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【第2部連載開始】戦場帰りの聖女は「穢れた」と断罪され追放されたけれど、獣人の王に拾われて契約結婚したら溺愛されました~追放した王国が滅びかけて土下座してきましたが私はもう戻りません~  作者: 桜塚あお華
第2章 穢れた聖女、獣人の王に溺愛されていく

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第73話 一時の別れ

 王宮の中庭には、秋風が吹き抜けていたのを感じる。

 長い包帯を外し、黒い上衣に袖を通したグランドは、護衛の目をすり抜けて、門の前に立っていた。

 剣も鎧もない。

 ただ一振りの短剣を腰に差し、ひとり歩くには充分すぎる殺気を纏っている。


「行くのか?」


 背後からかかった声に、グランドは振り返る。

 その声の主は、白き衣に身を包んだ王妃――セラフィーナだった。

 柔らかな微笑をたたえながら、彼女は足取り軽く近づいてきた。


「まさかお前が来るとは思わなかった……護衛たちの視線が痛いな」

「いいんだ、私が呼んだのだから……と、言いたいが、実は勝手についてきたんだよなぁ」

「……やれやれ。どこまで無防備な王妃様なんだな」


 そう言いながらも、グランドの表情はどこか穏やかだった。

 彼の瞳に映るセラフィーナの姿は、戦場で見た祈っていた、弱い聖女ではない。

 誰かのために傷つくことを選び、今なお歩き続ける――ひとりの「強い女」だった。


(……ん、弱いか?)


 ふと、昔の出来事を思い出す。

 数秒だけみたあの時の血だらけ(返り血)の聖女は弱い女だっただろうか?

 今更ながら、周りの騎士たちに支持をしながら怒鳴っていた事もあったなとグライドは思い出していた。


「グライド?」

「いや、なんでもない……昔の事を思い出してしまった。この借りは必ず返させてもらう」

「……借り、なんて思ってないぞ?あなたが生きてくれた、それだけだ」


 ふと、セラフィーナの目が細められた。

 その瞳は、どこか懐かしさを宿すように彼をまっすぐ見つめる。


「……あなたの瞳、戦場で見た時と変わらないな」


 セラフィーナの言葉に対し、グランドは一瞬だけ息を止める。

 そして――ほんのわずか、苦笑を浮かべた。


「変わっちゃいねえさ。変え方なんざ知らねえしな」


 風が、二人の間をすり抜けていく。


「だが……」


 そこで、グランドは小さく呟くように続けた。


「……変えたいとは、思い始めてる」

「……」


 セラフィーナは言葉を返さなかった。

 ただ、その声が本音であったことを感じているかのように。

 そして、たしかに彼の瞳にあった【焔】が、少しだけ色を変えていたことも。


「……お前は、変わらずそこにいるんだな。あの時も、今も、ずっと、誰かのために」

「ああ……それが、私だから、なのかもしれないな」


 セラフィーナの言葉に対し、グライドは黙ったままだった。

 ふと、グランドは、どこか言いにくそうに頭を掻いた。

 その仕草は、不器用な感じのようにも見えて。


「……なあ、王妃様」

「なに?」

「もし……俺が、誰でもなく『お前』だけを救いたいって思ったら……それは、ある意味俺の願いでもあるか?」


 セラフィーナは、驚いた顔をした後、笑った。


「ああ、もちろんだ」


 その笑みに、グランドは照れ隠しのように鼻を鳴らすとそっぽを向いて背を向けた。


「ったく……やっぱり変な女だ、お前は」

「そうか?」

「王様も大変だな……感じるか?」

「……向こうで護衛に交じって睨んでいるな……すまない」

「ああ、気にするな……もう、慣れた」


 会話が終わった後、グランドは足を止めずに言った。


「ひとつ、忠告しておく──【異端の印章】を見たら逃げろ」

「……!」


 セラフィーナの表情が、わずかに引き締まる。


「奴らは、信仰を騙る【人間】であって、神じゃない。ある意味、神に見せかけた悪魔だ」


 その声は、冗談でも誇張でもなく、ただ事実として紡がれたものだった。


「お前が祈りを捧げる相手は、間違えるなよ。あの連中は【信仰】そのものを利用して何かを喚ぼうとしてる」

「……わかった……ありがとう、グランド」


 彼は静かに笑った後、ゆっくりと歩き出す。

 門の先の風を感じながら、小さく呟くように応える。


「……またな、王妃」


 その背に向かって、セラフィーナは一歩踏み出した。

 そして、迷いのない声で言葉をかける。


「待て一つだけ……前も言ったけどまだ、あなたの身体には呪いの痕が残っている。完全には癒えていないし、無理をすれば、命取りになるかもしれない」


 グランドの足が、ほんのわずかに止まる。

 彼は振り向かず、静かに答えた。


「知ってるさ……でも、止まってる方が、死にそうだからな」

「それでも……」


 セラフィーナの声が、少しだけ強くなる。


「もし、また何かあった時は――ちゃんとこの国に……フェルグレイに来て……私のいる場所に必ず来るんだ」


 その言葉に、風が舞い、グランドの黒い髪が揺れた。

 彼はしばし沈黙し、そして――静かに、だが確かに、頷いた。


「……考えとくよ」


 不器用な返事。だが、それは彼なりの【約束】だった。


 そうして、グランドはフェルグレイを去った。


 その背中には、まだ【呪い】が残っている。

 癒えぬ傷、晴れぬ過去。

 だが確かに、彼の中で何かが変わり始めていた。


「――行ったか?」

「睨みつけるのはやめてほしいと言ったぞ、ライグ」

「……」


 グライドが見えなくなった後、静かに息を吐きながら現れた王に、セラフィーナは息を静かに吐く。

 そんな彼女に目を向けた後、ライグは言った。


「……これから忙しくなりそうだな」

「ああ、そうかも、な」


 これから何が起こるのか、わかっていない。

 しかし、自分たちに【魔の手】が迫っている事を感じながら、二人は手を静かに握り合った。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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