第11話 開墾無双(岩盤は地球の肩こりです)
アイゼンラッド公爵領における最大の悩み。
それは、慢性的な「食糧不足」でした。
北の辺境であるこの地は、一年の半分が雪に閉ざされ、土壌は凍土のように硬く冷たい。
作物が育ちにくい環境に加え、地中には硬い岩盤層があり、農地を広げようにも鍬が立たないのです。
「……というわけで、我が領地は常に輸入に頼っている状態だ」
視察に訪れた荒れ地で、ジークフリート公爵は溜息をつきました。
彼が指差す先には、見渡す限りの荒野が広がっています。
所々に黒い岩が突出し、雑草さえ生えない不毛の大地。
「先代の頃から開拓を試みているのだが、この通りの岩盤だ。ツルハシもすぐに折れてしまう」
「なるほど……」
隣に立つルシナは、顎に手を当てて地面を観察しました。
そして、しゃがみ込み、地面を指でツンツンと突きます。
(カチカチです。まるで、ボディビルダーがコンテスト直前に水分を抜いて仕上げた時のような硬度……!)
普通の人間なら絶望するでしょう。
しかし、ルシナの紫色の瞳は、獲物を見つけた肉食獣のように輝きました。
「ジーク様。これは土が悪いのではありません」
「え?」
「土が『凝り固まって』いるだけです。血流が悪く、酸素が行き渡っていない。人間で言えば、ガチガチの『腰痛』状態ですわ」
ルシナは立ち上がり、袖をまくり上げました。
美しい二の腕の筋肉が、日光を浴びて躍動します。
「私が治療して差し上げます」
「ち、治療? まさか魔法で……」
「いいえ。魔法など使えば、土の生態系を壊してしまいます」
ルシナは荒野の真ん中に進み出ると、大きく足を開いて腰を落としました。
相撲の四股のような、安定感抜群のスタンス。
「大地よ、呼吸を思い出させてあげましょう!」
ドゴォッ!!
ルシナの両手が、地面に突き刺さりました。
岩盤? 凍土? 関係ありません。
彼女の指先にかかれば、岩も豆腐も同じです。
「ふんッ!!」
バリバリバリバリバリッ!!
彼女が腕を振り上げると、轟音と共に巨大な岩盤がめくれ上がりました。
まるで、カーペットをひっくり返すような手軽さで。
「なっ……!?」
同行していた農民たちが腰を抜かします。
しかし、ルシナは止まりません。
「ここも! あそこも! 全部まとめてほぐします!」
ドガッ! バキッ! ズドドドドドッ!!
彼女は目にも止まらぬ速さで地面を殴り、抉り、放り投げていきます。
その動きは、もはや開墾ではありません。
「大地への乱打」です。
岩は粉々に砕かれて砂利になり、固い土は空気を含んでフカフカの土壌へと変わっていきます。
いわゆる「天地返し」と呼ばれる農法ですが、それを重機なしの素手、しかも超高速で行っているのです。
「す、すごい……」
「聖女様が通ったあとが、瞬く間に農地になっていく……!」
十分後。
そこには、綺麗に整地され、程よく空気を含んだ極上の農地(東京ドーム一個分)が広がっていました。
ルシナは額の汗を拭い、爽やかに振り返ります。
「ふぅ。いい有酸素運動でした。広背筋への刺激が足りなかったので、もう少し深く掘り起こしてもよかったかもしれません」
「……」
ジークフリートは、新しく生まれた広大な農地を見つめ、そしてルシナを見ました。
彼の目には、破壊の跡ではなく、神聖な奇跡に見えていました。
「ルシナ……君は、大地の声さえも聞こえるのか」
「え? いえ、単に硬いところを重点的に揉みほぐしただけですが」
(やはり、彼女は謙遜しているが、これは『豊穣の儀式』に違いない……!)
ジークフリートは感動に打ち震え、農民たちに向かって宣言しました。
「皆の者、見たか! これぞ聖女の力だ! この土地は彼女の聖なる拳によって清められた! これより、ここを『聖ルシナ農場』と名付ける!」
わぁぁぁぁっ! と歓声が上がります。
ルシナは小首をかしげました。
「名前はともかく、これで野菜が育ちますね。ブロッコリーを植えましょう。あれは野菜の王様ですから」
「ああ、好きなだけ植えるといい。君の望むままに!」
こうして、アイゼンラッド領の食糧問題は、物理的な暴力によって解決の糸口を掴んだのでした。
なお、この畑で採れた野菜は、なぜか通常の二倍の大きさで、茎が極太に育つことになるのですが……それはまた別のお話。
ご愛読ありがとうございます!
第2章、開幕からフルスロットルです。 聖女様にかかれば、岩盤もただの「肩こり」と同じ扱いです。 これで農業も安泰(?)ですね。
「重機かな?」 「ブロッコリーへの執着ww」
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(★評価は執筆の栄養素です……!)
次回、食料問題の次は「タンパク質不足」の解消へ。 魔獣を使った禁断のグルメ回です。 明日も更新します!




