚に比べてタンパク質含有量が3倍、脂質は半分以下。しかも、彼らは常に森を走り回っているため、遅筋と速筋のバランスが絶妙な『天然のサラダチキン』なのです」
「初耳だが……しかし、魔獣の肉は硬くて臭みが強く、食用には向かないとされているはずだが」
「それは調理法が間違っているからです!」
ルシナは台車を厨房へと押し込みました。
「私が最高に美味しく、そして筋肉に響く『マッスルシチュー』を作ってみせます。騎士団の皆さんを集めてください!」
◇
一時間後。
アイゼンラッド騎士団の練兵場には、大鍋が設置され、何とも言えない野性的な香りが漂っていました。
集められた騎士たちは、鍋の中身を覗き込んで戦慄しています。
「おい……あれ、オークの肉だよな?」
「骨ごと煮込まれてるぞ……」
鍋の中でグツグツと煮えているのは、拳大にぶつ切りにされたオーク肉と、大量の薬草、そしてルシナが「隠し味」と言って投入した謎の粉末(魔獣の骨を砕いたカルシウムパウダー)でした。
見た目は完全に「魔女の鍋」です。
「さあ、出来上がりました! 名付けて『オーク肉の特製マッスルシチュー』です!」
ルシナがお玉でたっぷりすくい上げ、ジークフリートに差し出しました。
ジークフリートは、ゴクリと唾を飲み込みました。
見た目はグロテスク。
しかし、ルシナの瞳は「これを食べれば強くなれる」と訴えています。
(……彼女が私のために作ってくれた料理だ。毒であるはずがない!)
彼は覚悟を決めて、肉にかぶりつきました。
ガブッ。
「……!」
瞬間、ジークフリートの目が大きく見開かれました。
硬いと思われた肉が、口の中でホロリと崩れたのです。
噛み締めるたびに溢れ出す濃厚な肉汁。
臭みは薬草によって消され、むしろ食欲をそそるスパイシーな香りに変わっています。
「う、美味い……!」
「でしょう! 圧力鍋で下処理をして、繊維を徹底的に断ち切りましたから!」
ジークフリートは夢中でシチューをかき込みました。
すると、胃袋から全身へ、熱い奔流が駆け巡ります。
力が……力が湧いてくる!
「おおおおおおっ!!」
バリィッ!!
ジークフリートが叫んだ瞬間、着ていたシャツの背中が弾け飛びました。
広背筋がパンプアップし、物理的に服を破壊したのです。
「なっ、閣下の服が弾けた!?」
「すげぇ筋肉だ……!」
騎士たちがどよめきます。
ルシナは親指を立てました。
「効果てきめんですね! さあ、皆さんも召し上がれ! 早い者勝ちですよ!」
その言葉に、騎士たちは我先にと鍋に殺到しました。
次々と上がる「美味い!」という歓声。
そして――。
バリッ! ビリッ! ブチチッ!
あちこちで服が破れる音が響き渡りました。
シチューを食べた騎士たちが、次々とその場でポージングを始めたのです。
「なんだこの力は……! サイドチェストォォッ!」
「上腕二頭筋が! 俺に語りかけてくる! ナイスバルク!」
「モスト・マスキュラー!!」
練兵場は、一瞬にしてボディビル大会の会場と化しました。
半裸のマッチョたちが、オーク肉のスープを啜りながら互いの筋肉を讃え合う地獄絵図。
ルシナはその光景を見て、満足げに頷きました。
「計画通りです。これで冬を越すための基礎代謝は確保できましたね」
「ああ……ありがとう、ルシナ。だが……」
半裸になったジークフリートは、困ったように笑いました。
「騎士団の制服代が、とんでもないことになりそうだ」
こうして、アイゼンラッド領の騎士団は「世界一強くて暑苦しい騎士団」として、その名を近隣諸国に轟かせることになるのでした。
食糧難は解決しましたが、今度は被服費(とプロテイン代)が財政を圧迫し始めるのですが――それはまた、別の話。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
魔獣も調理法次第で極上のプロテイン。 圧力鍋がないなら握力で代用すればいいじゃない、というマリー・アントワネット的な発想でした。 服が弾け飛ぶのは、この作品のお約束です。
「飯テロ(物理)」 「騎士団が汚染されたww」
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(★評価、本当にありがとうございます! 毎日ニヤニヤしながら見ています!)
次回、いよいよ「筋肉の聖地」が完成します。 冒険者たちへの布教活動の始まりです。 明日も更新します!




