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第1話 聖女、解雇される

初投稿です。 物理で全てを解決する筋肉聖女と、これからマッチョになる予定の公爵様のお話です。

気軽に笑って読んでいただければ幸いです!


「ルシナ・ヴァレリウス! 貴様との婚約を、今この時をもって破棄する!」


 サンクチュアリ王国の王宮、その煌びやかな謁見の間。

 第一王子レオン様の金切り声が、高い天井に反響しました。

 

 周囲に控える貴族たちや衛兵たちが、ざわめきと共に私――筆頭聖女ルシナを見つめます。

 憐れみ、嘲笑、そして少しの恐怖。


 しかし、当の私はといえば、婚約破棄を宣告されたショックよりも、目の前のレオン様の立ち姿に眉をひそめていました。


(ああ……なんてことでしょう。レオン様、また猫背になっていますわ。あれでは脊柱起立筋への負担が大きすぎます。骨盤も後傾していますし、基礎的な体幹トレーニングが足りていませんね)


 私は職業病とも言える思考を巡らせながら、一応はお返事をしなければと口を開きました。


「あの、レオン様」


「ひっ……! ち、近づくな! その『手』をこちらに向けるな!」


 私が一歩踏み出しただけで、この国の次期国王たるレオン様は、まるで魔獣に遭遇した子ウサギのようにビクッと肩を跳ね上がらせ、 玉座の肘掛けにしがみつきました。


「……私の手を、そんなに怖がらなくてもよろしいではありませんか。私はただ、殿下の肩こりが酷そうだと」

「それが怖いと言っているんだ!!」


 レオン様は涙目になりながら叫びました。


「貴様の前回の()()のせいで、余は三日間、スプーンすら持てなくなったのだぞ! 『少し凝りをほぐしますね』と言って、万力のような力で肩を掴みおって……! あれは暗殺未遂だ!」


「人聞きの悪いことを仰らないでください。あれは深層筋(インナーマッスル)に直接アプローチする、私の独自の指圧です。少し揉み返しがあったかもしれませんが、その後は身体が軽くなったはずですわ」


「軽くなるどころか、肩の感覚がなくなったわ!」


 どうやら、私の真心込めた施術は理解されなかったようです。

 少し残念です。

 レオン様の筋肉は柔らかさが足りず、私の指圧を受け止めるだけの強度がなかったのが敗因でしょう。

 やはり、日頃から魔獣の干し肉(プロテイン)を摂取していただかなかった私の責任かもしれません。


 レオン様は震える指で、私の隣に控えていた可愛らしい女性を指し示しました。


「余が求めているのは、そこにいるアリアのような、優しく、痛みのない、光の魔法による癒やしなのだ! 貴様のような、骨がきしむ音がする暴力的な治療ではない!」


 アリアさん――最近頭角を現してきた、下級聖女の方です。

 彼女は私のことを見下すようにふふっと笑い、レオン様の腕に寄り添いました。


「そうですわ、ルシナ様。聖女とは、人々に安らぎを与えるもの。あなたのような『怪力女』が聖女の衣をまとっているなんて、国の恥ですわ」


「怪力……。いえ、これは神が私に授けた『健康への祝福』です」


「それを怪力と言うのです! ああ怖い。先日の夜会でも、ドレスの背中を破いていましたし」


「……あれは、くしゃみをした瞬間に広背筋がパンプアップしてしまっただけです」


 言い訳をしましたが、周囲の視線は冷たいままでした。


 この国では、「聖女=儚く、守られるべき存在」という美学が絶対です。

 確かに、見た目だけなら私も銀髪に紫の瞳、華奢に見える体型をしていますから、聖女らしくはあるはずです。

 ただ、法衣の下にあるのが、毎日の鍛錬で培われた、ダイヤモンドのような密度を誇る筋肉の鎧であるというだけで。


(ああ、アリアさん……そんなに殿下に寄りかかっては、殿下の重心がブレてしまいます。殿下も、格好つけて片足に体重を乗せるのはやめたほうが……腰椎に負担が……)


 私が心配そうに見つめていると、レオン様はそれを「未練」だと勘違いされたようで、鼻で笑いました。


「ふん、今さら悲しそうな顔をしても遅いぞ。ルシナ、貴様には国外追放を命じる!」


 レオン様が高らかに宣言しました。


「北の辺境、アイゼンラッド公爵領へ行け。あそこなら魔獣も多い。貴様のその無駄な腕力も、多少は役に立つだろう!」


 アイゼンラッド公爵領。


 極寒の地であり、凶暴な魔獣が跋扈する危険地帯。

 そしてそこを治める公爵閣下は、『死神』と恐れられる人物だと聞いています。

 普通の令嬢なら、泣いて慈悲を乞う場面でしょう。


 しかし、私の瞳は輝きました。


(北の辺境……! 高地トレーニングに最適な環境! それに魔獣のお肉は高タンパクだと聞きます!)


 私は満面の笑みを浮かべ、スカートの裾を掴んで優雅に(カーテシー)をしました。

 床の大理石が、私の爪先で少しヒビ割れた気がしましたが、誰も気づいていないようです。


「承知いたしました、レオン様。今までお世話になりました」


「は……? な、なぜ笑って……」


「殿下の筋肉が未熟だったことだけが心残りですが……どうぞお健やかに。ただ、今の姿勢のままだと、十年後には腰痛で動けなくなると思いますので、ぜひ『プランク』を一日三分行うことをお勧めいたします」


「で、出て行けえええっ!!」


 レオン様の絶叫を背に、私は足取り軽く謁見の間を後にしました。

 

 さあ、これからは思う存分、筋肉を愛でる生活の始まりです!


最後まで読んでいただきありがとうございます!

「王子、腰やりそうだな(笑)」 「聖女のメンタルが強い」

と少しでも楽しんでいただけましたら、 【ブックマーク】登録と 下にある【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、執筆のモチベーションがパンプアップします!

次回、「馬車より速く走る聖女」。 明日も更新します!

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