表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生先が自作の黒歴史小説とか聞いてない! ~残念王国への追放だけは絶対回避します~  作者: 猫野 にくきゅう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

第5話 逃避行の果て――真実の愛

 私は王都にいた。

 新調した豪奢なドレスをまとい、最高級レストランで優雅にフィレ肉を切り分けていた。


「……美味しい。でも、目立ちすぎるわね」


 本当は目立たないように、フードを被って露店で串焼きでもかじりたかった。

 だが、それができない切実な理由がある。

 私の所持金はゼロ。

 あるのはタマキン王子から巻き上げた「プラチナカード」のみ。


 この世界の決済事情において、露店は現金(硬貨)のみだが、高級店にはカード決済用の魔道具が備わっているのだ。


「カードが使えないんじゃ仕方ないわよね。食い逃げするわけにもいかないし」


 私は赤ワインを傾けながら、通りを行き交う衛兵たちを見下ろした。

 彼らは必死な形相で、緑髪の国際テロリスト(手配書の似顔絵)を探している。


「でも、いつまでもこの生活を続ければ、いずれ足がつく」


 レストランを出た私は、その足で高級宝飾店に入り、貴金属を購入した。

 そして、それを裏通りの質屋に持ち込み販売する。


「これでマネーロンダリング完了よ」


 いわゆる資金洗浄である。

  カバンに大量の金貨をねじ込み、私は不敵に笑った。


「さて、行きますか」


 私は愛馬に跨り、王都の門をくぐり抜けた。

 さらば、都会の喧騒よ。

 私は田舎でスローライフを送るのだ。



 ***


 王都から地方へと続く、人気のない街道。

 私は危機に瀕していた。


 下品な笑みを浮かべた盗賊たちが、後ろから迫ってくる。

 

「油断していたわ。質屋に入る前からマークされていたのね!」


 私は馬に鞭を入れた。

 この馬は、「チン=ポコリン王国で一番足の速い馬」だ。並大抵の駄馬に追いつけるはずがない。 盗賊たちが放つ矢も、馬が勝手にステップを踏んで回避していく。


「ナイスよ。馬!」


 だが、この馬は昨日、チン=ポコリン王国からデス=ロード王国まで、不眠不休で走り抜けてきていた。


 ガクンッ。


「え?」


 速度が低下する。

 スタミナ切れだ。


「へっへっへ、観念しな」

「まずはその服を剥いでやるよ」


 あっという間に、薄汚い男たちに周囲を取り囲まれる。

 絶体絶命のピンチ。


 私が目を閉じた、その時だった。


 バリバリバリッ!!


 青白い閃光が走り、轟音が森を揺らした。

 目を開けると、盗賊たちが白目を剥いて痙攣し、地面に転がっている。

 森の奥に、一人の少女が立っていた。


 風になびくピンクブロンドの髪。

 凛とした瞳。


「エミリア……?」


 そこにいたのは、王宮にいるはずの正統派ヒロイン、エミリア・ブラウンだった。

 彼女はまだ紫電を纏う杖を下ろし、私を見て微笑んだ。


「ご無事ですか、リリアンヌ様」


 なんて美しいのだろう。

 その笑顔を見た瞬間、私の胸が高鳴った。

 雷に打たれたような衝撃。


 ああ、私は今、恋に落ちたのだ。



 **


「ど、どうしてここに? グレイトアーサー王子との婚約は?」


 私が尋ねると、エミリアは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「王子との婚約は破棄し、今は実家に……」


 原作とは異なる展開だ。


「ええっ!? なんでまた!?」


 エミリアは深くため息をついた。


「あの方が……王子が、リリアンヌ様のあのお姿を忘れられないと仰って……」 「あのお姿?」


「あの奇妙な謝罪スタイルです」


 私は耳を疑った。


「王子は事あるごとに、『エミリア、そこの床にはいつくばって、身を丸めるんだ』と強要してくるのです。あの人は、変態でした」


「…………」


 なんということだ。

 私の決死の土下座が、王子の性癖を歪めてしまったらしい。エミリアは、ドン引きして逃げ出してきたというわけだ。


「私は男爵家の領地で暮らしています。辺境ですが、静かで良いところです。リリアンヌ様、もし行く当てがないのなら……一緒に来ませんか?」


 エミリアが手を差し伸べてくる。

 私はその手を、迷わず握り返した。



 ***


 それから数ヶ月後。

 デス=ロード王国の辺境にある、小さな男爵領。

 のどかな田園風景の中に、私の姿はあった。


「ふふふ~ん♪」


 私は鼻歌交じりに、洗濯物を干していた。

 手にあるのは、エミリアの肌着だ。


 かつて公爵令嬢だった私は今、エミリア専属のメイドとして働いている。

 ここでは私は、ただの「リリー」だ。


「リリー、お茶にしましょうか」


 屋敷からエミリア様が顔を出す。

 彼女の笑顔を見るだけで、私の心は満たされる。


 変な名前の国に嫁ぐこともなく、変な性癖の王子に付き合うこともない。

 愛する人に尽くしながら、ひっそりと暮らしていく。


「はい、ただいま!」


 私は彼女の元へと駆け出した。

 これが、私のたどり着いたハッピーエンド。

 元悪役令嬢は、世界一幸せなモブキャラとして、この世界で生きていくのだ。


 ―END―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ