第70話 黒焔、フェルグレイに留まる
指を怪我してめっちゃ腫れておりまして、うまく文章打てない感じです。
毎日更新難しくなってます、すみません( ノД`)シクシク…
本日も2話更新です。
16時と19時です。
その知らせは、昼下がりの執務室に届けられた。
重厚な扉が開かれ、ライグの側近が一礼して入室する。
「陛下、【黒焔の傭兵】が目を覚ましたとの報告がありました」
その名を聞いた瞬間、ライグ・ヴァルナークの手が止まった。
机の上に置かれていた書類を静かに伏せ、彼はふうっと天井を仰ぐ。
「……ようやくか。命の芯まで焦がれていたようだが……」
目を閉じたまま、額に手を当てて低く呟く。
そして、ゆっくりと椅子を引いて立ち上がった。
「……会いに行ってやる。俺の寝台を使った礼を言いにな」
その言葉に、側近の男がわずかに身をすくめる。
「……あの、陛下。どうか、怒られませんよう……できれば、穏便に……」
「怒ってなどいない」
「顔がもう怒っておられます」
「それは王としての威厳なんだ」
「剣に手が伸びかけていたのは見なかったことにします」
「よろしい、案内しろ」
「……ご案内いたします」
側近が額に薄く汗をにじませながら一礼し、ライグはその背に続いた。
執務室の扉が静かに閉まり、鈍い音が木に染み込んで消えていく。
廊下を歩む二人を見た周りの人物たちは、怪我人は大丈夫なのだろうかとちょっと心配になるのであった。
▽
白いカーテンが揺れる静かな病室には、重く張りつめた空気が漂っていた。
包帯に巻かれたまま寝台に腰掛けていた男――グランドは、扉が開かれると同時に顔を上げ琥珀色の瞳で入室者を睨んだ。
扉をくぐったのは、国王であるライグ・ヴァルナーク。
その背には騎士たちが控えていたが、王の一瞥ですぐに無言で退室していった。
「ようやく顔を見たな、【黒焔】の男」
「……フェルグレイの王様か」
短く交わされた挨拶――だがその視線のぶつかり合いには、言葉以上の剣戟があった。
その場に、セラフィーナ・ミレディスもいた。
彼女は寝台のすぐ横、椅子に腰掛け、患者の脈を測る手をそっと引いたまま、二人の間の火花に静かに眉をひそめた。
「……できれば、喧嘩は医務室の外でお願いしたいところなんだけど」
淡く、だが芯の通った声だった。
それに、グランドが小さく口角を上げる。
「そいつはすまないな。どうにも寝起きが悪いらしい」
「なら、もう少し礼儀を覚えてから目覚めることだ」
セラフィーナの返しに、ライグが一瞬だけ目を細める。
だが、再びグランドを見据え、低く告げた。
「まず最初に言っておく。俺の王妃にこれ以上手を出したら──その時は容赦なく殺す」
「ら、ライグ!!」
まさかそのような言葉が出てくるとは思っていなかったセラフィーナは叫ぶ。
言葉には熱がなかった。
だがその奥に、明確な殺意と独占の意思が滲んでいた。
「……王族ってのは、皆そういう言い方しかできないのか?」
「他に必要か?俺は『事実』を述べただけだ」
グランドが静かに起き上がり、痛みに顔をしかめもせず目だけで返す。
「……王妃が助けたから、生きてる。それは事実だ……それ以上でも以下でもない」
「目を向けたという事実が、気に食わんと言ってる」
「なら、お前じゃなくて王妃に言え。お前の寝台がとか、嫉妬深すぎるぞ」
「言ったとも。とっくにな。だがまだ言い足りん。だから今ここに来たんだ」
「……やれやれ」
ふたりの男のやり取りを見つめていたセラフィーナが、やや呆れたように口を開く。
「はぁ……ライグ。私はあなたの妻だぞ?不安になる気持ちはわかるけど、それを怒りに変えないでくれないか?今は、敵じゃない……多分」
「……わかってる。だが【男】としては気になる。それだけだ」
「【王】としても忘れないでくれ、頼むから」
ぴしゃりと言われて、ライグが口を閉ざす。
一瞬だけ視線を逸らし、すぐに話題を変えるように切り替えた。
「……で、傭兵。お前がフェルグレイに来た理由は?」
「追われていた。そう長くは隠れていられなかった」
「追ってきたのは、どこの誰だ?」
ライグの言葉にグランドはわずかに目を伏せ、低く呟く。
「【黒い印章】を持つ連中だ」
その名前にライグの表情が変わる。
セラフィーナもまた、椅子の背に背中を預けたまま眉を寄せた。
「……異端か」
「知っていたのか?」
セラフィーナがライグに視線を向ける。
「噂程度だ。だが、確証はなかった。お前の口から出たなら話が変わる」
ライグの声は冷静に戻っていた。
それを見て、グランドも視線を上げ真っ直ぐに告げる。
「奴らは【信仰の解放】を掲げてるが、やってることはただの侵略だ。ゼルトフェリアの西辺境は既に一部を飲まれてる……お前たちの国境にも、じきに波が来る」
その言葉に、部屋の空気が変わる。
セラフィーナが静かに目を閉じ、小さく呟いた。
「……また、信仰が歪もうとしてるのか、腐っているな」
その声音は、静かだった。
けれど、内側には過去から続く深い痛みと決意が宿っていた。
「セラ……」
ライグが一歩、彼女の横に寄る。
だがセラフィーナは、小さく首を振って答える。
「大丈夫だ。それにもう私は聖女じゃない……信仰が人を殺すのなら、私はそれに抗う」
その言葉に、グランドが目を見開いた。
そして、ゆっくりと目を伏せ微かに呟く。
「……敵を前にして、祈っていた【あの瞳】と……同じ、だな」
「え?」
「いや……なんでもないさ」
それは確かな記憶――嘗てグライドが戦場で見た、名も知らぬ祈り手の眼差し。
その光が、今もこの王妃の中にあると気づき、彼はわずかに心を揺らしていた。
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