第4話 爆破、そして逃走。さらばチン=ポコリン
結婚式前夜。
私は、結婚式場を爆破した。
『ドガーーーーン!!!』
深夜のチン=ポコリン王国に、鼓膜を破らんばかりの爆音が響きわたる。
振り返れば、闇夜に巨大な火柱が上がっていた。
純金製のチャペルが、内側からの衝撃でひしゃげ、金色の破片を撒き散らしながら崩壊していく。
「火事だー!」
王城は大パニックに陥っている。
金ピカの城が炎に照らされる様は、さながら終末の光景だ。
その頃には、下手人の私は馬に乗って荒野を駆けていた。
「――計画通りね」
馬の背で揺られながら、私は冷ややかな目で燃える式場を一瞥した。
チン=ポコリン王国は、私が設定した通り「世界一裕福な国」であり、個々の戦闘能力も高い「強者ぞろい」だ。
だが、その設定が仇となった。
彼らは自分たちの国が攻められるなど微塵も思っていない。平和ボケと慢心の極みにあるため、内部からのテロに対する警備はザルそのものだった。
「これで、私は爆発に巻き込まれて死んだことになる。完全犯罪成立よ」
死体が見つからなくても、「爆発で消し飛んだ」と解釈されるだろう。
私は前を向いた。
目指すは、生まれ故郷のデス=ロード王国。
(勘当されたとはいえ、実家に戻って事情を話せば、お父様もお母様も匿ってくれるでしょう)
私はそんな甘い見通しで、馬に鞭を入れた。
***
翌日の昼下がり。
私は不眠不休で馬を走らせ、デス=ロード王国の国境を越え、実家の公爵邸へとたどり着いた。
「……やっと着いたわ」
ドレスは汗で汚れ、髪もボサボサだ。
だが、この門をくぐれば温かいベッドと食事が待っている。
私は門番に声をかけようと、馬を進めた。
ヒュンッ!
風切り音と共に、私の足元に矢が突き刺さる。
「え?」
見上げれば、実家の屋敷の塀の上に、弓を構えた衛兵たちがズラリと並んでいた。
「犯罪者が現れたぞ!」
「生け捕りにしろー!」
「王宮で衛兵を昏倒させ、労役から逃亡したリリアンヌだ! ひっ捕らえて王家に差し出せっ!」
殺気立った声が飛んでくる。
「はあ!? ちょっと待ちなさいよ!」
私は叫んだ。
王宮の衛兵を昏倒させたのは、私じゃない。
タマキン王子だ。
「問答無用! 放てー!」
第二射が放たれる。
私の言葉など聞く耳持たずだ。
この国の単細胞どもに、複雑な事情など通じないか……。
「くっ……! 覚えてなさいよ!」
私は踵を返して逃げ出した。
実家すらも敵。
私の味方は、この世界には一人もいない。
「何てこと、私が犯罪者だなんて……」
とりあえず、詳しい情報を集めなくてはならない。
私はフードを目深に被り、王都の路地裏へと身を隠した。
目指す場所は一つ。
「冒険者ギルド」
私が書いた小説には、そんな施設を出した覚えはない。
だが、ここはファンタジー世界だ。
あるに決まっている。
予想通り、王都の酒場の隣に、剣と盾の看板を掲げた建物があった。
私は人目を避けて中に入り、掲示板のコーナーへと向かう。
そこには、依頼書と共に「手配書」が貼られていた。
「……なっ」
私は絶句した。
一番目立つ場所に、私の名前が書かれた紙がある。
【指名手配:元公爵令嬢リリアンヌ】
だが、そこに描かれている似顔絵を見て、私は我が目を疑った。
「何よこれ!」
似顔絵は、本人とは似ても似つかないような不細工だった。
アホ丸出しの、知性のかけらもなような顔。
しかも、決定的に違う点がある。
「髪の色が違うじゃない!」
私の髪は「艶やかな黒髪」だ。
だが、手配書の女の髪は緑色に塗られている。
「この私を、不人気キャラにしたいのか……!」
だが、驚くのはそれだけではない。
手配書に書かれている罪状だ。
【罪状1:デス=ロード王宮における傷害および逃亡罪】
【罪状2:チン=ポコリン王国神殿爆破および、第一王子暗殺未遂】
その下には、赤字でデカデカとこう書かれていた。
【国際テロリスト】
「なんじゃそりゃ~~!?」
私は思わず声を上げてしまった。
ギルド中の視線が集まるが、それどころではない。
暗殺未遂?
神殿から人払いをして、誰も死なないように配慮のに?
私の優しさを返せ!
いや、それよりも。
「なんでバレてるのよ!?」
完全犯罪のはずだ。
私は死んだことになっているはず。
それなのに、なぜ私が犯人だと断定され、しかも国境を越えて手配書が回っているのか。
しかも、昨日の今日だぞ?
「仕事が速いにもほどがあるでしょ!」
私の魂のツッコミが、ギルドの天井に虚しく響いた。
どうやら私は、追放回避どころか、両国から追われるテロリストになってしまったらしい。




